孤児院
洋也が飛び出したあと、杏花は即会計を終え、洋也の後を追いかけた。
結局、二人並んで歩くことになる。
「ごめんて洋也君、深入りしすぎたね」
洋也からの返事はない。
相当怒らせてしまったことを杏花は実感する。
「でも紅一郎君とは仲直りしなよ?今後の行動に影響が出るかもしれないからさ」
「会長が心配する必要はないですよ」
あくまで組織での活動を重視する様な発言で苛立ちに拍車をかける。
所詮部外者だ、指図する以外のことはできない。
分かっていた。だからこそ今望むべくは紅一郎との一対一の話し合い。
そこへ至るまでの不快感は抑えられない。
しばらく歩いていると教会が見えてきた。
ビルを裏に、隣には何やら小奇麗な建物が立っている。
近づくにつれ、子供たちの戯れる声が徐々に聞こえてきた。
「おいおい、こっちだよー」
その建物の前を素通りしようとすると、杏花がその門扉に手を掛け洋也を引き留める。
「いや、子供は苦手なんです」
「先輩命令、人手が足りないんだ、紅一郎君の欠番を君が埋めてよ」
まるで紅一郎がここにいないことが洋也が原因かのように言う。
ここに彼がいないのは部活を辞めたのを教師に黙っていたことが原因で説教をくらっているからである。
決して洋也のせいではない。
しかし、孤児と言う存在にも少し興味のあった洋也はおとなしく従うとする。
「子供が怖がらなきゃいいんですけどね」
「君みたいな童顔は怖がられないよきっと」
「馬鹿にしてるんですか?」
洋也の額に怒筋が現れる。
杏花はあはは、と笑いながら門扉を開く。
「へーい!ちるどれん、お姉ちゃんが帰ってきましたよ」
入って第一声、その声で遊具で遊んだり砂場で遊んだりしている子供たちは振り返った。
「おかえりお姉ちゃん!」
「あー、お姉ちゃんが男を連れてきてる」
「紅一郎お兄ちゃんじゃない、別の男だ!」
子供たちは杏花の下へと集まっていく。
「こらこら、別の男とかそんないかがわしい呼び方しないの」
「いかがわしいってなに?」
脊髄反射で適当な受け答えをした杏花が言葉に詰まった。
子供たちにそう言った言葉の意味を伝えるのは気が引けるだろう。
「あーえっと、そう、馬鹿みたいなこと」
「あっくん馬鹿なんだって、あはは」
「ばかじゃないもん!」
「子供は馬鹿で元気な方が立派に育つんだぞ!」
テンションを高くして誤魔化そうとする杏花、洋也から見れば動揺の様子は顕著に見える。
「おにいちゃんだれー!?」
「きょうかおねえちゃんのふんりあいて?」
「不倫って言いたいんだろうけど違うぞ、紅一郎はそもそも恋仲ですらない、…そうですよね?」
紅一郎のすべてを把握しきっているわけではない。
確証を持っていないため杏花に確認をとる。
「もちろん、私そんな尻軽女に見える?」
「いえ、見えませんが、そんな言い方だと彼氏がいるような物言いですね」
杏花は少し考え込む。
「んー、みたいなのはいるかな?」
どっちつかずな発言にもどかしさを感じた。
悪態をつきたくなる。
「他人に説教を垂れるならもう少しはっきり言って欲しいものですね」
「う、うーん、説明難しいんだ、少なくとも、私はあいつのことが好きではない」
不確かな物言いは却って信用性を失う。
洋也はやはり杏花は信頼できないと思うのだった。
「おにいちゃんなまえはー?」
「こうじろう?そういちろう?」
「あいつと対になるような名前はしていない、よく蒼なんて知ってるな」
子供でありながら意外な知識に洋也は少し驚く。
杏花による英才教育の賜物だろうか。
「聞け子供たち、俺の名前は階上洋也、洋也様と呼べ」
子供たちと杏花が硬直した。
「・・・ジョークだ、それぐらい分かろう、分かってくれ」
「滑ってるぞー」
杏花の後押しが後悔の念を強めた。
「やばい、あのおにいちゃんやばい」
「おれさまけいってやつだ」
子供たちは怯えていた。
怖がらせるという点では洋也の望み通りではあった。
それがどういった種類の恐怖であるかは置いといて。
「あれ?みんな外に出てるの?」
子供たちが集まっているこの状況を見て杏花が違和感を感じる。
「りゅうとおにいちゃんがおんなのひとつれて、そとにでてろ、だって」
「永井君が?なにか隠したいものでもあるのかな?ぬへへへ」
手つきを機敏に蠢かせ、意気揚々と孤児院施設の扉へ向かう。
「永井って、あの永井ですか?」
「そう、キミのクラスメイト、あのむっつりスケベ、食堂にエロ本置いてったりしてるし今も何か隠してるのかも」
扉へ手をかけたその時、施設のなかから女性の声が聞こえた。
「やめてぇ!そんなことしないでぇ!」
「貴様が色々ゲロるまで止めないぞー、さっさと話せ」
「そんな、いやぁ!!・・・あぁん」
女性の悲鳴交じりの懇願だった。
「ちょっとぉ!!おねえちゃんそこまで健全に育てた覚えはないぞぉ!!」
我慢できなかった杏花が扉を開いた。
そこには、ストーブの上で油揚げを焼いてる流人と十字架に磔にされた着物の女性がいた。




