第5話「英雄への一歩」part-C
何もない。そう思えるのは、周囲が闇に包まれているからだろう。目を凝らせば、星が瞬いているのが分かる。
そんな闇の中に、白衣姿の男がいた。その傍には、闇の中でも視認できる、黒い炎が浮いている。そして、地面らしき所で横たわり眠るアーキスタがいる。
『よい、だったですか?』
妙な口調で、炎は少女の声で言葉を発した。
男がそれを気にすることはない。
「たまには悪くない。見つかりかけたのはヒヤッとしたが」
そう言う彼の顔は、どこか楽しそうである。
『これ、ヒトは』
炎に言われ、男は足元で眠るアーキスタに目を向けた。
「気付くのがちっとばかし早いのがなぁ。いずれ気付くようにはしてあるんだが……あー。こうも続けていじってると嫌になる」
『彼、にもまたした?』
「あいつにゃ比較的強くした筈だったんだがな。あーあ、面倒くせ」
男は頭をぼりぼりと掻く。
『言、ない。我、助けるしてされる人』
「そういうときは『してくれる』、だ」
男が訂正すると、炎はうむむと唸った。
『言、難しい』
「時間はまだある。慣れていけ……っと。これでいいな。また頼めるか?」
男はアーキスタの頭に少し触れると、すぐにその手を離した。
『はい。どの時でも、有難い』
「俺がやってんのは手伝いだけだ。それより、ほら」
男が促すと、炎はアーキスタの傍に寄り、彼を包み込んだ。
『アーキスタ・レルラ、あなたには待っている人がいます』
先程までとは違う、滑らかな口調で。黒い炎は龍の形を取り、アーキスタを飲み込んだ。
そしてすぐ、龍は再び黒い炎に戻る。
「お疲れさん」
『??? ヒト、名? オツ、カレ?』
「いやいや、人の名前じゃなくて。お疲れ様ってことだよ」
『??? 理解、できる、ない。教える、して』
「待て待て。エイグのアップデートデータの処理が先だ」
炎をなだめる様に言うと、男はどこか遠くへと、闇の中へ消えていくのだった。
「……まるで赤子だな。あいつも、昔はこんな感じだったのかねえ」
第1部「出会」 完
イナ「第1部終わって暇だし、ゆっくりアヴィナの名前でも……」
レイア「……制圧戦が近い。お前は訓練だけでなく、ミュウから研究の手伝いも頼まれている。ほかにも作戦会議や……おい、どこへ行く」
イナ「嫌だっ!! なんでこんなに忙しいんだよ! おかしいだろ!!」
チカ「うるさい! 出番が皆無だった私などうなるのっ!!」
イナ「…………」(出番の話はすんなよ)
レイア「…………」(あれ、シエラにも同じ雰囲気が……)
ゼライド「ところで俺らって」
イナ「あんたはまだ早い、座ってろ」
次回:第2部「開花/制圧戦」・第6話「束の間の休息の忙しさの最中」。