⑥
曽根木優太は震えていた。
理由は最近、世間を騒がしている連続殺人のせいだ。
「――随分と恐怖しているねえ」
「!?」
突然の声に文字通り、優太は飛びのく。
「誰だよ、お前!?」
「やだなあ、中学からの同級生の澤田凜じゃないか」
にっこりと笑んで、リィードゥは優太に言う。
部屋に鍵をかけていたにもかかわらず、入ってきたことに優太は気付いていない。
いや、気付いていたとしても、それどころではないということかもしれない。
「お前なんて知らねえッ!」
「これから知るんだよ」
後退りする優太に近付きながら、リィードゥは言い、右手を彼にかざした。
手をかざした瞬間、ビクンと優太の身体が大きく痙攣する。
「……ッ」
「お前には、最後の獲物のために、働いてもらうよ」
硬直したままの優太の瞳は、どこか虚ろだ。
かざしていた右手を左手とあわせ、軽く叩く。
ぱんっという音と共に、優太の瞳に意思が戻ってくる。
何度か目をぱちぱちさせてから、優太はリィードゥを見た。
「凜……?」
「うん、大丈夫?優太くん」
「凜」と呼んだ優太にリィードゥは心配そうな表情をした。
「お前……どうやって……」
「部屋の鍵は開いてたよ」
ほら、と指さした場所は部屋のドア。確かに鍵はかかってない。
「いや……そういう意味じゃねえよ。なんでいるんだって意味なんだけど」
「優太くんのお母さんに入れてもらったからだよ」
それ以外にないでしょ、とリィードゥは優太に言う。
「じゃあ、なんで会いにきたんだ? そんなに仲良くねえだろ、俺とお前」
「学校に全然こないから、心配で来たのにヒドクない?」
頬を膨らませながら、リィードゥが言うと「余計なお世話だ」と言い返す優太。
「怯えてるって、聞いたよ。大丈夫?」
話を切り出したリィードゥに優太は無言になる。
「別に……怯えてねえよ」
「誕生日が一緒だからって、そんなに怯える必要はないと思うよ?」
「だから怯えてねえよ!」
力むところを見ると図星だろう。
リィードゥは内心、ほくそ笑む。
恐怖、絶望、そういったマイナスの感情は彼女たち地獄の住人には心地好い代物。
「……そんなに心配なら、警察に行けばいいのに」
「行ったけど、取り合ってくれねえんだよっ」
さすがに10人も同じ誕生日の人間が殺されると、もしかしたら、と思うようになる。
優太は警察に保護を求めたのだ。
けれど、優太が警察に行った時、警察は保護を求める人で溢れていたため、取りあってはくれなかった。