吸血鬼と英雄譚。
さて、アリスが魔法を無詠唱で使えるようになる前に誘拐して守りやすくすることには成功したが・・・
これからどうすれば良いんだよ・・・
あ、まぁ1ヶ月後にはアリス防衛線をしなければいけないが、それまでどうやって過ごそうか。
いっそ恋人にしてみるか・・・
しかし、容姿は吸血鬼であることもあって100点満点なのだが、口説き文句が難しい。
もう面倒だし魅了の魔法を掛けるとするか。
しっかしなぁ、魔法を掛けたいのは山々だが魔法禁止結界を張ることになるから結局意味無いんだよなぁ。
あ、そうだ、魅了魔法をかけた振りをするのはどうだろうか。
これならリスクはあるが面白そうだ。
1ヶ月間で何処まで進展できるか試そうではないか。
・・・とか言ってたなぁ、1ヶ月前の俺。
その後も色々考えて迷走して、結局はあんな行動に至った訳だが。
こういうのを俗に"黒歴史"って言うんだろうな。
あぁ恥ずかしー。
って、そんな事はどうだって良いんだ。
今、最も重要なことはアリスを狙う存在の排除。
使命によれば、 それは今日。
敵は一人。
そして今頃は城の前にいる筈。
敵は魔法使いだ。
つまり、俺が今展開している結界は今日のためのものだ。
敵の長所を潰すことでこちらが優位に立ち回ろうという寸法だ。
確かに俺は魔法に長けている。
無詠唱なんて簡単にできるような代物じゃないしな。
でも、俺は近接戦闘も得意なのだ。
吸血鬼というものは、普通の人間に比べて身体、魔法能力に大きなアドバンテージがある。
さらに、この城の武器庫には多種多様な武器がある。
時間も十分有ったから身体能力はかなり強化できている筈だ。
俺は腰の左側に刀を、後ろ側に短剣を、太腿には苦無を装備している。
準備万端、覚悟はできた。
さぁ、もう入り口だ。
夜にも関わらず開ききった扉が月明かりを城内へ迎え入れている。
その月明かりを背に受け、こちらに向けて影を伸ばす一人の存在。
右手には杖を持っている。
つまり、魔法使い。
魔法使いは言う。
「随分と辺鄙な場所に住んでいるのだな」
魔法使いは続ける。
「しかし面白い土地だ、まるで何もない」
魔法使いは悩む。
「さて、此処にはどうやら魔法禁止結界が張られている様だが、核となるクリスタルは何処にあるのだろうか」
魔法使いは気付く。
「おや、まるで鏡を見ているようだ、魔王と俺の顔は良く似ている」
魔法使いは問う。
「魔王、お前は俺の何だ?」
・・・すげー強烈なキャラ来たよ。
何こいつ、何か面白いな。
と言うか、俺、こいつと顔が似てるのか?
鏡に写らないから分かんねーよ。
そして俺とお前の関係なんて知らねーよ、初対面だよ、会ったことあったら覚えてるよ、絶対に!
「・・・初対面だが。我はお前の事など知らぬ」
うわ、久しぶりだなこの口調・・・
今更だけどキモいな、これ。
やっぱり普通の口調が一番だな・・・
それにしても、やけに落ち着いているな。
魔法を使えないのは分かっている筈だが。
近接戦闘を心得ているのか?
いや、杖以外の武器が見当たらない。
腰には小型鞄と試験管のスロットがある。
スロットには試験管が3本ついているが、見た限りどれも魔法薬だ。
鞄も機動面を考慮してか、小さめだ。
短剣は入りそうにない、しかし小型の投擲具なら幾つかは入るだろう。
毒の可能性を考慮して鞄の方は見ておくか。
さてと、どう攻撃したものか。
先ずは投擲で牽制と体制崩し。
腕を振り上げつつ苦無を抜き、振り下ろしつつ投擲。
そのまま刀の柄に手をやり突進、そして抜刀術で切り捨て。
これで行こう。
「魔王、策は練られたか?」
俺はにやけ、苦無に手を近づける。
「あぁ、覚悟しろよ?」
俺は苦無を手に取り、頭上に振り上げる。
魔法使いはこの行動に反応して身構える。
構えられた杖と腕の間を通るようにして苦無を投げるが、当然防がれる。
しかし防ぐ行為をとったことで、既に魔法使いの敗北は決定している。
俺は突進しつつ左下段から右上段へと軌道を描きつつ、魔法使いを斜めに切り上げた。
抜刀術。
居合い、立合いの状態から刀を以て斬る技であり、他の剣術とは異なり刀を鞘に納めた状態からの攻撃手段である。
そして素早い抜刀と共に相手を斬り捨てる。
・・・え?吸血鬼が刀なんか持つなって?
