楽園の終わり(パラダイス・エンド)
最後の戦い。伝説の月属性の力を持つリファと最強の風属性勇者アシュレイは互角の戦いを見せる!
「アッシュ!!」
「何だ、リファ!?」
まるで舞うように華麗なる連続剣撃を続けながら、リファは語る。俺はそれを余さず剣撃で相殺しながら聞く。
「人はまだ本当の<エデン>を知らない……到達することが出来ていない!!」
「何だよ急に!?
「だから私のお父さんやお母さん達は<エデン>を目指した……<ネオアークの地>を目指したの!!」
「ネオ……アーク!?」
「けれど、それは叶わなかった……私を残して一族は、月の民ムーンジェラルドは全て<彼方>へと消え去った」
「それで月属性がいなくなったってわけか……!」
「そう。追い求めれば拒絶され、求めなければ絶対に辿り着くことのない。しかし辿り着くために存在するパラドクス……それが楽園……!」
「そうかい! ま、俺とは縁の無い場所だな!!」
「どうしてっ!?」
「俺は勇者だからな! 勇者っては常に世のために戦わなきゃなんねえんだ! 一生を他のみんなの為に使うのが運命なんだから、楽園なんか目指してる場合じゃないっての!! お前だって、わかってんだろ!?」
「……そうだね。私はその言葉を待ってた!!」
リファは小さく笑みを浮かべると、俺に向けて聖剣を投げた。何の力学的干渉も無く真っ直ぐに俺に向かって来たので、ファールデクスで受け流したが、弾かれた聖なる刀はふわふわと自立して、切っ先を俺に向け更に迫る。間違いない、あの技を使うつもりだ……エリアナを葬ったあの技を!
「食らえ! 天照奥義<夭月華蘭舞>!!」
「させるかっ!! <マルチプル・ソルビット>!!」
残像剣舞が飛んでくる前に、俺は後方に大きくジャンプして無数の風の精霊石を周囲に召喚した。
「その技は見切っている!!」
「えっ!?」
「数多の精霊石よ、足並みを乱せ!!」
精霊の宿る石たちはそれぞれ意志を持ち、乱れ飛んで、舞いながら乱れ斬ってくる刀から俺を守る。天照剣技には魔法を無効化する効果があるはずだが、風属性の魔法は物理的要素を持つものが多く、また、この召喚した精霊石も単純な魔力結集体ではなく、特に精霊石においては核となる部分は硬石である。魔力そのものを封じても。完全に止めきる事はできない。
カンカンカンカンと言う音と共に精霊石は攻撃を防ぎ次々に俺の身代わりになっては砕け散った。破片は月に照らされて雪のようにきらきらと輝く。そして、遂に剣舞がおわったとき、この異世界はより一層幻想的な色彩を帯びていた。
「この攻撃が看破されるなんて……」
「あぶねえあぶねぇ! 知っててこれだから、知らなけりゃ完全にアウトだったな!!」
「月をいなす夜風か……いい風が吹いてきたね……」
「俺は風の魔法なら限りなく0に近い魔力で使えるんだ。ガンガン吹してやるぜ?」
「……それなら、私も月の果てを見せることにします……インシュゲン!」
リファは聖剣を自分の手元に呼び戻した。そして両手でそのグリップを握ると、反時計まわりに刀を回すと言う何だか円月殺法に似たことをはじめる。そして……
「月よ、その無幻なる裏側に我らを誘え……<下弦零月>!!」
そう叫ぶなり、突然俺たちの周囲がぐにゃぐゃとくねりだす。そして、全てが、足元も含めて明け方のの夜空に変わった。そこで、リファは刀剣の動きを止め下ろす。
「今度は何だ?」
「此処は無限なる月の世界……全てから切り離されし永遠の広さを持つ夜空」
「お前……まさか……」
「次の一撃で最後にします。私の全ての力を結集した究極の奥義で……!」
「名残惜しいが、これで終わりってわけか」
「はい」
「ご丁寧にありがとうございますね! じゃ、それを俺が何とか出来れば勝ちってことだな!?」
「何とかできればね……今まで3回使ったことがあるけど、みんな魂ごと消滅しちゃったよ」
「しちゃったよて、軽く言ってくれるよな! ようは天国へも地獄へも行けない全方位バイバイなわけですかある意味ヤンデレん時よりやることが鬼畜ですねー」
「答えを見せてください、アッシュ」
「……わかってるよ」
そう言って、お互いに距離を放す。わざわざ、セトナ達に当たらないようにこの空間にワープさせたわけだから、リファの最終奥義が洒落にならない威力なのは間違いない。そこいらの高等魔法や必殺技程度では絶対に防げない……対抗できる方法はただ一つだろう。俺の使ったことがない、しかし、覚醒したファールデクスがあれば使えるだろうあの「禁呪」を……俺の究極奥義を見せるしかない!
「いくよ…………っ!」
リファは聖剣の切っ先を天に掲げる。すると、刀に向かって線光が集まりだす。そして少女のからだは半透明の巨大なエメラルドの月に包まれる!!
「栄光の落日、滅びの叡智、追放者よ今真実の扉を開け!! 天照最終奥義<パラダイス・エンド>!!!!」
月と一体化したリファは金色の体を引き裂くような強烈なオーラを放って俺に向かって突撃してくる! そのスピードは速くないが、そのどんどん大きくなる塊はまるで巨大な惑星が降ってくるのと同じで、周囲のすべての存在を死滅させ、逃げる術がない。何とかするには、迎え撃つしかないのだ。しかし、そんな極限状況でも、今の俺の顔には怯えなどなかった。なぜなら手には覚醒したファールデクスがあるのだから。
「信じてるぜ……相棒!!」
俺は跳躍して後退すると、そこでファールデクスを地を擦るように構える。そして、目を閉じ聖剣との同調を図る。
「風よ……大いなる永久無朽の風よ……聖剣の下に森羅万象の全てを包み込め……<ツァンデ・エル・グローリア>!!」




