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吸血鬼とお姫様。

ドジっ子かもしれない魔王?でしたとさ。

移動の衝撃だと思ったそれは、どうやら魔王が私を抱き寄せたことが原因だった。


転移魔法を使って複数人で移動する際は、術者に触れている必要があるのは知っていますが、だからって抱き寄せる必要は無い筈ですのに。

・・・それよりも。


「今、この城の中では転移魔法が使えないという事を忘れていますの?」

「おっとそうだったな。城内の移動はいつも魔法を使っていたから、つい癖が出てしまった」


まぁ、私が最初に転移魔法を覚えたのも城内の移動を速やかにする為でしたし、その気持ちは大いに分かるのですが。


「移動してから障壁を展開しても良かったのではないですか?」

「うむ、まぁそうなのだが。今回は事情があってな、この場所に結晶を設置しなければいけないのだよ」


結晶などのマジックアイテムを使用して結界を発動した場合、その核となるアイテムは発動した場所にとどまってしまう。


それで、ここから目的地まではどうやって移動するつもりなのでしょうか。


「仕方ないな、よし歩くぞアリス」


え?!


「あ、歩くんですの?」

「あぁ、魔法が使えないのだから仕方あるまい」


いろいろあり過ぎて、既に疲れ切った私に歩けと申すかこの魔王は!

いえしかし、ここから近いという可能性も・・・


「あ、そうだ。実はここは地下なのだが、目的地は4階だ」


あー、終わった、終わりましたわ。

私は歩きたくありませんわ。


「アリス、虚空を見つめて何をしている?」

「何も、只もう歩きたくないだけですわ」

「おいおい座り込むなよ。仕方ない、だっこでもおんぶでもしてやるから立ってくれ」


なっ?!


「何を言うんですかこの変態!!」

「じゃあ、かたぐるまか?」

「そういう事じゃないですわ!!」

「なんだよ我が儘だなぁ、じゃあ自分で歩けよ。言っておくがずっとここにいると凍死するぞ」


そう言われてはじめて気付いたが、確かに寒い。


肌が痛いですわ。

それにしても。いくら地下だからと言っても寒すぎますわ。

一体ここはどこなのでしょう?


「ここは一体何処なのですか?」

「ん?いきなりだな。えっと、地名とかは知らないが確か最北の国って言われてたな」


最北の国と言えばスローン王国ですが、もう無くなっていたはずですわよね。

もしかしてこの魔王、乗っ取るために滅ぼしたんですの?!


「最低ですわね、貴方」

「ん?おいおい、そんなに睨むなよ。もしかして俺が滅ぼしたとか思ってんのか?違う違う、俺は滅んでいたこの国に丁度良い城があったもんだから勝手に使ってるだけさ」

「本当ですの?」

「あぁ本当だ。何なら今から金庫に行ってウソ発見器を取ってきてやるから、調べてみるか?あ、そういや今は魔法使えなかったな」


信じ難いですが、嘘をついている様には見えませんわね、意図的に隠しているという可能性も勿論ありますが。

それにしても本当に何なのですかこの魔王は。

気が抜けているというか、警戒心が無いというか・・・

まぁ、警戒されても今の私には彼に抵抗する手段など無いのですけれど。


「おいアリス。そろそろ行くぞ」

「え、えぇ。分かりましたわ」


私は歩かないという選択肢を諦め、大人しく彼の後ろについて行く。

今なら背後からの攻撃で、もしかすると逃げることが出来るかもしれないが止めておくことにした。

そんな事をしても結局捕まることは目に見えているし、力の差も大きすぎる。

幾ら修行してきたからと言っても、勝てないことは明らかだ。


それに第一、魔法を使えない今の私に、攻撃手段など無いのですわよね・・・

そしてそれが分かっていたのでしょう。

何の警戒も無く、拘束を解除していましたし。

自信家なのか阿呆なのか分かりませんわ。

本当に魔王なのかどうかさえ・・・

いえ、さすがに考え過ぎですね・・・


「おい、何また突っ立ってんだよ。さっさとしろよ」


少し先から魔王が呼び掛けてくる。

いつの間にか止まっていたようだ。


「あ、はい」


私は仕方なく、また歩き出した。

私が追いつくと、魔王が話しかけてきた。


「そういや、さっきから全然抵抗してこないがどういうつもりだ?逃げたくないのか?“返して”とか言ってたのに」


何の話かと思えば・・・


「え、分かっていませんでしたの?」

「え、何が」

「私は、抵抗しても返り討ちにされるだけだと分かっていましてよ」

「あ、いやそれ位は俺だって分かってるけど」

「では何が分からな・・・」


いと言うのですか

と言おうとしたが、しかしそれはひとつの違和感に遮られた。

・・・俺?

