痛み
「ああ、やってくれるなクソ野郎がぁ!」
嗚咽交じりの罵倒を声に出すデコンポーザー。
額を抑えながら全身から流れ出る血を気にすることなく、よろめきながら洋也へ掴みかかる。
そんな無様な動きを軽くかわし、洋也はその背に一太刀浴びせる。
「ああああ、何してくれやがったてめえ、この感覚は何なんだよ!」
怒号と共に情けなく倒れるデコンポーザー。
見下すような洋也の視線がデコンポーザーを射抜いた。
洋也が与えたのは痛み、吸血鬼には備われないはずの感覚だ。
吸血鬼は生前のその体を引き継ぐ際、記憶も引き継ぐ。
しかし、感覚的なことに関しては分からないのだ。
生まれたての赤子以上に、無知なのだ。
痛みは尾を引き、今もなおデコンポーザーに纏いつく。
「あああああ!!」
痛みの解消をする術を知らないデコンポーザーは両腕を鈍器のように地に叩きつけ、ただ暴れまわる。
流れ出る血液で時折その手を滑らせながらも、ただこの痛みを消し去りたいと無我夢中に。
洋也はその様をただ見守る。
手を出そうものなら痛い目を見るだけだろう。
吸血鬼は血液が動力源だ、このまま血液を失い、動きを止めるまで待つしかない。
しばらくして、デコンポーザーが洋也を睨んだ。
「でめぇがあああああ!」
ついに痛みを与えた原因を殺すという発想に至ったようだ。
しかし、時はすでに遅かった。
白い一線が放たれ、その冷気がデコンポーザーの体を拘束する。
ほぼ一瞬で凍り付く体に、怒りの形相が苦悶を訴える表情へと変化する。
そのまま表情も固定され、デコンポーザーの体の時はそこで止まった。
彼を凍らせたのは、倉庫の上に立つピースメイカーの部隊の武装、冷気放射器であった。
4つの冷気放射器の内、2つが洋也へ向けられる。
「動くな、階上洋也、さもなくば凍死してもらう」
隊員の後ろからクレイグが現れる。
「一体何がしたい?」
「貴様の身柄はピースメイカーで預からせてもらおう、もといその氷像もな」
クレイグは何かを持っている。
そして掲げたそれは檻、ジルが捕らえられていた。
「そいつをどうするつもりだ」
「従えば何もしない、しかし何をしようものならこいつを処分する」
処分、武装を持つ彼らの前では重い言葉だ。
「よ、洋也」
助けを乞うようなジルの瞳。
それを洋也は冷酷にもデコンポーザーと対峙しているときの目のまま、刀をぎらつかせた。
「お前が言ったはずだジル、野良は常に自己責任で行動していると」
「薄情者ー!」
ジルは嘆く、その声を気にせず、クレイグは言葉を続ける。
「あとこいつもだ」
何か鎖で引き寄せたそれを掲げる。
首輪と手枷足枷と四肢を奪い、厳重に拘束された少女。
洋也を不死身に仕立て上げた吸血鬼であった。
「・・・ついで感覚ね」
ジルの後に人質にされた彼女は不満気だ。
吸血鬼特有の余裕のせいかその様子は顕著である。
しかしジルを掲げられ時とは違って、洋也には躊躇いがあった。
「素直に抵抗すればこいつらを無傷で済ませてやる」
「くっ…」
そっと刀を鞘へ納める洋也。
ジルがムスッと不満気になる。
「餌袋」
「・・・それは俺の事か?」
「そうよ、この状況をなんとかしなさい」
「了解」
洋也は鞘に納まった摸造刀を地に落とし、両腕を上げる。
「残念ながら、俺は抵抗する気もないし、する力もな、い」
バタリと大の字になって倒れる。
「ちょっと!」
事態の収拾に、これ以上の最善策はないだろう。
無抵抗であれば危害を加えない、彼らの言葉を信じるならそうであると願おう。
体中の熱に蝕まれながら、洋也はそう思った。
果たして異議を申し立てるためか、洋也を案じたのか、少女が張り上げた声を聞いたのを最後に、洋也の意識は闇へと飲まれる。




