プロローグ
「……はぁ」
キッチンに立ちてきぱきと朝食を作りながらカズマは深いため息をついた。
「……カズマ、お腹減った」
「もうできるからちょっと待ってろ」
この春から念願の学園生活がスタートし、寮で一人暮らしを始めたはずのカズマだが、ある日を境にその短すぎる一人暮らしは終わってしまった。
「おまたせ」
そう言ってできた料理を一人暮らしを終わらせた原因となる少女が待つテーブルへと並べていく。
「……いただきます」
その少女は特にカズマにお礼を言うわけでもなく両手を合わせてから淡々と出された料理を口に運んでいく。
カズマも自分の分をテーブルに置き、いただきますと呟いてから特に会話をするでもなく静かに食べ始めた。
もぐもぐと口を動かしながらチラッと向かいに座る少女へ目を向ける。
白髪のショートヘアに透き通るような白い肌。全体的に色素の薄い外見の中で一転して主張の強い目力のある赤いルビーアイ。
もし普通に出会い、仲良くなってこうして食事をしていたならば素直に喜んでいたであろう。
しかし、今の状況では喜ぶどころか逆にどうやってこの現状を打破しようかと考えるのがカズマの悩みの種だった。
(どうすりゃわかってくれるのかねぇ……いくら言っても聞かねぇしいいすぎるとこいつ泣きやがるし……)
何か方法はないものかと答えがでないのをわかっていてもあれこれと頭の中で考えていると突如ゾクッと背筋が震えた。
まずいと思いあわてて席を立とうとするももう遅かった。いつの間にか向かいに座っていた少女はカズマの背後へと回り、逃げようとするカズマを一ミリも動けないような力で椅子へと固定させる。
「まて!!やめろやめろやめ…」
「いただきます」
後ろを振り返り必死に拒否するカズマを無視して少女は一言そういうと、首筋へ近づきカプっとその二本の牙を突き立てた。
「あーーーーーーーー」
こうして今日もまたカズマの叫びが虚しく響き渡った。