今この魔王は自分の事を“俺”と言いましたか? 

この人の一人称は“我”だった筈では?

それに最初の時と口調が全く違っている?!

え?え?!


「ちょ、ちょっと魔王!」

「何だ急に慌てて。トイレか?」

「違いますわよ!不謹慎ですわよ!!・・・ではなく!」

「じゃあ何だよ」

「あなた、キャラが変わってはいませんか?」

「え?あ、しまった」

「はい?」


今“しまった”って言いましたわよね?!

もしかして・・・


「キャラ、作ってたんですの?」

「ギクッ」


今“ギクッ”て言いましたわね、この魔王は。


「何故そのような事をしたんですの?」

「え、まぁ、その方が強そうに見えるかなって・・・」


強そうに見えるかなって・・・

やはり阿呆でしたわ、この魔王は。


「それと・・・」

「それと?」


今度は何なんですの?


「好感度上がるかなって・・・」


は?


「こ、好感度?」


何でまた魔王ともあろう人がそんなことにこだわるんですの?


「何でそんなモノにこだわるのかって思ってんだろ?分るよそん位は読心術を使わなくたって」

「・・・では教えてくれるんですの?」

「あぁ」


一体どんな理由があると言うのでしょう。

やはり気になりますわ・・・


魔王が歩みを止めた。

それに合わせ、私も歩みを止める。


「こ・・・」

「こ?」

「こ、恋人が欲しいんだ!!!」


・・・はい?


「え。い、今何と?」

「だから恋人が欲しいんだよ!ガールフレンドが欲しいんだよ!!!」


魔王の声が石造りの廊下に響く。


「そんな理由ですの?」


まぁ、よくよく考えてみれば、好感度を求める理由なんてそう沢山は無いと思いますが・・・

それにしても・・・


「魔王のくせに願いがショボいのですわね」


蔓延の笑みで、この上ない程度笑みで私は行った。


「やめろー、そんな顔で言うな!その笑顔は攻撃にしかなってないぞー!」

「勿論そのつもりですわよ」


私をさらった罰、受けるがいいですわ!


「・・・おいアリス」

「はい、何でしょうか」

「俺の羞恥の責任を取って俺の恋人になれ」


は?

とうとう本物の阿呆になってしまいましたか・・・


「お断りします。そもそもあなたの自爆でしょう?」

「じゃあ決闘だ。俺が勝ったら魅了の魔法をかけさせろ」

「い・や・で・す・わ・よ!」


何故か、目的が恋人にする事から魅了の魔法をかける事にすり替わっていますわ・・・


「・・・よし、なら君が勝ったら君を城に帰してやろう」


?!


