⑤
自分の席に戻ってきた圭太に、同僚は資料のコピーを渡した。
「なにこれ」
「読んでみりゃわかる」
簡潔に答えた同僚に圭太は「了解」と返事をし、資料に目を通す。他の刑事たちも同じく読んでいた。
読んでいくうちに圭太は同僚の方を思わず見た。
「イギリスでもあったんだな」
「ああ、なにせ、250年も前だから、詳しい資料は残ってないみたいでな」
唯一わかるのは、最後の被害者が殺されると言い触らしていたこと。
警察が念のためにと、保護したにもかかわらず、殺されたことくらいだろう。
「イギリスの事件と同じってことは、後ふたりってことになるのか……」
22人の連続殺人。その人数以上、殺されることはなかった。
結局、イギリスでは迷宮いりしてしまった。
「新しい被害者が出る前に、なんとかしないとな」
同僚の言葉に圭太は「ああ」と頷いた。
リィードゥは高級住宅街をひたすら歩いていた。
制服の方を着ているので、怪しまれることはない。
「ここだな」
足を止め、見上げた先には高級感が漂う一軒家。
「さて……どうやって中にはいろうかな」
玄関から入る必要などないのだが、リィードゥはあえて、正攻法でいこうとしていた。
「そろそろ、この家の人間が帰ってくるはずなんだが……」
ちょっと早かったか?と首を傾げるリィードゥ。その時、ひとりの女性が「何か用かしら?」と声をかけてきた。
「優太くんに用があってきたんです」
女性はこの家の人間だ。彼女の方を真っ直ぐと見つめ、リィードゥは質問に答えた。
時間にして、数瞬だろう、お互い見つめあっていたが、女性の方が思い出したように口を開いた。
「……凜ちゃんだったかしら?」
「はい。優太くんは大丈夫ですか? 最近、学校に来てないから……」
さも、知り合いだという感じに話しだすリィードゥ。
当然だ。見つめた瞬間に彼女はリィードゥの術にかかり、リィードゥが自分の息子の中学からの同級生である「凜」だと思いこまされているのだから。
「当分は学校に行けないのよ、あの子」
「どうしてですか?」
首を傾げながらリィードゥは言う。
「知ってると思うけど、あの子……誕生日が同じなの」
連続殺人の被害者と同じ誕生日。
殺されるかもしれないと思っている彼は、家から一歩も出なくなった。
「じゃあ、会えないんですか?」
「ええって言いたいけど……せっかく来てくれたんだものね」
あがっていって、と彼女が言うと、リィードゥは「お邪魔します」と言って、家の中に入る。
「ちょっと待っててくれる?」
今、呼んでくるわ、と玄関のドアを閉めたリィードゥに彼女は言う。
「大丈夫ですよ」
リィードゥがそう言った瞬間、彼女はその場に倒れた。
「中にいれてくれて感謝するよ」
もっとも、そうするようにリィードゥが力を使ったからなのだが。
階段に視線を移し、リィードゥはゆっくりと、部屋に向かう。
21人目の犠牲者となる、少年の元へと。
人々が恐怖から解放される瞬間が、すぐそこまで訪れようとしていた――……。