表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/21

第5話「英雄への一歩」part-A

「……」

「……」

 初めてレイアとアーキスタと話した質素な部屋で、イナはそのレイアと目を合わせたまま硬直していた。言うなれば、蛇に睨まれた蛙、と言ったところか。

 イナがここに招かれたのは、ここが反省室であるからである。つまり、先程の戦闘の事で反省をしろ、ということだ。

 レイア曰く基地への被害は皆無ということで、イナはそれ以外の反省点を見つけ出す。

「……いや、うん。間違った情報を与えてしまったのは申し訳ないと思っている。こっちも焦ってたんだ、そこはお咎めなしで――」

 申し訳なさそうに言うイナを見て、レイアは目を丸くした。

「おいおい。誰も咎めるとは言ってないだろう」

「いやいやいや、目に殺意が籠っているように見えたんですがね」

「気のせいだろう。まあ、反省点としてはいいだろうが、如何せん状況が特殊だ。仕方ないだろう。私が期待しているのはそうではなくてだな……」

 レイアの真剣な眼差しが悪戯っぽく変わったので、イナはそそくさと部屋を後にしようとした。が、レイアがそれを逃がすはずもなく。

 襟首を掴まれたイナは、強制的に椅子に座り直させられる。

(期待とか言ってる時点でどうでもいい話だろ……)

「あのチカという少女の事だ。とりあえず医務室で検査を受けるようにしてあるし、シエラとアヴィナを同伴させた。特に問題はないが……さて、イナ。どういう関係だ?」

(言うと思ったよ……)「ただの幼馴染だよ。いいだろそんな話」

 興味に満ちているにやけ顔を忌々しく思いつつ、イナはふてぶてしく答える。

 だがレイアはにやけ顔を崩すことはない。気味悪く思ったイナはまた勝手に立ち上がり、部屋を出ようとする。

 今度は襟首を掴まれることはなかったが、代わりに言葉が彼の耳に届いた。

「ところで、イナ――中国基地を壊滅させたそうだな?」

(……こういうところがレイアらしいというか……)「ああ、そうだけど。どうかしたか」

 情報の速さにはさほど驚くことなく、イナは扉の前に立ったままレイアに応じた。

「いや、敵の戦力が大幅に削がれたのはいいんだがな。その戦果を聞いて、どうもお前に会いたがっている人が居てな」

「……いや、まさかとは思うけどさ。ズィーク司令だったり……する?」

「する」

「…………」

 即答され、イナは何と言っていいか分からなくなる。

「まあ、そういうことだ。早ければ明日の昼ごろに来る。今日は休め、奴らも基地一つ吹っ飛ばされて落ち着いてはいられんだろうからな」

「でもそれって、ここが狙われやすくなるとは限らないんじゃ……」

「……そう言えば、前に話をしたときに平和主義国が攻撃されにくい理由をはぐらかしていたままだったな。答えは単純明快、攻撃すると他国からの評価が下がり、攻撃の対象になりやすいからだ。分かりやすく言うと、弱い者いじめをしてると罰が当たる、ということだな」

「なら、なんでみんな平和主義国にならないんだ? あと、日本攻撃受けてるし……」

「いっぺんに言うな。一つ目の答えは前に言った通り、戦争せずにはやっていられない国があるから。二つ目の答えは、まあ、プレイスに制圧され国連から抜けたことだろうな。裏切り者扱いで追われる身だ、攻撃されて当然だが――まあ、奴らも世間体がある。多くの情報操作をしていても、堂々と破壊活動していたらばれるからな」