レイピア?短剣?
ふっ、そんな事は知らん。
魔法使いを倒すための手段としてこれが一番適していると思ったから刀を使っているんだよ、文句言うな。
さて、血の処理をしないとな。
俺は構わないが、アリスがこれを見たら何を言うか分からんしな。
しかし、血は無かった。
相変わらず月明かりは地面を照している。
その光を地面が反射し、キラキラと輝いている。
しかし、それを一つの影が邪魔をしている。
俺の影だ。
俺の影だけだった。
魔法使いの影は無かった。
どこへ・・・いった?
と、俺は急に全身が押し潰されそうな感覚に陥る。
上からではなく全方向から圧力がかかる、まるで球の内に閉じ込められているようだ。
こんな力は魔法でないと有り得ない、つまり、何者かが結界を解除したということになる。
一体誰が?
振り向くと、そこは魔法使いがいた。
魔法使いは言う。
「これは封印だ。魔王は不死身と聞いた。殺すことによる無力化はできそうにないため、こうして貴重な魔道具を使ってお前を封印しようという事だ。さて、封印が完了する前に、姫様の居場所を教えてもらおうか。自分で探すのは面倒なんだよ」
「死んでも、教えないな!」
俺はそう吼える。
そうすることで、この状況に混乱した自分を制しようとする。
思考する。
あの結晶は地下の一番奥に置いてきているから、魔法使いは確実に壊しに行くことができない。
しかしここに来る奴は一人の筈。
自然に解除されることはあり得ない。
くそっ、どうなってる?
こんなことは一人では確実に成し得ない、しかし、俺の使命は敵は一人だと告げている。
一体、魔法使いは何をしたんだ?
いや、そんな事よりも今はこの封印から脱せねば!
この城の大図書館にある魔法書のひとつに記述されていた魔法を思い出し、効果を思い浮かべる。
そして言い放つ!
「振り向け力!」
自分へ掛かっている圧力の上昇が止まる。
この魔法は"反転する力"と言って、その名の通り、力の向きを好きな方向へ変えるというものだ。
これによって封印の力の向きを反転させ、追い返そうということだ。
封印が俺に及ぼす力が、徐々に弱まっていく。
段々と体の自由が戻り、反撃のための魔法発動の準備を始める。
・・・筈だった。
"反転する力"は発動しなかった。
魔力が、体内に残っていない事を覚った。
魔法使いは言う。
「対策をしていないとでも思ったか?貴重な魔道具だと言っただろ?魔王を封印しようとしているのだぞ?魔力を吸い付くされ、永遠に眠っていろ」
意識が遠退いていく。
魔力とは意思である。
魔力が枯渇すると意思が薄れる、つまりやる気が無くなる。
枯渇が激しくなると体が動かなくなり、無くなると生命活動が停止する。
だから、魔道具によって魔力を吸われ続けている俺の生命活動は止まる。
体は動かない。
思考が停止する。
そして、停止する。
こうして、魔王は封印された。
そのころ、魔王城地下では。
「全く、手間を取らせてくれたものだね。まさかこんな端の方に設置するなんて思わなかったよ。配置場所も指定すればよかったな」
銀の髪を持つその女性は、暗い地下でそう呟く。
彼女のそばには一つの発光球が浮かんでいて、それによって足元を照らしている。
「さて、もう戻らないとね。あいつもそろそろやられた頃だろうし、あまり長居するとあの魔法使いに怪しまれちゃうしね」
彼女は歩く。
半径1メートルを照らすのがやっとの弱い光のみで、複雑なつくりの魔王城地下を迷いなく進む。
道標など付けていない。
あたかも構造を知り尽くしているかのように進む。
自分の家にいるかのように歩く。
そろそろ地上階に到達するであろう頃、彼女は思い出したことを口にした。
「もし仮に、人に天命という名の指名を与える存在を神と言うならば。セイメル、君にとっての神は私なんだよ。って言ったら、彼はどんな反応をするんだろうね」
そんな何気ない一言だった。
「もうメイド口調に戻さないとね」
そして魔法使いとメイドは合流した。
1か月後、国王の妹”アリス”を連れて王国に戻った二人、冒険者と、アリスの付き人であるメイドのアンジェは、国王自らに称えられ、多くの財産と英雄という名の名誉を獲得した。
以降、魔王による誘拐事件は無くなり、世界には再び平和が訪れた。
そして冒険者は魔法使いとしての人生を全うし、アンジェはメイドとして、アリスの付き人としての人生を全うした。
この物語は後世にまで伝えられており、今なお英雄譚として、世界中で語り継がれている。
The story of the hero is a happy ending.
But the story of a vampire is a bad ending.




