大和学園③
「では改めて自己紹介をしよう」
一騒動の後、目の前の少女にしか見えない人物が学園長であることを告げられ、カズマは学園長室へと案内された。
いかにも高級そうな机の前へカズマを立たせ、自分はイスにふんぞり返るとどこから出したのか扇子を片手に話を進めた。
「わしはスズネ=カガミ、ここの学園長をしておる。種族は猫又、あまり自分から年齢のことは言いたくないが、おぬしの10倍以上はすでに生きておるゆえ、今回は許すが以後無礼な態度は控えることじゃ」
「10!?…知らないこととはいえすいませんでした、以後気をつけます」
「ほぉ…」
少し感心した風な顔を浮かべ扇子を口元にやるスズネにカズマは首をかしげる。
「どうかしましたか?」
「いや、あのじゃじゃ馬の下におったわりには素直で礼儀もできておると思ってな」
「あー…あれがあんななので俺はちゃんとするしかありませんでしたから」
じゃじゃ馬が誰を指しているのかがわかり、カズマは苦笑いを浮かべながら頭を掻いた。
「なるほどの、すまぬ話がそれた。今回わしがおぬしを探しておったのはこの学園についての説明のためじゃ、本来は入学前に行うんじゃがおぬしの場合はことが急じゃったためにわしが行うことになった。どうせあやつからは碌な説明はなかったろう?」
「はは…よくお分かりで助かります」
「うむ、とはいえあまり時間もないでの、掻い摘んで話すことになる。あとのことは担当の教師やクラスメイトにでも聞くがよい。ではまずこの大和学園についてじゃが、ここは世界政府であるEDENが運営する世界でも4つしかない魔法騎士育成校じゃ。定員は各学園200名、年に800人しか入ることできん超が付くほどにのエリート校と言ってもいいじゃろう。本来なら厳しい試験を受けてもらわんと入学など絶対ありえんのだが…今回はあのじゃじゃ馬からの推薦とわしの権力を駆使して無理やりその枠にねじ込ませてやった、感謝するんじゃぞ?」
「…それは俺感謝していいとこですかね?」
自分の顔が隠れるほどの扇子から顔を半分覗かせにやりと笑うスズネに困ったように笑いながらカズマは答えた。
「存分に感謝するがよい。この世界はまだまだ不安定なことばかりじゃ、突如として現れる魔獣、各所に散らばる人類未踏の地、獣人や魔人といった亜人達と人類との軋轢。それらを解決するため立ち上げた種族を問わない世界政府組織EDEN。そしてそのEDENが運営するこの学園に入れれば将来は安泰、EDENが管理する騎士団の多くはここの卒業生で構成されておるし仮に騎士団に入れなかったとしてもEDEN運営のほかの組織への斡旋も行っておる。どうしても騎士としての仕事がしたければEDEN以外でのレベルの高い騎士団からの誘いも多い。この学園で存分に学び、その持てる才を遺憾なく発揮すれば後に待つのはまさにバラ色の人生というやつかの」
後半は芝居がかった身振り手振りを合わせ、どうだといった表情で笑うスズネに
「……すいません、よくわかんないです」
とだけぶっきらぼうにカズマは答え、スズネはガクリと頭を垂れた。