「だから俺達と交戦してるんだっけか。そんで情報操作で、俺達が悪者扱いと」

「そうなんだが……まあ、最低限プレイスが潰せたらいいらしいな。これまでに被害が出ているのは、支部とその周辺だ」

 イナはいつの間にかレイアの方を向いて、話に夢中になっている。

「っと、ここで話していては、お前の休憩時間が削られるな。今ので大体話した、行っていいぞ」

「え、あ、うん……どうも」

「私も暇ではないからな。アーキスタが帰ってくるまでは多忙の身だ」

「……手伝おうか?」

「何、心配はいらん。慣れているからな。ほら、さっさと行け」

「……了解。またな」

「ああ」

 軽く手を振りあってから、イナはドアノブを回し、引く――しかし、開かない。

「あれ」

「くく、く……それは押すんだ」

「~~っ!」

 イナは笑いを堪えるレイアを、顔を赤くして無視し早々に逃げた。

「可愛いやつだ」

部屋に一人残されたレイアは、心底面白そうにつぶやくのだった。

 

 所変わって、大浴場。

 シエラはレイアから、アヴィナと共にチカという少女の様子を見るように言われたが、彼女らはお互いに何を話していいか分からず黙りこくっていた。そんな二人を見かねたアヴィナが「風呂に入ろう」と言ったのだ。

 そういうことで、ここにいる。

「ええと、アヴィナ。なんでお風呂なの?」

「それはもちろん、裸の付き合い! 互いに自分の全てを見せ合えば、すぐに打ち解けるってもんだよ~」

 胸を張って、アヴィナは偉そうに言う。

 アヴィナの性格を知るシエラは、目的がそれだけではないことは承知している。

(さっきから胸ばっかり見てるの、ばればれだよ……)「アヴィナ、よだれ」

「ほえ? あ、ほんとだ。やははー」

 わざとらしいアヴィナを放って、シエラはチカの耳元に顔を寄せた。

「……気を付けてね。あの子、その……大きい人のをよく触るから」

「う、うん」

 まだチカの表情は硬い。と言うより、シエラは自分で言って悲しくなっている。自分と比べても、その差は圧倒的だ。

(イナ君も大きい方が好みなのかな……って、そうじゃなくて)「とにかく入ろう? 女の子なんだから、綺麗でないと」

「……そうだね」

(やっぱり緊張してるのかな……そりゃ、まだ何も説明してないしね。しょうがないか)

「二人とも、待ってよ~」

 アヴィナは自分を無視して脱衣所に入る二人を追う。

 3人並んで服を脱いでいると、チカは落ち着かない様子で首を動かしていた。初めての場所だからだろうか。

「どうかしたの?」

「あっ、いや、その……ここ、混浴なの?」

 聞かれたことの無い質問に、シエラは目を丸くした。

 だが聞かれるのは当たりと言えば当たり前で、この脱衣所から続く風呂場らしき部屋の扉には、女性専用であることが示されていない。

「いや、ここは女性専用だよ」

「ついでに言えばその隣にあるのが男専用だね~」

「え、と……どうやって見分けるの? 間違ったりしたら……」

「実はね、入口にちょっとしたセンサーがあるの。そこで入ろうとする人をスキャンして――女の人は入れるけど、男の人は入れない、そうだね……マジックミラーみたいな膜かな。私そんなに詳しくないからよく分かんないんだけど、とりあえず大丈夫だよ。男性用の方も似たのがあるから、異性用のお風呂に入ることはできないの」

「間違えたらもう一つの方に行けばいいしねー。それよりほらほら、早く脱いで」

「……アヴィナ。沈めちゃうよ?」

「やははー、怖い怖い~」

 笑いながら、アヴィナは体にタオルを巻いて浴場へと駆けて行った。

 残された二人は苦笑し合い、脱衣を続けた。

 その途中で、シエラは何度もチカの方をちらちらと見ていた。

「……やっぱりおおきい……」

「な、何?」

「ぐすん、なんでもない。きょういのかくさしゃかいだよ」

「??? そんなに荒れてるの、この世界?」

 間違ってはいないが間違っている解釈をするチカ。しかしシエラはそれ以上言うことはなく、タオルを巻いて浴場へと向かった。

 無視された上に置いて行かれたので、チカは急いで服を脱ぎ、タオルを持ってシエラを追った。


 食堂へ向かう途中で、イナはズボンのポケットの中が震えたのを感じた。何かと思い、プレイスフォンを取り出す。

(レイアしか交換してないはずなんだがな……)

