エクスチェンジ
黒い空の下、少年は少女の死体の前で虚空に叫ぶ。
誰の目も気にしない、一人虚しい壮大な独り言を。
「母様!僕は成し遂げました!忌まわしき吸血鬼を、ただの動かぬ屍へと変えてやりました!」
ここは公園、しかし遊具は蹂躙され、残骸がただ転がっているだけの野原へと変わり果てている。
周りには、誰もいない、動くものなどなにもない。
死体が本当に動かぬ死体であったのなら。
血まみれの少年の手に少女の死体の手が触れる。
「よう...、...だよ、しに..たく..ないよぉ」
死体から発せられた力のこもらぬひ弱な声に、少年は激昂した。
「なんで生きてるんだよ!死ねよ!死ね死ね死ね!」
何度も顔面へ刃物を突き刺した、殴った、蹴った、しかし、その死体は完全に静止することはなかった。
「しぶといな、ゴキブリ並みのしぶとさだ、そんな奴らは根絶やしにしなくちゃ」
頭へ、刃を突き立てようとした、が、外れる。
刃は地面へ突き刺さった。
死体の頭があったはずのその場所へ。
何物も貫かなかったその刃は抜かれない。
死体であるはずの少女が彼の手を掴んで離さないからだ。
その事態に少年は狼狽した。
「そんな、やめろ!!」
必死に拘束を解こうとする少年、やめろと乞うが少女は聞く耳を持たない。
だが手つきは柔和で、傷つけるような敵意はない。
その気配すら感じ取れず、少年はただ怯えた。
「うああああああ!!」
少女は頭を上げて少年の首筋に近づき、八重歯が穿った。
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ここは誰も望まぬ世界、誰もが理想の空白を埋めようと傷つけあう。
支配欲にとらわれた鬼が集い、悪が悪と明確になる寸前の時期。
少年は少女の手を取らねばならなかった、植え付けられた憎しみに逆らい、足掻くべきだった。
最早彼に人としての生を全うするなどできない。
ーーー和解は求めない