光速VS神速
送電塔の上、頂点を足場に立つ少年の姿があった。
双眼鏡で港を捉え、ヘッドセットを付けて強風にマントがたなびかせる。
「結果は目に見えてたけど、まさか彼が復活してくるとは、生かしておいてよかったんですかね?」
『我々の改進の弊害を残すとは、キミも肝が据わってるね』
「あー、やっぱ始末しといた方がよかったかー」
『キミはもう帰ってこなくていいよ、どうせ役に立たないのだろう?』
「いやそれはちょっと困りま、あ」
少年の返答を待たずして、その通信は途絶えた。
「あーどうしよ、帰る場所なくなっちゃったよ」
吸血鬼故、その心情は顔以外に出ないが、その顔は無表情と言うほかない。
口調もまた、余裕であふれている。
「へーい、そこのオタク」
軽い声が少年の耳に入った。
同高度からの声に最初は幻聴かと錯覚した。
しかし声の元をたどれば送電線の上を綱渡りしている男がいる。
御切だ、カッターナイフの刃をカチカチと出し入れしている。
「おとなしくお縄につく気、ない?」
「めんどうだからいや、って言ったら殺しにかかるんだよね」
「もちのろん♪」
次の瞬間、少年が立っていたはずの場所を御切が突き刺していた、空を。
当の少年は蝙蝠たちを従え、宙に立つ。
「遅いね、悪いけど、僕は風速超えて亜光速は出せるんだ」
「すごいな、それで反動もなしかい?」
「反動なんて、不死身の僕たちには安すぎる代償さ、それじゃあね」
蝙蝠たちと共に少年の姿が消える。
御切が視界に捉えたのは透明な矢、しかし不可視ではないその凶器は御切へと迫る。
「確かに速い、速いけどね・・」
矢は御切を貫くことはなく、明後日の方向へ。
少年は何が起こったのかわからなかった。
御切に一撃かまして逃げるつもりが逆に返り討ちになっている、それ以前の過程の事が。
空中でない床にひれ伏せさせられているようなこの状況を受け入れられなかった。
「たかが光速程度がぁ!神速に勝てるわけがねえだろぉ!!」
カッターナイフの刃が少年の心臓を突き刺した。
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音垣町からそう遠くない森林、上空から二体の人型が隕石のごとく地面へ激突する。
「反動がないのはお互い様だけどね」
御切は少年の心臓からカッターを抜き、手元で一回転させる。
「つっても返事はないか、少ない寿命をこんなところで消費するのは、とんだ侮辱だぜ」
足で少年の体を蹴る。
少しばかりの怒りをのせて顔や股間を潰したり、側腹をサッカーボールのごとく蹴り上げる。
繰り返し、同じことを続けているとそこらの茂みが音を立てる。
間髪いれずにその方向を見る。
茂みに隠れているせいか、何も見当たらない。
そう思っているところを、何者かの鋭利な爪が襲い掛かった。
「うおっと、あぶね」
出てくる方向がわかっていた御切は言葉に反して余裕そうに避ける。
出てきたのは人型の狼、ウェアウルフだ。
「おうおう、わんころがこの辺をうろついてるなんて聞いてねえぞ」
グダグダと喋る御切に再度襲い掛からうとしたその時、空から一線の光が差し、ウェアウルフを両断。
そこにはリーダー格の御行が刀を手に、落葉を踏んでいた。
「御切、何を遊んでいる」
「御行、いやちょいと死体をいじってたらこのワンコロがな」
「吸血鬼はどうした?」
責めるように問いただす。
御切は圧倒されながらもいつもの口調で示す。
「ほら、あそこに・・・」
御切の指し示した方向に、少年の体は無かった。