 訝しみながらプレイスフォンを見ると、ミュウからの電話だった。

(いや、どっちにしろ何で知ってるんだよ……)

 眉根を寄せながら電話に応じる。

「はい、もしもし」

『……よくもまあ、そんなに呑気な返事ができるわね』

「?」

 不機嫌そうなミュウの声に、イナは更に眉を寄せる。

 何か嫌なことをした覚えはない。

「なんだよ、俺何かしたか?」

『ええ、すっぽかしてるわね。あんた、出撃する前に何してたっけ?』

「出撃前? ええと……作戦会議?」

『その前の出撃よ! すぐ帰ってきたでしょ!』

「ああ、あれか……えーと……あ」

 出撃前、何をしていたか。それを思い出した途端、イナの背筋に冷たいものが走った気がした。

 そう、補習が途中で終わっていたのだ。

「……ええと。はい。すぐ行きます」

『別にいいわよ、ちょっとくらい遅れても。ディータをそっちに向かわせるから、一緒に来なさい』

「え、ディータ? なんで?」

『まだヴェルクの改装案を伝えてないの。どうせ話すんだし、いっぺんに来てもらった方がいいわ』

「ああ、そう……」

『そういうことだから、ディータと連絡取っておきなさい』

「いや、電話番号知らないし……てか、なんでお前が俺の電話番号知ってるんだよ」

『あら、レイアから教えられたのよ。他にも、アンタと話した相手は大体知ってる筈』

「……」

 イナはいつの間にそんなことをされているのか思うと何も言えなくなったが、レイアという人間の事を思い出すと、さして不思議なことではないと分かった。

「あー、うん。了解。何も言わないことにするよ」

『そんじゃ、あんまり待たせないでね。何度も言うけど、暇じゃないのよ』

「へいへい」

 適当に返事をして、イナは電話を切った。次いでディータに電話をしようと思ったが、その時あることに気付いた。

(向こうが知ってるだけで、俺は知らねえじゃねえか……)

 話を聞いていればすぐに気付くことだが、逆に話していればすぐに気付くことであるはずだ。

 イナは通話履歴からミュウの電話番号を確認して聞こうかと思ったが、先程暇じゃないと言われたばかりだったので、それはしなかった。

 しかし、そうなるとディータとの連絡手段が無い。困ったイナは、とりあえず施設の入り口とされる場所で待つことにした。

 あまりディータが来ることに期待してはいなかったが、何もしないよりはましだと思ったのだ。

(……しっかし、夏だな)

 この世界に来る前は、冬真っ只中だったのだ。急な環境の変化に彼の体が適応しているのかは不明だが、少なくとも違和感は酷いものだ。

 蝉のけたましい鳴き声、眩しく熱い日差し。長らく感じていなかったそれらを前に、イナは古里に戻った時のことが心配でしょうがなかった。

(向こうとの時差がどれくらいあるのか知らんが、仮にそのままだとしたら季節が真逆、なんてこともあり得るわけか……考えたくないな。アロハシャツでシベリア行くようなもんじゃねえか)

