吹き飛ばされて
森林全体を見渡せるほどの高度で飛行するサクリファイスは、森が騒めいているのを感じた。
その様子が強まっていくところを辿っていくと、ジグザグに木々が倒れていくのを見る。
ドリルに掘られる土のごとく細かい枝や葉が舞う。
あそこに目標がいると確信したサクリファイスは、その真上まで移動する。
対象の進行速度はさほど早くない、時速30キロに足るかどうかだ。
すぐに追いつく。
「なるほど、真上はノーガード、隙だらけね」
台風の目のごとく、堂々と本体が立っている。
髑髏顔の始祖鳥のような姿のストリガ、吸血鬼ブラスターの成れの果て。
「手を出したくはなかったけれど、それで手早くことが済むのなら面倒は少ないわね」
教会で手を出さないと宣言した自分に言い訳するように独り言を漏らす。
用意していた血の剣を親指と人差し指でつまみ、刃先を下へ向ける。
そのまま放すと、目標の真後ろへ落ちる。
外れたようだ。
「・・・獣の血がまだ混じってるわね」
言い訳がましいことを口にしながらも、手首からの血で同じ剣を形成する。
今度は偏差を考慮しようと目標の進行方向を予測する。
狙いをつけている最中、何かが竜巻と衝突し、枝や葉と一緒に舞い上がる。
「あ」
何かの存在の正体が分かったサクリファイスは動揺して大きく狙いを外す。
そしてその何かに突き刺さる。
「あ」
再度間の抜けた声。
上空からの奇襲を断念し、地に足を付ける。
何かの下へ近づく。
人間だった。
四肢が本来曲がらないはずの方向に曲がり、頭に赤い剣が刺さっているが、
手に握りしめた刀と服装から見て、洋也だと分かる。
「何やってるのよ馬鹿眷属」
------------------------------------------------------
湊は、大男が洋也を突き飛ばすところを見ていた。
黒服につばの長いボロボロのボーラーハットを被った、荒っぽさを感じさせる壮年の男。
片手には斧を握っている。
無残に竜巻に巻き込まれていく洋也を見届ける。
同じ人間としては目を背けたくなる光景だ。
だが洋也をあまり知らない湊はただ敵対者として割り切る。
「無事か?ガキども」
「ハルワンク隊長」
「・・・ううが」
倒れている勇馬は返事の代わりに恐怖交じりのうめき声を上げる。
洋也に与えられた痛みが尾を引いているようだ。
「無事じゃねぇのがいる見てぇだな」
そんな状態の勇馬を見てデュメル・ハルワンクは片手で勇馬の胴体を持ち上げ、湊の方へ向く。
「立羽、退くぞ」
「待ってください、ピースメイカーの一員とおぼしき男が一人、向こうで倒れています」
湊がここまで歩いてきた道のりの方向を指す。
「で、そいつは殺した方がいいのか?」
「いえ、拘束します」
「そんな余裕はねぇな、今すぐ病棟で担架でも持ってこなければ、或いは医療班に連絡するか」
無線機をポケットから取り出し、連絡する。
「東奥メディック、こちらハルワンクパトロール、北西600にて怪我人発見、至急担架を、オーバー」
『ハルワンクパトロール、こちらは東奥メディック、そちらへ向かう』
会話が切れる。
「こんなところか」
「それじゃ、対象を監視してきます」
「おう、気を付けろよ」
湊は紅一郎の下へ戻る。
もし、気絶から立ち直っていたらもう一度見つけ出してひれ伏せさせるしかない。
しかしこの森の中で捜しきれるものかと不安が募る。
そんな思案をしていると、すぐそこに紅一郎の体があった。
重荷をおろしたように心が落ちつく。
だがそんな安心もつかの間、紅一郎のそばに誰かが近づく。
「!?」
素早く木陰に身を隠す。
何者か、その正体をじっと覗いて確かめる。
至ってラフな格好をした、御切だ。
湊からは森を侮っているように見えるが、見方を変えればそうできるだけの実力と余裕があるともとれる。
警戒を解かず、ただの行動を監視する。




