影を踏まれた鬼の末
ゆらゆらと、揺らめく。
地面に、壁に。
黒々と、掲げる。
私の影。
放課後の通学路。
一人歩く私を、夕日が背後から照らす。
私の前には影。
私の足から伸びる黒い塊。
私の形をしていれば、それはちゃんと影だったのに。
その影は私よりの何倍も背が高く、
その影は私よりほんの少し太い。
笑ってる。
影が笑ってる。
顔らしきところにある、口らしきものが笑ってる。
ゆらゆら揺らめいて、どこに何があるかも定かじゃないくせに。
何でこうも何かに見えてしまうのか。
「化け物だ!!」
「ホントだ! 化け物が歩いてるぞ!」
「近づいたら怪我するぞ!」
後ろから声がする。
振り返るとそこには3人の男の子がいた。
こっちを見て笑ってる。
本当に楽しそう。
でもさ、
ねぇ、君たち。
今の自分の顔を見たことがあるの?
その笑い顔を鏡で見たことがあるの?
私の影と同じ顔だよ。
それがどれくらい醜いかわかってるの?
でも仕方がない。
私が普通じゃないことはわかっている。
こんな気味の悪い子供じゃ仕方がない。
両親だって気味悪がって近づこうともしない。
昔はこんなんじゃなかったのにな。
といっても2年前だけど。
影踏み鬼、やってたんだ。
鬼がそれ以外の人の影を踏んで、踏まれた人が次の鬼になるの。
私は鬼だったんだ。
鬼だったからみんなを追いかけた。
影を追いかけた。
見つけて踏みつけた。
影踏んだって言って踏みつけた。
影はちゃんとあったの。
でもその先がなかった。
影しかなかった。
影は私の影に入ってきた。
その時から私の影は大きな黒い何かになった。
ゆらゆらと揺れる影ではない何かになった。
「本当に、あなたは何なの?」
私は足元に問いかける。
当然返事はない。
ずっと笑ったままだ。
「あなたは何でここにいるの?」
重ねて問いかける。
当然返事はない。
まだ笑ったままだ。
「あなたはどうしたいの?」
三度問いかける。
当然返事はない。
最後まで笑ったままだ。
と、後ろにいる3人組の一人が一言。
「影踏んだ!」
そう言って私の影を踏んだ。
すべてが終わる少しの間に、私は理解した。
ああ、なるほどって思った。
あなたはあなたたちなんだねって。
いろんな人と一緒になりたいんだねって。
いろんな人に踏んでもらえるようにこうやって大きくなってるんだねって。
そうやって私たちは男の子の影になった。