 そんなことを考えているイナを、人影が覆った。何かと思い見上げると、そこには見慣れた白衣に眼鏡の青年、アーキスタ。

「帰ってきたのか」

「ああ、大変だったみたいだな」

 申し訳なさそうに言う彼の目の下には隈ができている。元の仕事に加え、昨日の戦闘の事で政府といろいろやりあったのだろう。

「今、お前一人か?」

「そうだな。ディータを待ってるんだが……連絡手段が無くて困ってるんだ、助けてくれ」

 言うと、アーキスタは得意げにプレイスフォンを出した。

「そう言う事なら任せろ。何せ俺はここの司令だからな、一応全員のデータはこの中に入ってる。お前と面識のある奴のデータやるから、ほれ、出せ」

 アーキスタがプレイスフォンを振るので、イナは彼の目の隈を見ながらプレイスフォンを出す。

「データの交換方法は知ってんだろ?」

「黒いとこくっつけるんだろ。俺はどうしたらいい?」

「んー……あ、そのままでいい。俺がデータをくれてやるだけだからな」

「そうか。ん」

 体力の浪費を防ぐ為にわざと口数を減らし、イナは、アーキスタにプレイスフォンの背を向けて突き出した。

 データの選択を終えたアーキスタは自分のプレイスフォンをイナのものとくっつけ、数秒そのまま硬直した。

「――よし、こんなもんか。俺はしばらく寝るから、連絡入れるなよ?」

「了解。トップに過労で死なれちゃ困るしな」

「レイアでも問題ないみたいだがな……」

 自信の消えた顔で、アーキスタはぶつぶつと呟く。

「ま、休め」

「互いにな。……ふぁ」

 大きく口を開けて欠伸をすると、アーキスタは手を振りながら施設の中に入っていった。

 早速イナはアーキスタからもらったデータの中から、ディータの電話番号を確認し、彼女に電話する。

 周囲に何もないのか、ディータはワンコールで出た。

『スレイド様、よかった。今どちらに?』

「んと、東区、複合施設の入り口だな」

『分かりました。すぐ参りますので、今しばらくお待ちください』

「ああ、少々遅れてもいいよ。どうせ暇だし」

『いえ、そういうわけには。すぐ参りますので!』

 そう言って、ディータは一方的に通話を終了した。風を切る音が聞こえてきたので、恐らくボードに乗っているのだろう。あれは人力のみで出せる音ではない。いや、試作段階のボードで出せる出力の限界を超えているという考えもありだが――深く考えない方がいいだろう。

 イナは通話の終了したという画面を見た後、画面を戻して先程もらった他のデータを見ることにした。

 シエラやアヴィナ、ミュウにアーキスタのパーソナルデータ……その後に、よく分からないデータがあった。

「……ブリュード襲撃時の隠……いん……隠蔽か、これ」

 しょうもないところで躓いたが、イナはそんなことを気にせず、データのタイトルに釘付けになっていた。

(こんなデータを普通俺に送るか? 罠か、これ。寝不足とは言え、司令ともあろう人物がこんな凡ミスするとは思えんし……てか、パーソナルデータ送るだけだろ。同じフォルダに入れて置くものか?)

 イナは気になりすぎてそのデータを開く。その中は、まるで無数のアリが這いまわるように活字で塗れていた。

(……凄いな。あいつ、いつもこんなの作ってたのか……)「えーと……これは……報告書の一種か」

 イナは日頃から小説を読んだりしているため活字が苦手ではないが、この多さには少し苦戦していた。しかしながら善戦し少しずつ内容を読み取っていくと、そこに自分やレイア、アヴィナ、それにブリュードとの戦闘の事が書かれているのが分かった。

 しかし目を通していく内に、イナの知らない内容が含まれていることが判明してきた。

「……上空に、戦艦型? どういうことだ」

 データにはつまり、イナ達が戦闘を開始するより前に、その上空を戦艦型エイグが飛んでいたと書いてある。もちろんイナはそんなことを知る由もなかった。レイアも、アヴィナもだろう。

 自分の知らない事実を知ろうと、イナは眼を動かす。

「『国防省はこれをレーダーに捉えていたにも拘らず、報告をしなかった。しかしこの情報元は不明であり、信憑性は薄い。仮にこれが真実であるのならば、政府に連合軍の関係者がいると考えて良いだろう』……はぁー。なんだよこれ」

