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バイナリー・オポジション  作者: ハゲタカ
第3幕 鏡の国から
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新たな朝

 洋也が轟音と共に起き上がる。


 その音源は、すぐ左に設置されたテレビからだった。


「ちょっと、なんで当たらないのよ!」


 苛立つサクリファイスの声が聞こえる。


 手にはコントローラー。


 ゲームをしているようだ。


 主観の、FPSと呼ばれる種類のゲームだ。


「朝っぱらから何している?」

「見てわからないかしら、戦争よ」


 FPSを戦争と表現する辺り相当のめり込んでいると見える。


 熱中するサクリファイスを放って制服に着替える。


 特に気にされることはなかった。


 着替え終えると隣の台所へ行き、炊飯器を開き、ご飯をよそい、インスタントの味噌汁を啜る。


 食事を終えると、再びリビング一体型の寝室へ行き、テレビのリモコンを操作する。


 ゲームの画面が一瞬にしてニュース番組へと切り替わる。


「これは戦争ね」


 闘志を瞳に宿したサクリファイスがゆっくりとこちらを向く。


「そもそも俺の物だろう、許可なく勝手にやるな」

「あなたは私の配下、故にその所有物も私の物ということになるのよ」

「契約とは、対等なものじゃないのか?だいたい、ニュースを見て情報収集しなければ命取りになることがあるかもしれないぞ」

「・・・む、それもそうね」


 洋也のその言葉にサクリファイスは言い返せなかった。


 コントローラーを置いてテレビに向き直る。


「従ったわけじゃないから、盲点を指摘されて修正しただけだから」

「なら感謝するといい、俺にな」

「よくやったわ餌袋」

「そのあだ名は中々に不快だ、訂正を要求する」

「奴隷?下僕?我が配下?」


 サクリファイスの口から出てくる名称はどれも気に食わない。


 これが吸血鬼の傲慢さというものだろうか。


 至って冷静な洋也だが無感情というわけではない。


 その心には小さな怒りの火がともっているのだ。


 テレビに集中するサクリファイスは隙だらけ。


 腕を掴むことなど造作もなかった。


 同時にガチャ、と金属音が鳴る。


 手枷だ。


「な、なにしてるのよ」

「君が俺を格下に見るのなら俺もマウントをとってやる」


 慌てるサクリファイスだが、鎖が短く途切れていることが分かると首を傾げる。


「こんなもので何がしたいのかしら?」

「実を言うと俺もわかってない、だから安心していいぞ」

「何よそれ、ともかく外しなさい」

「外すなら力技でできるだろ、それが特別製でなければな」


 枷のつなぎ目をカチカチといじるサクリファイスに洋也はそう言って鞄を持ち、玄関へ向かう。


「誰も中に入れるなよ」

「分かってるわよそんなこと」


 サクリファイスの返答を聞いて、扉を開け、そのアパート、104号室を出た。


 孤児院とは反対側に教会に隣接したその建物は、ピースメイカーの物だ。


 昨夜、洋也たちは正式にピースメイカーとなるなら、ここに住むことを強制された。


 監視のためだろう。


 洋也もサクリファイスも特に異論はなかった、荷物の移動も少なく、大きいものでゲームハードぐらいの

 もの。


 ただ洋也が気がかりであったのは、祖母の安否だった。


 その祖母自身が後押しをしたので踏ん切りはついたが、不安が残らないわけじゃない。


「よ!洋也」


 隣の103号室の扉から紅一郎が出てきた。


 朝っぱらから変なものを見たとテンションを下げつつ、登校した。


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 サクリファイスは枷を外すのを諦め、ニュースを見ることにした。


 芸能界の特集やらインタビューをつまらなそうに見る。


「ただいま戻りました、サクリファイス様」


 声が聞こえた。


 掃き出し窓に影が映る。


 ちゃぶ台で頬杖を突きながら手慣れたように言う。


「遅いわよ、危うく共倒れするところだった」

「申し訳ございません、人の身では動きづらかったので」

「・・・まあいいわ、洋也の様子を見てらっしゃい」

「洋也、というのは先ほどの」

「契約者の同居人よ、侮ることはできないわ」

「了解しました」


 影が消える。


 サクリファイスはニュース内容がバラエティじみたものになっていくのを見ると、ゲーム画面へ戻し、コントローラーを手に取った。









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