「ほ、本当ですの?」

「あぁ、約束しよう」


いえ、思いとどまるのですわアリス=シェルバーニャ。

戦うにしても何か情報を引き出して少しでも有利に・・・


「あなたの弱点を教えなさい、そうすれば考えて差し上げますわ」


少し露骨過ぎたでしょうか。


「よし分かった」

「え、良いんですの?」


まさかここまであっさりと聞き出せるとは思いませんでしたわ・・・


「えっと、俺は太陽の光に弱い」

「・・・」

「以上」

「・・・」

「・・・」

「え?」

「え?」

「それだけですの?」

「あぁ」

「少なくありませんか?」

「仕方ない」

「他に何かないんですの?」

「無いな、諦めろ」

「分かりました」

「諦めたか?」

「えぇ」

「そうか」

「あなたが阿呆と言う事も」

「おい!」

「はい」

「アホって言うな」

「アホではなく阿呆ですわよ」

「同じようなものだろ!」

「それはさておき」

「置きたくないね」

「閑話休題」

「休むな!」

「休む?話を戻すという意味ですわよ。あなたは本当に阿呆ですわね」

「阿呆って言うな、意味くらい知っている!」

「では“閑話休題”という言葉についてどの程度知っているのですか?」

「本来は接続詞的な言葉だという事だ」

「意味は?」

「ところで」

「“ここからは余談ですが”と言う意味もあると知っていらして?」

「あぁ、もちろんだ」

「違いますわよ」

「何がだ」

「“ここからは余談ですが”と言う意味はありませんわ」

「騙したな?!」

「この程度で引っかかるほうが悪いですわ」

「責任転嫁だ!」

「では、本当の意味を知っていまして?」

「いや、知らん。教えてくれ」

「話を本筋に戻すこと」

「そうなの?」

「えぇ」

「そっか、知らなかったぜ。・・・あれ?」

「どうかなさいまして?」

「君は俺が阿呆かどうかなんてどうでも良いと思っていたのか!」

「飽くまで余談ですわ。思っていますけれど」

「やっぱ思ってるじゃん!」

「どうでも良いことですわ」

「俺は良くないよ!」

「キャンキャンうるさいですわね。あなたは犬か何かですか」

「吸血鬼だよ!!」

「え?」

「あっ・・・」


今、吸血鬼って・・・

だって、だってこの人は・・・


「あなた、魔王ではなかったのですか?」

「あぁ、俺は吸血鬼だ、悪魔じゃない。鬼だ」

「でもさっきは自分の事を魔王と言っていたではありませんか」

「そうだっけ?まぁほら、魔“王”ってかっこいいじゃん?ちょっと舞い上がってただけなんだよ」

「そんな適当な・・・だとしたら性別はあるんですの?」

「あるぞ、俺は男だ」

「では性器はあるのですね?」

「おいお姫様」

「何ですの?」

「はしたないわ!」

「確かにそうですわね」


若気のいたりが過ぎたというものですわね。

・・・なぜかデジャブ感がありますわね。

まぁ良いでしょう。

吸血鬼だという事が分かればもう充分ですわ。

あとは。


「決闘の際、魔法は使えますの?」

「え、何で急に話戻しやがって・・・使える。城外の闘技場を使うからな」

「そうですか。では私の持ち物を全て返してください」

「あぁ、あの小っちゃい奴か?ドレスの中に入っていた」

「・・・そうですわよ」

「あれ?どうした?顔を赤くして」

「スカートの中・・・」

「え、何て?」

「スカートの中は見てませんわよね?!」

「見てねーよ。立派な紳士は女性にはしたない事はしないんだ」

「じゃあ魅了の魔法も無しですわね」

「それは違う」


自分勝手な。

まぁ、あれは取引ですし別問題という事で良いでしょう。


「でもあんな小っちゃい武器で闘うのか?何なら武器を貸してやるぞ?自分で言うのもなんだが、俺はかなり強いからな」

「心配要りませんわ」

「そうかいそうかい。油断して負けても知らないからな」

「それはこっちの台詞ですわよ」

「では行こうか。闘技場へ」

「えぇ、徒歩で」

「分かってるじゃないか」


少し間を開けて、二人同時にため息をついたのだった。



――無駄話をしつつ歩いて、1時間以上が経過したころ――


「ここが闘技場だ」


私たちは闘技場の入り口前に立っていた。


「疲れましたわ・・・」

「俺もだ。こんなに歩いたのは久しぶりだ」

「それにしても城の入り口からここまでを何故歩いたのです?城外なら転移できるのでしょう?」

「それがだな、少し結界がずれてしまってここまで結界の範囲内なんだ。ま、闘技場内は結界外だから心配すんな」


そう言って魔王、もとい吸血鬼は歩いていく。

私はその後について行く。

少し歩くと、そこは円形に広がっていた。


「ちょっと待ってろよ」


そう言って彼は入ってきた方と反対の入り口の門の隣にあるスイッチを押した。


「何をしたんですの?」

「俺を要にして結界を張ったのさ、物理と魔法の二重結界だ。これで俺を倒さないと外には出られなくなったぜ」

「では私のそれを返してください」

「良いけど、本当に大丈夫なのか?」

「まぁ見ていてください」


私は魔王からそれを受け取ると、それに意識を集中させる。

そうすると、鉛筆ほどの大きさのそれは光りだし、少しずつその明るさを増してゆく。


「Concinit initio.

Magia est qui posuit in ferula, respondeo dicendum quod ad magica meo, autem vim exercebit.

Deformatio!」


私の詠唱が終わると同時に、それは杖へと形を変えた。

その杖はアリスの身長ほどの長さで、先端には透明で丸い石が埋め込まれている。


「おぉ、すげー。さっきまでのお前の自信の理由がやっと分かったぜ。それどうやって手に入れたんだ?誰かに作らせたのか?」

「アンジェ、私の師が持たせてくれたのよ」

「アンジェだと?」

「今何か言いましたか?」

「いや、何でもない。気にしないでくれ。そろそろ始めようか」

「えぇ、もう足の疲れも取れましたわ」

「そうか、そりゃ良かった」


会話は途切れ、その場に静寂が訪れる。

そして今度は自身の体の中心に意識を集中する。

体の全てをそこに集めてゆく感覚。

全ての器官が敏感になってゆき、少しの風の動きでさえ感じられるようになれば集中しきっている証拠。


「準備できたか?お姫様」

「いつでも良いですわよ、吸血鬼」


吸血鬼はズボンのポケットから一枚のコインを取り出し、親指で空中に弾いた。



決闘が始まった。


Concinit initio.

Magia est qui posuit in ferula, respondeo dicendum quod ad magica meo, autem vim exercebit.

Deformatio!


意味:詠唱開始。

杖に込められし魔力よ、我の魔力に答え効力を発揮せよ。

変形!

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