 誰に対してかの報告かは不明だが、政府をあまり信用していないような文脈から、イナは他支部司令へのものかと推測する。

(いや、やっぱこれ俺が見るもんじゃないだろ……そりゃ、色々思う所はあるが……。戦艦型を出したのに、ツォイクを出しただけで帰るってのはおかしくないか。輸送機を使えばいい。それに待て、日本国内には行ったのに気付かれない? いや、そこは国防云々か……)「ん?」

 考えを整理していると、イナはあることに気付いた。それは、落ち着いていれば気付くはずだったことだ。

(それは置いても、何故レイアは気付かなかった? 俺が制止したにしても、戦艦型に気付いたならそれなりの反応を示すはず……いやいや、確か戦艦型に姿を消したりとか、そういう機能はなかったはずだ)「……あれ?」

 疑問が更に疑問を呼ぶ。

(そういえば、これもアニメの知識だ。実際のところどうなっているのか、俺は知らない――いや? アニメ?)

 その疑問が、また疑問を生む。

「なんでアニメと同じ登場人物がいるのに、声も、姿もアニメと同じなんだ……?」

 それは、本来ならこの世界に来た時点で気付くはずだったことだ。

 アニメと同じというのは、根本的に有りえない。アニメだと思っていたものが現実とそう大差ないのだ。

 今のイナの姿は、古里にいた時と変わっていない。一方で、レイア達もアニメの中の姿と変わっていない。

 明らかにおかしいのである。

 声もそうだ。アニメの中のキャラクターには、声優に声を当てられる。他人の声であるはずなのに、同じであるのはおかしいのだ。

 それが全て正しいものとするならば、答えはひとまず、イナの中には一つしか生まれない。

「――『絶響機動シャウティア』は、実写の動画だった……!?」

 衝撃的な仮説を口にして、イナは自分で言っておきながら目を見開いている。

 だがすぐに、鼻で笑い飛ばす。

(なわけ、ないか)「――とは思えんなぁ」

 真実だと思ったことをそう簡単に否定できず、イナは複雑な心境のまま腕を組み、首を傾げる。

 その体勢でうんうん唸っていると、遠くから低いエンジン音の様なものが聞こえてきた。

 腹の底まで響いてきたので、イナは思わずそちらに目を向ける。

「あー……ディータか」

 やや呆れたような声を出すと、ディータはボードから降りて、ぺこりと頭を下げた。

「遅れて申し訳ありません。それに、考え事のお邪魔だったでしょうか?」

「ああ、いや、気にしなくていいよ」(って……あれ。何考えてたっけ?)

 イナは自分が何を考えていたのか思い出せず首を捻ったが、分からないなら良いだろうと気にしないことにした。

「そうですか? でしたら、すぐ行きましょう。待たせるわけにもいきませんので」

「じゃあ、行こうか」

「はい。操縦は私がしますね」

「……なるべく、安全運転で頼む」

「了解しました」

 優しい笑みを浮かべるディータだったが、イナはそれでも不安が消えることはなかった。

 が、結局イナはディータの安全運転で心地よい風を浴びていた。


 開発研究室。二人が入ると、既にミュウが仁王立ちで待ち構えていた。

 彼らは何食わぬ顔で席に座ると、ミュウも溜息をつきながら椅子に身を任せた。

「まあ、補習を忘れていたことは不問にするわ。それより私が聞きたいのは、アンタのエイグよ。どうなんてんのよ、単機で中国基地壊滅させるって。あれ、核3つくらい飛ばしてようやく壊せるようなとこよ」

 あまりにも派手な例えに、イナはなんとも言えず苦笑する。

「はい、説明しなさい。知ってる範囲で良いわ」

「……と、言われてもな。何から話していいものやら」

「そんなに複雑な機体なのですか?」

「まあ、ちょっとな」

「なら、こっちから知りたいことだけ質問していくから、答えて」

 焦るようなミュウの提案に、イナは合点がいったように「おお」と唸った。

「それなら答えやすいな。頼む」

「じゃあ、そうね。何で動いてるの?」

「えーと……シャウトエネルギーっていう、ちょっと変わったエネルギーだ」

「……何、それ?」

(まあ、そうなるわな……)

