魔法とお姫様。
魔法がいっぱい出てきます
吸血鬼が弾いたコインは回転を繰り返しつつ上昇していく。
それはやがて上昇を止め、下降を始める。
「Concinit initio.・・・」
私は詠唱を開始する。
相手は吸血鬼、日光と銀とニンニクと十字架が弱点。
先ずは十字架から。
私がアンジェからもらったこの杖は魔法の木で出来ているとアンジェが教えてくれました。
そして透明な魔石は持ち主、つまり私の魔力に反応して杖の形を変形させる力を持っているとも言っていましたわ。
つまり、杖の形を十字架に変えることだって出来るはず!
「Magia est qui posuit in ferula, respondeo dicendum quod ad magica meo, autem vim exercebit.
Deformatio!」
杖は十字架へと姿を変え、透明の魔石は十字の交差する位置に移動していた。
さて、次は日光。
「Concinit initio.
Supiritus ignis, mutationes in solis hasta magnis hostes coniciendi.・・・」
私の頭上に一つの魔法陣が現れる。
これで待機状態。
あとは技名を唱えればこの魔法が発動してあの吸血鬼を貫く。
そしてコインが地面に落ちた。
「ソーラースピア!」
魔法陣から放たれた大きな槍は一直線に吸血鬼を目指す。
すると吸血鬼は左手を正面にかざし、ひとこと言い放った。
「魔法盾」
吸血鬼の前に魔法陣が展開された。
光の槍はそれに衝突し、砕けた。
「まだまだだな、アリス」
その言葉に反応する余裕など私には無かった。
魔王は詠唱を行わなかった。
そしてたったの一語で魔法を発動させたのだ。
「あ、あなた、詠唱を行わずにどうして・・・」
「あれ、知らなかったの?そう言えばさっきからいちいち詠唱してるな、面倒臭くねーの?」
え、でも本来、魔法は詠唱なしには発動できないはずでは・・・
一体どんな手品を。
いえ、今はそんなことを考えている場合ではありませんわ。
「Concinit initio.
Supiritus ignis, mutationes in fast acus milia hostes coniciendi.
サウザンド・ファイヤーレイン!!」
幾千もの炎の針が全方向から吸血鬼めがけて襲い掛かる。
―――これなら魔法盾で防げない!
「魔法遮断フィールド展開」
今度は少しの動作もなく、只そう言っただけだった。
それでも炎の針は、吸血鬼に一定の距離近づくと砕けて消えていった。
「そんな・・・」
これでは魔法をいくら使っても意味がない。
それに、あの吸血鬼はまだ一歩も動いていない。
このままでは勝てそうにないですわ・・・
ならば!
「Concinit initio.」
俊敏力を上げて接近戦に持ち込む―――!
「Sanctus atmosphaera, mutationes in」
「SELブースト」
詠唱をせず、またしても吸血鬼は私を驚かせた。
吸血鬼はいつの間にか私の背後に背中合わせで立っていたのだ。
「いつの間に・・・」
私は振り向き、一歩下がる。
「まぁこの状況なら“SELブースト”だろうな、と思ってさ」
全て、見切られているというのですか?!
しかしここで諦めては―――
「もういいよ」
―――え?
「今のお前じゃ俺には勝てない」
「――!し、しかし!」
「アルケミア:ソード」
突如、吸血鬼の手に一本の短剣が出現した。
そしてその短剣を私の首に突きつける。
私は更に距離を取ろうとするが・・・
「バン・トラベル」
またしても魔法に捕らわれてしまった。
これでは一歩も動けない。
私の完敗だった。
「お前勉強熱心な割には魔法が全然なってないじゃないか」
「詠唱抜きで魔法が使えるなんてどんな書物にも載っていませんでしたわ」
「これくらいは自分で見つけろ」
「そんな無茶なこと言われても!」
「心配しなくてもあとで教えてやるから」
そういう事を言いたいのではないのですが。
・・・確かに知りたいですが。
「それはさておき俺の勝ちだな、アリス」
「そうですわね」
「約束、覚えてるよな」
「約束?」
・・・あ。
「おいおい忘れてたのかよ。約束通りかけさせてもらうからな、魔法」
そうでしたわね。
確かにそんな約束をしましたわ。
―――魅了魔法はその名の通り、その魔法にかかった人は術者に魅了されてしまうという恐ろしい魔法だ。
主に男性が取得を試みることが多いが、難易度の高い精神魔法の中でも特に取得が難しいこの魔法を使える者は殆どいない。
と、私が読んた本に書いてありましたが・・・
使える人が本当にいたんですのね。
「じゃ、早速やるぞ」
「覚悟はできています」
そんなの全くできていませんけれど、ここで引き下がるのでは王家の名折れですわ!
吸血鬼が近づいてくる。
あー、これから私どうなるのでしょう。
私は目を瞑った。
・・・
・・・・・・
唇から、柔らかく温かい感触が伝わった。
?!
その感触が終わらぬうちに、今度は後頭部に何かが触る感触が伝わる。
更に閉じた唇の間に何かが当たった。
それはだんだんと力強くなってゆき、唇をこじ開けようとしているのが分かる。
私はありったけの体力を使って抵抗するが後頭部からの力のせいで逃げようにも逃げられず、さらに唾液のせいで滑ってすり抜けてきてしまう。
そして、それはやがて私の舌に到達した。
それと同時に腰に何かが触れて、体が少し軽くなる。
それを機に私の体は力を失ってゆき、唇の力も抜け、口内に侵入を許してしまった。
私の舌を弄ぶように、その表面を這い回る感覚。
やがて私の舌全体を支配した。
互いの唾液が混ざり合い、交換されてゆく。
口内の感覚が麻痺し始め、やがて思考も停止し始めた。
脳が溶けるような感覚。
体温が上昇し、体中の力が抜けていくのがかろうじて感じられる。
立って居られなくなる程のその刺激に、私は倒れそうになる。
いつの間にか私は自分の体重を後頭部と腰にあった感覚に預けていた。
そして突如、体の内から込み上げてくる感覚。
その感覚に襲われた私は思わず目を開ける。
しかし視界はぼやけ、殆ど何も見えない。
突如発生したその刺激は体全体に到達し、脳を犯し始める。
それはやがて脳内で弾け、体中に電流が走った。
私は思わず叫んだが、それは限りなく弱く殆ど叫びにはなっていなかった。
「おいおい、大丈夫か?」
私を地面に下した吸血鬼が私に話しかけているが、私の脳はその言葉の意味を理解できない程に溶けてしまっていた。
「とりあえず、これで約束は果たされた訳だ。
・・・そういえば俺の名前をまだ教えていなかったな」
吸血鬼は、姿勢を正し、ありったけ胸を張って、脇を締め、肘を斜め45度折り曲げ、掌を空に向けるようにして手を開き、口調を、一人称を最初のものに直して、こう言った。
「我が名はセイメル。
“セイメル・エストオプティモス・ソーサラー”だ。
これより生涯、共に歩んで行こうではないか、アリスよ」
しかし、私はそのセリフを理解できなかった。
Concinit initio.
Supiritus ignis, mutationes in solis hasta magnis hostes coniciendi.
詠唱開始。
火の精霊よ、陽光の大なる槍に成りて、敵を打て。




