②
「……どうだった?」
少女にかけられた声音は青年だ。服装を見れば、異国の人間だとわかる。
まあ、髪は銀色で瞳が翡翠色をしているので、日本人でないことは一目瞭然なのだが。
「少しは恐怖に陥っているかと思ったが……そんな様子がないから、拍子抜けかな」
先ほどとは違う、どこか寒気すらする雰囲気の少女に、青年は落ち着いたまま「そうか」と答えた。
「支障は?」
「問題ない。あるとすれば、応援を呼ぶことくらいだろう」
相手は警察だからな、と少女は言う。
「まあ、“人間ごとき”にどうこう出来はしないのだがね」
くっくっと喉で笑う少女に青年は何も言わない。
「そろそろ、気付くと思うぞ」
「気付いたところで、どうすることも出来ないよ。――もうすぐ“完成”するのだから」
そう、彼女にとって警察など怖れる存在ではない。
彼女が怖れるのは“儀式”が“完成”しないことなのだから。
――そのために選別して、“殺して”きたのだ。
「そろそろ仕上げといこうかな……」
その言葉に青年は「急だな」と言う。
「どうせ、あの男ともうひとりで完成だ。お前だって、早く戻りたいだろう? ――我らが故郷……“地獄”に」
言葉を紡ぎながら、少女の髪と瞳の色素が変化する。
紫紺色の髪と瞳――それは公園で殺人をおこなった人物と同じ色彩。
連続殺人の犯人がそこには存在していた。
「リードゥ……俺はお前の監視役だ」
「お守りを任されて災難だねえ、シュリュナ」
嫌味を嫌味で返され、シュリュナは押し黙る。
「そういう所は「王」にそっくりだな」
「そりゃあ、娘だからねえ、似ているさ」
本当に、そっくりだよ、とシュリュナは内心で呟く。
同時に、リィードゥの父……地獄の王と呼ばれている人物との会話を思い出す。