 ミュウや他の隊員がシャウトエネルギーの存在を知ったのは、物語の中盤だ。知らないのも無理はない。

「なんて言うか、音エネルギーの一種? 人の声に含まれてるらしいんだが」

「音エネルギーということは、音、つまり声そのものなのでは?」

「違うらしい。正確にはよく分からないんだが……とにかく、音エネルギーって解釈で頼む」

「形を変えたり、バリアになったり、動力になる音エネルギーねぇ……? まあ、それは今度調べてみるわ。次は、そうね。ずばり、例の高速移動の説明をお願いしたいわ」

 イナは高速移動、という言い回しから、時流速の操作であることを理解する。

 だがこの機能の元になる時流速理論は、アニメの中では誰も信じなかったという設定である。ミュウやディータも、同じく信じない可能性はあった。

(でもまあ、言うだけ言うか……)「時流速理論、てのがあってな」

「あら、タネはそんなものだったの?」

 予想外の反応に、イナは眉をひそめる。

「知ってるのか?」

「まあね。過去を遡ってもあまり見られない、しょうもない理論で有名よ。知ってる人はほとんどいないだろうけど」

(いやいやいやいや、おかしいだろ。シャウティアが作られたのは40年後の火星。エイグもそこで作られたってのに、その技術の一つを既に知っている? おかしいだろ!)

「何、その顔。知ってて変?」

「いや、ええと……詳しくは言えんが、まあ、変なんだ」

「ふうん。まあいいわ、続けて」

「えーと、そのシャウトエネルギーの包み込む空間でのみ、時流速の操作が可能らしい。知ってるなら説明は省くが、要はシャウティアという物体に流れる時間だけを早めて、あたかも高速移動しているかのように見せる……だったはずだ」

「すると、その時流速というものを操作している間は、見えないと?」

「移動してりゃな。ずっと同じとこに居たらさすがに見える。出来の悪い時間停止とでも思ってくれりゃいい」

「へえ……まあ、いいわ。そっちも調べてみる。察するに、あんたのそのエイグ――シャウティア? は、そのシャウトエネルギーに何もかも任せっきり、ってことね」

「……そうだな。そうなる」

 あまりに短期で理解され、イナは少し戸惑う。思わずディータの方を見るが、相変わらずの笑顔。大体は把握したらしい。

「それじゃ……最後にしようかしら。中国基地をどう壊滅させたの」

「暴走だな」

 予測できていた質問だったので、イナは即答した。

 それに対し、ミュウは心底呆れたように頭を押さえた。

「暴走って……あんたねえ。何? じゃああれはまだ本気じゃなかったってこと?」

「まあ、そうなる」

「ええと、それはまた……はは……」

 さすがのディータも、少し引き気味である。イナもアニメでシャウティアの初暴走を見た時は、同様の反応をしていた。

「……うん、これだけで分かるような機体じゃないっていうのは、よぉく分かったわ。私としてもそれを究明したいところだけど、ちょっとばかし度が過ぎるわ、これ……」

「かなり過ぎてると思うんだがな。正直、俺が分かってない部分もある」

「その辺ももう、私達に丸投げして頂戴。どうせ面倒なら、とことん面倒な方がいいわ」

「……そうかい」

 さりげない優しさに感謝しつつも、イナはそれに全て任せるという気にはなれなかった。

 それは、シャウティアが自分の機体であるから――それだけである。自分の扱う物の詳細を知らないなど、気味が悪いからだ。

(と……これは、ズィーク司令も言ってたな)

