先行ブリーフィング
サクリファイスは舞台から最前の会衆席に座り、前に立つ祝詞を見上げていた。
壁側にはクレイグも控えている。
「それで、私はあなたの部下ってこと?」
「形式上はな、苦労はこれから次第ではあるが」
祝詞が手で合図を送ると、クレイグは端末を取り出し、少しいじってとサクリファイスへ投げ渡した。
画面には翼と一体化した腕を持つ骸骨が土煙を上げて佇んでいる姿が映っている。
「それは昨日、鳥型プラヴァシ、アウィスを飛ばしてとったもの、そしてそこに映っているのは吸血鬼ブラスターのストリガだ」
「・・・プラヴァシとは、なんなのかしら?」
サクリファイスの返しに予想外だったようで、祝詞は大きく目を見開く。
「そんな無知で今まで生き残れてきたのか、君の過去が知りたくなったよ」
「生憎、私は記憶喪失なの」
「ほう、いつからだ?」
「そうね、半月ほど前ぐらいかしら、研究所の実験台の上で目覚めたの」
「長くなりそうだ、詳しい話は報告書でまとめてくれ、それよりも話の続きだ」
祝詞は懐からリモコンを取り出し、プロジェクターを起動させる。
スクリーンがステンドガラスを覆い、映像が映し出される。
機械的なデザインの燕、その下にはアウィスと言う文字が表示されている。
「プラヴァシと言うのは、キミらでいうところの魔獣、使役ストリガだ、昨夜のやつが使役していた九尾が我ら人間の味方に付いたようなものだ」
「それなら、なぜあなたたちはそれに頼らず生身で戦っているのかしら?」
「確かにあれが量産されれば我らが戦う必要もなくなる、しかし我らの目的は吸血鬼を生かして捕らえること、それの自動化など現在の吸血鬼の圧倒的な力の前には不可能に等しい、それがまず第一の理由だ、次に第二の理由としてだが」
祝詞がリモコンを操作すると、アウィスという名称の下に値段が表示される。
「1億7000万円、これ一体にかかる額だ、しかもこれは小型で偵察用、戦闘用で大型の物となると」
「ああ、もういいわ、獣の血を啜ったせいで頭が痛い」
本能か、あるいは脳の奥底に眠る記憶の片鱗か、記憶喪失の吸血鬼と言えど金銭感覚と言うのは分かるようだ。
「そうか、では本題だ、今夜これを洋也、紅一郎と共に排除してほしい」
「もちろん、それなりの見返りはあるのよね?」
サクリファイスが瞳に野心を灯す。
「要望を聞こう」
「記憶を取り返したい、私の配下がどこにいるかも知りたいし、あと洋也をいくらか従順にしてもらいたいわ、あと血の性質、味も良くしたいから彼にはいいものを…」
「すまんが一つに絞ってくれ」
サクリファイスはふんぞり返った態度から一転してふてくされる。
「・・・記憶」
「それで手を打とう、後は彼らが帰ってきたらブリーフィングを始める、それまで待機だ、その端末は連絡用に渡しておく」
祝詞はプロジェクターをオフにし、スクリーンをしまう。
「ところで、一つ聞きたいのだけれど」
「なんだ?」
「なぜ活動時期が夜なのかしら?人間には不利でしょう?」
森にいるとわかっているのなら昼に攻め込めば太陽が出ている分、逆に大きなアドバンテージになるはずだ。
あえて夜に実行する理由を聞く。
「あそこはアナイアレイターの狩場だ、侵犯しようものならとてもめんどくさいことになる、だが緊急時は別だ、救援要請を受ければストリガ掃討に参加が可能だ、あれが吸血鬼の死体からできたストリガである以上、その要請が来る可能性は高い」
「その時は、私は奴らの標的にならないのかしら?」
「なるだろうな」
「あっさり言うわね」
「その時は洋也に守ってもらえ、或いは自衛するか、死人は出さないでくれ、日本支部の評判が落ちる」
淡々と言う祝詞にサクリファイスは不満を隠せない。
表情が曇る。
「難しい注文ね」
「君とてピースメイカーに参加した以上、ここのルールに則っていくことは覚悟すべきことであるが、まさか軽い気持ちで参加したわけではあるまい?」
「氷漬けが嫌だから参加したの」
「では氷漬けにならないためにも頑張っていただきたい」
冷たく言い放つ祝詞に対して、サクリファイスは苛立ちを含んだ目線を向けざるを得なかった。




