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闇色の使者  作者: 細螺蒼
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「あー、でも、保護されることになったら、優太くんの悪事がバレちゃうかもしれないね」



 ギクリと、身体が強張る優太。



「お前……」



 どうして知っているんだ、という表情で優太はリィードゥを見た。



「噂ってすごいよね。聞いてもないのに、自然と耳にはいるんだもん」



 優太は世間でいうところの不良だ。

 カツアゲなど日常茶飯事。傷害だって起こしたことがある。うまくごまかしたから、事件にはならなかったが。



「――もっとも、そうでなくては「贄」に相応しくないのだがね」

「は?」



 リィードゥの呟きに優太は聞き返す。よく聞こえなかったのも原因かもしれない。



「なんでもないよ。ほら、警察に行こう? 今度はちゃんと、対応してくれるよ」

「無駄だって」



 優太の腕を掴んで、リィードゥが立たせようとしたが、それを彼は振りほどいた。



「……仕方ないな」



 ため息まじりにリィードゥは言い、優太の両目を覆うように手の平をのせた。



「おい?」

「お前に外に出てもらわないと困るのだよ、私としてはね」



 手の平をのせられた途端、優太の身体は弛緩する。



「さあ……宴を始めようか」



 ゆっくりと手を離すと、優太の目には光りがない。



「母親の方は、記憶操作を終わらせた」


 リィードゥの背後に現れたシュリュナがそう、彼女に言う。



「ご苦労さん、シュリュナ」

「苦ではなかったがな」



 人を操ったり、記憶を操作したりなど、悪魔である彼らにしてみれば、朝飯前だ。



「あいさつみたいなものなんだから、軽く流せ」



 一言で言えばシュリュナは真面目の部類になる。だから、リィードゥのお守りにシュリュナが選ばれた。

 子供のように無邪気な部分があるリィードゥと真面目なシュリュナ。

 正反対だからこそ、うまくいっているのかもしれない。



「……行こうか、曽根木優太」



 リィードゥが名を呼ぶと、人形のようにコクリと優太は頷く。

 もはや、彼はリィードゥの思うがままだ。



「どうやって引き合わすつもりだ」



 シュリュナの疑問はもっともだろう。けれど、彼の疑問にリィードゥは簡潔に答えた。



「正面から堂々とだよ」



 ――と。











 圭太が一服していると同僚が「お前に客」と言ってきたので、玄関へと向かう。



「あれ……君は」



 警察署の入口に立っていたのは、圭太に道を聞いてきた少女。だが、ひとりではなく、同級生だろうか、少年と一緒にいた。



「どうしたんだい?」

「刑事さんに用があってきたの」

「俺に?」



 自分を指さして圭太は、少女に聞く。

 小さく少女――リィードゥは頷き、圭太を見据える。



「どうした?」

「あのね、最近の連続殺人のことで」



 連続殺人の言葉が意味するところは、ひとつの事件しかない。

 タロット事件と呼ばれている事件しか。



「君は越してきたばかりだから、知らなくて当然か」

「ニュースでやってるから、知らないことはないよ」



 日本だけでなく、世界中でニュースになっているのだから、知らない方がいないだろう。



「あのね、優太くんも同じ誕生日なの」

「優太くんって、君の隣にいる?」



 どこか生気のない少年に視線を移し、圭太は聞く。



「うん。前にも来たらしいけど、取り合ってもらえなかったんだって」

「ああ……」



 リィードゥの言葉を聞いて、圭太は返事を濁す。

 はっきりいって、警察は忙しい。そんな中、同じ誕生日ひとりひとりに護衛をつけるほど、警察は人員をさけない。



「ところで……転校してきたばかりなのに、その子と仲良くなったんだね?」



 今の子はすぐに仲良くなれるんだねえ、と感心した風に圭太は続けた。



「それに俺のこともよくわかったね」

「刑事さんに向いてない刑事さんって言ったら、納得してくれたよ」



 リィードゥの言葉に圭太はがっくりと肩を落とす。

 その例えで呼ばれる自分にショックを隠せないでいる。



「優太くんのことだけどね」

「あ、ああ……うん」



 ちょっとまだ、立ち直れない圭太は、はっきりした返事で答えない。



「――次に殺されるのが、こいつだと言ったらどうする?」



 がらりと口調を変えたリィードゥに、圭太は目を見張る。



「……冗談を言ったら駄目だよ」

「冗談じゃないんだけどね」



 あくまで冗談を言っているのだと思っている圭太にリィードゥは、一枚のカードを見せる。

 ――『審判』のタロットカードが、彼女の手に握られていた。

 カードを見た瞬間、圭太は一瞬、息が止まる。



「タロットカード……」



 圭太が呟いたのと同時に、鈍い音が署内に響く。



「……あ」

「お前の役目も終わりだ、曽根木優太」



 音の出所は、リィードゥが優太の心臓を素手で握り潰した音だった。






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