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バイナリー・オポジション  作者: ハゲタカ
第2幕 死肉の暴風
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覚悟

 しばらく進むと湖が見えてくる。


 湖畔にはトラックが駐車していた。


 割れたフロントガラスの前で御切が端末をいじっている。


「やっぱこの辺つながりにくいなー」


 御切は文句を垂れていると枝葉を踏む音で紅一郎とサクリファイスの存在に気が付いた。


「お、帰って来たね、それじゃあ、あの竜巻が来るまで待とうか」


 いきなり受け身な提案をする。


「いや待ってください、来ないならこっちから仕掛けるべきです」


 紅一郎としては湖を使って迎え撃つプランは使いたくはない。


 それ以外の手段をとるべきだと抗議する。


「洋也君気絶してんじゃん、どうすんの?」

「それは・・・、おいサクリファイス!」

「指示とか命令は嫌よ」


 面倒臭い性格をしている吸血鬼を相手にするのは敵でも味方でも難しい。


 そう実感した紅一郎。


 ならばと姿勢を低くする。


 そのまま正座をして頭を地につけ、土下座をする。


「お願いします、どうか、俺を上から投げ入れてください」

「ははっ!正気かい?」


 御切が一発芸でも見たかのように笑いを発する。


 しかし紅一郎は至ってまじめだ。


 サクリファイスは洋也の体を地面に降ろし、土下座姿勢の紅一郎と面と向かう。


「死ぬわよ、お前」

「分かってる、でも聖水は貴重だ、多くの人を守るために必要だ」


 紅一郎は恐れず、覚悟を口にする。


 そのすまし顔はそれが生半可なものでないことを証明していた。


「それが仇とならなければいいけれど」

「?そりゃどういう」


 サクリファイスの漏らした一言に疑問を持った瞬間、洋也が静かに起き上がった。


「おお!?びっくりするなぁ」

「奴らはどこだ?」


 奴らとは、湊と勇馬の事を言っているのだろう。


 熱は冷めず、苛立ちをたぎらせているようだ。


 そんな洋也に紅一郎は言う。


「洋也、俺たちはストリガを倒しに来たんだろ?」

「あのまま殺人鬼を放って置けない」


 すぐさま行動に出ようとする洋也を紅一郎が肩を掴んで止める。


「放って置けないのはストリガの方だ、あれは一種の災害だ、無差別に人を殺すし、現に洋也は殺されかけている」

「殺されてるのだけれど」


 サクリファイスが野暮なことを言う。


「細かいことはいい、とにかく、ストリガを倒す方が最優先だ」


 紅一郎の説得は洋也に聞いたようで、体を翻す。


「・・・わかった、ただし、紅一郎、お前は待機していろ」

「いやだよ、なんで」


 反抗的な紅一郎の首元を掴み、言葉を遮る。


「死ぬから、お前は不死身でもなんでもない」


 洋也の紅一郎へ向ける目は、昨夜のそれと変わらない。


 心底呆れたような、軽蔑にも似た眼差し。


「死んだら終わりだ」


 突き放し、洋也は森の方へ歩いていく。


「行こうサクリファイス」


 洋也の後をサクリファイスが続く。


「何で言いたいことを直接言葉にしないのか、不思議だわ」

「考えればわかる事を言う必要はないだろ?」


 去り際にそんな会話を残す。


 紅一郎は惜しみながら、彼らを見送った。


 悔しい気持ちを溜息を吐きながら落ち着かせる。


「命を張るのがそんなに悪いことなんですかね?」


 御切に向けて言った言葉だが、その場には紅一郎しかいなかった。


「あれ?」


 その状況に気が付くと、トラックの荷台をのぞき込む。


 御切が足を延ばして待っていた。


「もう行った?」

「行きましたよ、てか、ああそうか」


 御切の姿を洋也に見られてはいけない。


 紅一郎はそのことを忘れていた。


「いや、会話を聞いていると彼はかなり不器用だね、というか、舌足らずだね」

「アイツの言っていることは分かってるんですよ、無意味に死人を出したくないって言うことは」

「わかっていて行動に出ようとする君は相当性格悪いぞ」

「・・・でも、あいつとは対等でいたい」


 拳を握りしめる。


 かつて共に歩んだはずの幼馴染が道を外れるようで、或いは、自分とは逆の方向へ進んでいるようで、はっきりしない感情が渦巻く。


「俺の命は俺の物ですよ、使いかたは、俺が決める」

「・・・は、楽しそうだね、羨ましいよ、君のその生き方は」


 御切は茶化したような口調を取り払い、本気で妬ましく思っているような含んだ言い方をする。


 荷台から降り、紅一郎の背を押す。


「行ってきなよ、骨は拾ってやる」


「ありがとうございます」


 御切に一礼して、洋也たちの後を追う。


 自分に何ができるかわからないが、何をすればいいのかはそこで分かるはずだ。


 分かったのなら全力でそれをするだけ。


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