「……はー。まあ、もうそれは置いておきましょう。何か聞きたいこととかある? 無いならディータの方の話をしたいんだけど」

「ああ、いいけど。ディータって言うと、ヴェルクの改造か?」

「そ、よく分かったわね」

「授業で言ってたろ」

「そういえば、そうね。ま、説明を始めるけど……アンタは行っていいのよ?」

 帰れと言わんばかりの視線を向けられるが、イナは気にしなかった。

「味方の機体を知らないってのは、ちょっとな。少しでも知っておきたいんだ」

「……そういうことなら、いいわ。――ディータのヴェルクは、ヒュレプレイヤー用の汎用機ね。要するにほぼ丸腰ってこと」

「それくらい知ってるさ」

「あ、そ。それで、大体の戦闘データを取ってみたんだけど……どうも、欠点が無いの」

「短所を補えないってことか?」

「逆よ。そもそも、改造する時は短所なんて考えないで長所を伸ばすことだけを考えるのよ?」

「はあ、そうなのか……」

 言われてみればそうだと、イナは思った。実際アニメでも同じセリフがあったが、覚えていないらしい。

「ところがディータは長所だらけ。何をどう伸ばせばいいのかさっぱりなのよ。そこで、本人に聞こうとしたんだけど」

 視線を向けられると、既にディータは顎に手を当て何かぶつぶつと呟いていた。耳を澄ますと、自分の本当に必要なものだとか、色々言っている。

「……そうですね。ここはあえて、変則的な機体に仕上げる、というのはどうでしょう?」

「変則的って……具体的には?」

「そうですね、子供っぽい意見ですが――様々な状況に単機で対処できる、とか」

 ディータ本人の言った通りの子供っぽい意見に、一瞬空気が凍りついた気がした。

 しかしよく考えてみると、これはイナの活躍できる場面であるかもしれない。

(こういう場面はなかったしな……ここはひとつ、ロボットアニメで蓄えた知識を使ってみたりとかしようかな)「そうだな。となると、射撃と格闘が同時にこなせる武器が欲しいよな」

「……まあ、真面目に考えるならね。でも、いかなる状況というのが、いかなる環境でも、という意味であるなら限界はあるわよ。水中用の装備抱えたまま空中で暴れるようなじゃじゃ馬の類なんて、コイツの機体以外に要らないわよ」

「あのなあ……」

「そうですね。でしたら訂正します、全距離・地形に対応できる装備が望ましいです」

「……あんまり変わってなくね?」

 天然なのかよくわからないディータに、イナは首を捻る。

「それは、地上から、ってことでいいのね?」

「説明不足でした……はい、そうです」

(なんだ、地上からか……いや、それでも十分怖いよそれ)

 そんなイナの感じる恐怖など気付くはずもなく、二人の話は続いていく。

「となれば、ミサイルやスナイパーライフル、ピストルなんかがあってもいいわね」

「それ完全に射撃型じゃねえか……」

「でしたら、スレイド様の提案した武器はどうでしょう?」

「複合武器? ……ふむ、案外行けるかも知れないわね。ちょっとやる気出てきたわ、急だけど用件は以上よ、出ていいわ!」

「……へい」(てか、出ろって言ってるようなもんじゃねえか……)

「では、失礼します」

 二人は席を離れると、互いに意思疎通をしてさっさと開発研究室から出た。

 蒸した高い気温が彼らを襲うが、相変わらずそのダメージはイナにしか来ていないらしい。

「スレイド様、お送りしましょうか?」

「ん……そうだな。メシを食い損ねたんだ、出来れば東区の方で降ろしてほしい」

「了解しました。では、お乗りください」

「ああ」

 ディータがボードを浮かせると、イナはそれに乗り、次いで乗ったディータがレバーを握った。

 今度もディータは速度を出すことなく、イナに心地よい風を提供した。

(……そういえば、明日ズィーク司令来るんだった)

 唐突な腹痛が彼を襲ったが、ディータがそれを察することはなかった。

part-Bに続く。

ia様はどこに現れるかわかりませんね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