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行き先爪先早紀ちゃん幹久くん(苦笑)


やっと説明が終わりました。いよいよ物語が本格始動ですが、その前に「空想ホカホカおしぼり(コメダ風)」で顔の油をフキフキしてね!




「……なるほどなあ」



バーのマスターはシャカシャカと何かを振りながら何かを含んだように小さく笑みを浮かべる。



「しっかし、お前さんがあの<疾風の勇者>アシュレイだったとは、さすがに驚いたぜ!」



「俺も随分、有名になったもんだな。けど、今はその疾風も、逃げる事だけにしか活かされなくなっちまった。その上、聖剣も捕られちまってるわけだ……今の俺は勇者失格って事さ」


 「聖剣が無いと、やっぱりマズイのかい?」



 「ああ……めっちゃヤバイぞ。俺の一族には掟があって、代々伝わる聖剣を紛失したり奪われたりした状態では家の敷居はまたげないんだ。それどころか、最悪死ぬ事になるかもしれない」



「そんなにシビアなのか!? 勇者の家に生まれなくて良かったぜ」



「それは圧倒的に正しい。実際、勇者なんて楽しいことより苦しい事や面倒な事のほうが多いんだよね。いっつも死と隣り合わせだしな。カワイイ女の子に会える可能性はまあまあ高いけど、なんたらオンラインみたく簡単にラブラブになる程世の中甘くない。仮にラブラブになっても、結局はこのザマだよ……まあ、作者が非リア充ノンデレ派なのも多分にあるけどさ」


「ふーむ、世知辛い話だな」



「そ。勇者なんざ、憧れる必要ナッシングさ。ゲームん中だけで十分な話だよ……ところでオッサン、さっきから何をシャカシャカしてるんだ?」



「ああ、これはコアラのマ○チだよ」



「おいおい……なぜそれがこの世界にあるんだ? そしてなぜ今シャカシャカする必要がある?」



 「ああ、こうやってシャカシャカしまくると、そのうち袋のなかで1つの塊になるらしいぜ」



「そりゃ本当か? どーでもいいけど紛らわしいな。酒場だから、普通は酒のシェーキングだと思うだろ」



「ハハハ!」



酒場のマスターは、ごまかすように豪快に笑ったが、すぐにシリアスかつダンデイな顔に切り替わる。



「……で、これからどうするんだい? あてはあるのかい?」






「ああ……更に南下してメシントリの集落に行こうと思う」



その地名を聞いた瞬間、マスターは驚いたのか持っていたコアラの○ーチをグシャリと箱ごとつぶしてしまった。



「あそこは、リザードマンの里だろ? なんでまたあんな辺鄙な所に……」



 「まあ、色々あるってことさ……」



「ああ、ヤンデレちゃんが爬虫類苦手とか、船に乗っけてもらうとかそういう感じかい?」



「……ええと、その、まったくの図星なんでスけど……せっかくあとで説明するためにはぐらかしたのに意味ないじゃん! いい加減空気読んでほしいですマジで!」



「ハハハ! それは無理!」



「……へいへい。じゃ、疲れもとれたしこれ以上KY発言されたくないから、そろそろ行くとするぜ」



「おうよ! じゃあ、しめて10500ゴルチェ払ってくれ」



「ほわっ!?」



1万ゴルチェは日本円で10万円に相当する。



「なんで、そんなに払わにゃならんのさ!?」



「さっきの酒は、<虹の彼方>って言う一年に瓶20本分しか生産しない究極酒のなのさ。この値段でも安いくらいだ!」



「いや、それ飲む前に言ってほしいんですけど……おごりみたいにしれっと出しといて、アンタは銀座にある某ボッタクリバーの店長ですか!?」



「まさか、払わねえとは言わねえよな? 勇者さんよぉ……」



オッサンはチンピラみたいに眉をしかめて俺をジーッと凝視してきた。KYな上にこの扱いとは酷いにもほどがある。しかし、こんなことくらいで動揺なんてしないのが勇者を名乗っていた人間なのである。



「……フフフ……アハハハハハっ!」



「どうしたんでえ? 払えないから頭が動転しちまったのかい?」



「悪いなぁおっさん。実は、こんな物を持っているんだよ」



俺は、懐の隠しポケットから一枚のカードを取り出して、ボッタクリクソ野郎に見せた。



「これは、何だい?」



「これは、<マスターパス>と言ってね。勇者だけが持つことを許されるアイテムなのさ! これがあれば、どんな店に入っても支払いは無料(タダ)になる。剣や盾を買っても、ホテルに泊まっても、高級料理を食べても、食玩大人買いしたって一切お金を払わなくていいのさ!」



「な、何ですかその素晴らしすぎるチートアイテムは!?」



「ちなみに、このカードを見せてもなお支払を請求すると国際指名手配になるんで覚悟してよね」



「ぬがっ!? じゃあ、俺はみすみすタダで水と酒をご馳走してしまったわけか……こりゃ、一本取られたぜ……トホホ」




「ま、今後はこういうボッタくりはやめるこったな」



がっくりと肩を落とすマスターに、俺は自分の名前を書いた一枚の紙を手渡す。



「なんだい? もう、払えとはいわないぜ勇者さんよ……俺もお縄にはなりたくないんだ」



「安心しなよ。この、俺の直筆サイン入りの領収書に金額を記入してアルタロス王国宛てに郵送すれば、あの国が払ってくれるからさ……」



「おお! あの大国が払ってくれるとはな! それは素晴らしいシステムだぜ! 流石は勇者だ!」



「ただし、嘘の金額を書かないでくれよ。バレたらあんたの首が飛ぶからな」


俺はそう念を押して、マスターに背を向けた。あの扉の外には、またアイツとの追いかけっこが待っている。



「頑張れよ、アッシュ! 大変だが、お前さんならきっと何とかできるぜ!」


「ああ……」



いろいろ清々しくないマスターが放った清々しい応援は、俺の心をいくらばかりか勇気づけたのだった。


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