己の痛み
血がこびりつき、凄惨に散らかった部屋でテンタクルは真っ先に洋也の下へ歩み寄っていた。
倒れた棚に押しつぶされ、倒れ伏す洋也にその触手が槍のように勢いづいて刺しにかかる。
喉を突き刺し、確実に死ぬよう傷口を広げる。
手応えを感じ、抜こうとすると、触手を掴まれた。
洋也の手だ。
死体であるはずの洋也の手が動いているのだ。
テンタクルは無表情ではあるが、引き抜こうとするその動きに焦りが見受けられる。
洋也が不死身であることを考慮していなかったようだ。
「・・・なんてひどいモーニングコールだ」
――その瞳の黒色は、光を飲み込んでいた。
洋也は倒れた棚から抜け出すと自身を貫く触手を掴んだままテンタクルに詰め寄る。
他の触手も一斉に突き刺すが、洋也は倒れない。
「ああ、痛い、何で殺すんだ、なんで生きてるのにそんなことするんだ、命を奪うのはいけないことだろ?人の物をとっちゃいけないって、キミぐらいの歳ならわかるはずだよね?」
ふらふらした体を動かし、洋也はテンタクルの肩を掴む。
「分からないなら、今から教えてやろうか」
確実に、怒気のこもった声をテンタクルの聴覚にぶつける。
抵抗は、全て効いてはいなかった。
どれだけ貫こうとも倒れる様子はない。
勢いをつけて吹き飛ばそうにも体幹が強すぎてそこまでに至らない。
洋也がテンタクルの首に触れるところで、後ろではコンダクターが立ち上がり、声を上げる。
「おい貴様、なにしている?」
その言葉で、洋也は我を取り戻す。
「・・・何をしてんだ俺は」
体に刺さった触手を抜くと共にテンタクルを蹴り飛ばす。
テンタクルの子どもの体は壁に当たり、軽く弾む。
「・・・何だこの感覚は?」
洋也は自分の感覚がおかしくなっていることに気づく。
体に痛みはあっても常時アドレナリンが出ているように、実感しない。
この疑問を解消したいところだが、
敵を目の前にしてそう自己中心的にはなれない。
「コンダクター、その子供を拘束してくれ」
「何?さっきまで圧倒していただろう?」
「疲れた、あと得物がないと心もとない」
「仕方ない、我が法をもって鉄槌を下そう」
「殺すなよ?」
「分かっている、人質たちの解放を頼む」
洋也はコンダクターにテンタクルを任せ、刀を取りに行く。
場所はポツンと何もない中央の床に転がっていて分かりやすかった。
手に取ろうとした瞬間、鋭い殺気が洋也へ一直線に放たれる。
遅れて何かが洋也の体を貫いた。
黒い、大きな鳥、そのくちばしが自分の体を貫き、何層もの天井を砕いて上昇していった。
衝撃音を聞いて振り向いたコンダクターは、テンタクルを拘束しながらも、
絶句した。




