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その39 ハッピーエンドの物語

 最初に“はじまりの世界”へ訪れたときのように。

 意識を取り戻すと、光久は全く見知らぬ場所にいた。


(――……ここは?)


 キーンコーンカーンコーン、と。

 どこか遠くで、耳慣れたチャイムの音が聞こえる。


 『ウェストミンスターの鐘』。


 その懐かしい音色に、一瞬、自分の世界に戻ってきたのかと思った。

 だが、それがまやかしであることはわかっている。

 合原光久は、“魔女”に会うため、”死者の世界”にいるのだ。


 周囲を見回す。

 魔衣、“勇者”の順番で目が合った。


「移動したのか……?」


 件の死に神からもらった金貨を懐へとしまいつつ、当たりを見回す。


「みたいね」


 魔衣は、これでようやく一息つける、とばかりに深呼吸した。


 どうやらここは、六畳ほどの部屋らしい。


「なんつーか、懐かしい感じっていうか。俺のいたセカイに近い場所だな」

「そうなの?」

「ああ。俺の故郷の”女の子の部屋”って感じだ」

「へえ……」


 ベッドの上の、ファンシーなぬいぐるみ。

 アイドルグループのものらしきポスターに、ティーン向けの情報誌や、女の子向けの漫画本。

 文字は日本語だが、雑誌や漫画本は、見覚えのないものばかりだ。


「ひょっとするとここ、らいかの私室じゃないか?」

「うん。あたしもそう思ってた。……ほら」


 魔衣は“美空らいか”と名前が書かれた、国語の教科書らしきものを指差す。


「だとしたら。ええと、……どういうことだ?」

「わかんないわねー」


 光久は意を決して、少しさび付いた雨戸を開いた。

 そこには、しんと静まり返った住宅街が広がっている。

 身を乗り出してあちこち見てみるが、人の気配はなかった。


「でも、ここがあいつの家なら、そのうち帰ってくるってことじゃないかしら?」

「まあ、そうだよな……」


 飛ばされた先がこの場所なのだから、あまり身動きすべきではないように思える。


「それじゃ、……しばらく待たせてもらうか」



 ……と。

 部屋に放置されたまま、三十分。


(時間を無駄にしているな)


 そう思うに十分な時間が経過する。

 さすがに焦れたのか、ベッドの端に寝転んで、魔衣は嘆息した。


「いまさらだけど。……やっぱこっちから探さないとまずいんじゃない?」

「俺も同じことを思ってたところだよ。少しあたりをみてくるか」

「うん」


 その時、ほとんど不意を打つようなタイミングで、がっしりと肩が掴まれる。


「お、おおっ!?」


 驚いて振り向くと、――“勇者”だった。


「なんだ? どうかしたのか?」

「………………………」


 相変わらずの無口。

 身振り手振りから察するに、どうやら“クエスト・ブック”に用があるらしい。

 要望通り本を開くと、とん、とん、と、“勇者”の指先が、ある一点を叩いた。


 そこには、


――ここまでの ぼうけんを きろく しますか?


 という文字。


「ハァ?」


 光久は眉をひそめる。

 遅れて、魔衣もその一文を見た。


「何それ。……冒険を……記録?」

「とりあえず、調べた方がよさそうだな」


 光久は、手早く“クエスト・ブック”のページをめくる。


「ぼうけんの……ぼうけんの……。これか」


――きょうかいに いくことで ”ぼうけんのきろく”が できるぞ

――また ボスせんの まえにも ”ぼうけんのきろく”が できる

――しぬと ”ぼうけんのきろく”を したところから やりなおしに なる


「これは……」


 思わず、顔をしかめる。


「死ぬと、やりなおし……って。どういうこと?」

「そのままの意味じゃないか」


 光久は、ゆっくりと言葉の意味を呑み込む。


「ひょっとしてコイツ、……死なない(・・・・)のか?」

「ここにそう書かれてるってことは、……そうなんでしょうね」


 急に、”勇者”の得体の知れなさがひときわ増した気がした。


「えーっと。……つまり、だ」


 光久は腕を組んで、考え込む。

 自分の持っている手札が、想定していたよりもはるかに強力であったことについてを。


「こういうわけね。あたしたちは、“勇者(コイツ)”に”魔女”を殺すよう命令して、ここを出るだけでいい、……と」


 光久はうなずいた。


――なるほど。簡単な仕事だ。


 そうするだけで、……“魔女”は、永遠に復活し続ける“勇者”と戦い続けることになる。


――“災厄”を“取り除く”こと。


 それが”造物主”の望みであるならば、光久たちは既に目的を達成したと考えていいのかもしれない。


 “魔女”が、どれほどの力をつけていても。

 ……不死の怪物にはかなうまい。


「どうする?」


 光久は、”クエスト・ブック”を持ってきたカバンにしまいながら、


「止めておこう。”ぼうけんのきろく”はとらなくていい」

「……いいの?」

「俺たちは別に、らいかを殺しにきた訳じゃない。話し合いに来たんだ。……”勇者”をけしかけるくらいなら、最初からレミュエルたちの力を借りていたさ」


 一瞬、魔衣は複雑そうな表情をしたが、

「それもそうね……うん」

 やがて、納得してくれる。


「どうせ手記に書くんなら、ハッピーエンドの物語がいい。そうだろ?」


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