影が薄かった人たち
影の薄かったあの人のこと。
「もー、あいつムカツクてツ!」
頬っぺたをチョウチンフグみたいに膨らませて、金髪の少女アータンは怒った。その横にいるピンク髪のフィーンセルトは、それに一切関心を示さずポーッと随分と距離ができてしまったセトナとクロノの方を向いている。
「あんの田舎帽子ヤロー! 人のことチビスケ言って自分だってちっこいじゃないでつか!」
田舎帽子野郎とは、勇者アシュレイの仲間のキーニャの事である。アシュレイ眠っている間に、アータンはカレーのじゃがいもの量、と言うどーでも良い事で彼女ともめたのだが、舌戦では圧倒的に上だったためケチョンケチョンに言い負かされてしまったのだった。そして、村を出るときもおちょくられそれを今も引きずっていると言うわけである。ちなみに、キーニャの方は、内心好意的な感情を持っているのだが、アータンはそれを知る由もない。
「あいツ、今度会ったらラーメンに髪の毛をたーっぷり入れてあげるでツ! 髪の毛ラーメンの計でツ!!」
「粛正の聖女。ガラトリアで目覚めし時、大海に乗り出す」
「……はー、なんかフィーたんの前で話してるとヨケー悲しくなってくるでツ」
「その聖女の名は君が知る名」
「チクショーでツ!」
アータンは思いっきり走りだした。彼女の前途は、色々と大変そうである……




