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バイナリー・オポジション  作者: ハゲタカ
第1幕 物質破壊者
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痛み

「ああ、やってくれるなクソ野郎がぁ!」


 嗚咽交じりの罵倒を声に出すデコンポーザー。


 額を抑えながら全身から流れ出る血を気にすることなく、よろめきながら洋也へ掴みかかる。


 そんな無様な動きを軽くかわし、洋也はその背に一太刀浴びせる。


「ああああ、何してくれやがったてめえ、この感覚は何なんだよ!」


 怒号と共に情けなく倒れるデコンポーザー。


 見下すような洋也の視線がデコンポーザーを射抜いた。


 洋也が与えたのは痛み、吸血鬼には備われないはずの感覚だ。


 吸血鬼は生前のその体を引き継ぐ際、記憶も引き継ぐ。


 しかし、感覚的なことに関しては分からないのだ。


 生まれたての赤子以上に、無知なのだ。


 痛みは尾を引き、今もなおデコンポーザーに纏いつく。


「あああああ!!」


 痛みの解消をする術を知らないデコンポーザーは両腕を鈍器のように地に叩きつけ、ただ暴れまわる。


 流れ出る血液で時折その手を滑らせながらも、ただこの痛みを消し去りたいと無我夢中に。


 洋也はその様をただ見守る。


 手を出そうものなら痛い目を見るだけだろう。


 吸血鬼は血液が動力源だ、このまま血液を失い、動きを止めるまで待つしかない。


 しばらくして、デコンポーザーが洋也を睨んだ。


「でめぇがあああああ!」


 ついに痛みを与えた原因を殺すという発想に至ったようだ。


 しかし、時はすでに遅かった。


 白い一線が放たれ、その冷気がデコンポーザーの体を拘束する。


 ほぼ一瞬で凍り付く体に、怒りの形相が苦悶を訴える表情へと変化する。


 そのまま表情も固定され、デコンポーザーの体の時はそこで止まった。


 彼を凍らせたのは、倉庫の上に立つピースメイカーの部隊の武装、冷気放射器であった。


 4つの冷気放射器の内、2つが洋也へ向けられる。


「動くな、階上洋也、さもなくば凍死してもらう」


 隊員の後ろからクレイグが現れる。


「一体何がしたい?」

「貴様の身柄はピースメイカーで預からせてもらおう、もといその氷像もな」


 クレイグは何かを持っている。


 そして掲げたそれは檻、ジルが捕らえられていた。


「そいつをどうするつもりだ」

「従えば何もしない、しかし何をしようものならこいつを処分する」


 処分、武装を持つ彼らの前では重い言葉だ。


「よ、洋也」


助けを乞うようなジルの瞳。


それを洋也は冷酷にもデコンポーザーと対峙しているときの目のまま、刀をぎらつかせた。


「お前が言ったはずだジル、野良は常に自己責任で行動していると」

「薄情者ー!」


ジルは嘆く、その声を気にせず、クレイグは言葉を続ける。


「あとこいつもだ」


 何か鎖で引き寄せたそれを掲げる。


 首輪と手枷足枷と四肢を奪い、厳重に拘束された少女。


 洋也を不死身に仕立て上げた吸血鬼であった。


「・・・ついで感覚ね」


 ジルの後に人質にされた彼女は不満気だ。


 吸血鬼特有の余裕のせいかその様子は顕著である。


 しかしジルを掲げられ時とは違って、洋也には躊躇いがあった。


「素直に抵抗すればこいつらを無傷で済ませてやる」

「くっ…」


そっと刀を鞘へ納める洋也。


ジルがムスッと不満気になる。


「餌袋」

「・・・それは俺の事か?」

「そうよ、この状況をなんとかしなさい」

「了解」


 洋也は鞘に納まった摸造刀を地に落とし、両腕を上げる。


「残念ながら、俺は抵抗する気もないし、する力もな、い」


 バタリと大の字になって倒れる。


「ちょっと!」


 事態の収拾に、これ以上の最善策はないだろう。


 無抵抗であれば危害を加えない、彼らの言葉を信じるならそうであると願おう。


 体中の熱に蝕まれながら、洋也はそう思った。


 果たして異議を申し立てるためか、洋也を案じたのか、少女が張り上げた声を聞いたのを最後に、洋也の意識は闇へと飲まれる。


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