プロローグ
闇夜の静寂と冷たさに包まれた荒野。月明かりに照らされた地のど真ん中に、一体の赤い巨人。『彼女』は片膝をついた状態で、傍で蠢く黒い穴を見つめているかのようだ。
そしてその足元に、長身の男。彼は穴を見た後、心配するように『彼女』の顔を見上げた。
「それじゃ、また来年にでも会おうか」
男が口の端を吊り上げて巨人に微笑むと、『彼女』はゆっくりと腰を上げた。
『彼女』は男を見下ろして何かを言いかけたようだったが、ついに何も言わず、明後日の方向を向いてその姿を消した。
男はそれを見届けて、穴の中へと飛び込んだ。彼を飲み込んだ穴は大きくなることも小さくなることもなく、ただその場にあり続けた。
まるで、まだそこを通る者がいると言うかのように。
――西暦2029年。突如世界各地に飛来した小型隕石群「ドロップ・スターズ」により壊滅的な被害を受けた地球にて、その復興・治安維持の為に国際連盟加盟国を基幹とした「連合軍」を結成。同年、大規模テロ組織が世界中で連合軍の活動を阻害し始める。
――西暦2030年。大規模テロ組織は「反連合組織プレイス」と名乗り、活動を活発化。連合軍が隕石内から発見した人型兵器「エイグ」を奪取する。
――西暦2031年。互いにエイグを使用した戦闘が各地で起こり、やがて大規模な戦争となっていく。晩年には連合軍から世界中に向けて第3次世界大戦の始まりが告げられた。人類は、禁じられたはずだった3度目の戦争の勃発を許してしまったのである。
そう、エイグという武力の出現によって。