月と夜風の輪舞曲
アシュレイとリファ……勇者と勇者、正義と正義がぶつかり合う最後の戦いが今始まる……!
「いくよ……」
リファは鋭い目をして左手を天にかかげた。
「今際の淵に秘め隠れし真の月よ、その姿を現せ……<ムーンライズ>!!」
掲げた掌から光線が暗き空の頂点を指す。そして、それに向かい、白き光がまるで集中線を描くように流れていった。そして、その光が凝固した時に生まれたものは月……まさしく普段夜空に輝く満月が、異世界の闇を照らす。
「なんだなんだ?? お月さまなんか出して、狼にでもなるんじゃねーだろうな?」
「ならないよ。けど、性近からず遠からずかな……月下こそが私の本領を発揮できる場所なのだから」
「まさか……お前、もしかして月属性なのか?」
リファはうんと頷いた。テラストラに住まう人々は基本的に火、水、風、土のいずれか1つの属性を持っている。これは精霊の加護であり、自分と属性と同じ属性の魔法や技は効果が上がる。ようは火属性の魔法使いが火属性の攻撃魔法「ファイアーブラスト」を使えば、他の属性の奴より強いわけだ。ただ逆もまた然りで、違う属性のものだと効果が下がってしまう。また、地形によっての補正もあって、水属性は海や川や雪上、土属性は荒野や山岳地帯で戦うといつもより能力が発揮でき優位になる。
さらに、各々の属性には優劣があり火は土に弱いが風に強く、風は水に強く、水は土に強いと言った感じで上手くサークルを描いている。これに関しては、苦手属性に対抗するメタ魔法をや属性吸収あるいは防護魔法等を覚えればある程度補えるが、属性というものは特に戦いにおいてはとても重要な要素と言っても過言ではない。
そして、勇者の一族は、その四属性のひとつに加えて「光」属性を持っている。これは主に暗黒魔術師や魔王などが持つ「闇」と対をなす存在で、四大属性とは特に優劣の無いオールマイティーな存在で、この2つの属性を持つお得感のある者の事を「ダブルエレメンター」と呼ぶ。なお、3つ以上属性を持つ「トリプルエレメンター」奴もいるが、四大属性を2つ持つと弱点も増えてしまうのでかなりピーキーな事になってしまうため、一概に有利とは言えなかったりする。
してこの6つ属性が、現在も人間の持つ事が確認されているものだ……だがしかし、月属性は、違う。月属性を持った人間はここ数千年で誰1人として存在が確認されていないのだ。魔物でも伝説のワーウルフがそうだったという噂レベルの情報しかなく、普通のワーウルフやライカンスロープなど月がないとヘタレのくせして月属性ではない。つまり、この属性を持っ者は未確認飛行物体に等しき幻の超ウルトラレアな存在なのである。だから俺は心底驚いたが、同時に胸が期待で膨らんだ。未知の力を持つリファを前に、俺の心の鼓動は高鳴る。戦う者としての好奇心のような何かが疼くのだ。
「そうか、そりゃラッキーだな俺も。戦えて光栄ってヤツだぜ!」
「ずいぶん楽しそうだね。いいよ……かつて<黎華月天>と呼ばれていた理由を見せてあげる……」
リファは刀を時計まわりに真円を描くようにゆっくりと回す。こんなのんびりした動きではスキだらけじゃないかと思うかもしれないが、そんなことはない。これはかの有名な円月殺法に似ており、今下手に近づけば一刀の下に切り伏せられるに違いない。だから慎重な俺は聖剣を構えつつ少しずつ距離をとって、リファがどう出るかを伺った。
「秘剣天照一ノ太刀<弧月咲蓮花>!!」
切り上げた刀から四方八方に光の波が地を走る。それは夜に弁を開いた花のようで芸術の域に達する程に美しく、俺は一瞬目を奪われてしまった。
「やってくれるぜ……これじゃ回避はできねえな! それならこうするまでだ!」
俺は至近距離まで近づいた白き波濤に対しファールデクスで斬り付ける。すると、まるで明鏡止水のように光の波は2つに裂けて左右に離散した。
「逃げずに挑むなんて流石だね!」
「追いかけっこは終わったんだ。こっちだって全力で攻めさせてもらうぜ!」
「いいね……その希望に満ちた声。私もやりがいがあるってものだよ!」
リファは軽快にステップを踏みはじめた。まるでボクシングで相手の体力を奪うためにそうするように、反時計まわりにステップを繰り返しながら移動する
。
「今度は何だ……っ!?」
ステップを繰り返すうちに、リファは増えていった。分身をはじめたのだ。
「俺の父さんのような……忍者みたいな事もできるのか」
「悪いけど、並の忍術とは違うよ」
「んっ!? なんだと!?」
確かに、普通の分身の術ならば分身は黒くなったり影が無かったりする。しかし、リファの分身はリファと寸分も違いもなく影がある! どれが本物か見分けがつかない。
「本物はどれだっ?」
『全て本物だよ!』
そう言うなり、分身達が一斉に飛び掛かってくる! 俺はファールデクスを振り回しながら強引に攻撃を退けるが、分身が次々に現れてキリがない。何か、チートだったときとは別な意味で強いが、俺だってこのまま黙っちゃいない! ずっと逃げたり連射したりと情けない行動ばっかでフラストレーションが溜まっているのだ!
「そうかいそうかい! じゃあ、俺もそろそろ見せねえとな!」
俺は攻撃をかわしつつ、魔法を詠唱する。
「こちとら巷じゃ<疾風の勇者>って呼ばれてるが、ただ素早いって意味じゃ無いんだぜ? <空飛ぶ靴>!!」
俺の体がホバークラフトのように少し浮き上がる。これは足に風の力を付加して跳躍力を大きく上げ、更に空中歩行を可能にする特殊魔法だ。
「たあっ!!」
地面をひと蹴りするだけで、俺の体は10メートルほどジャンプした。まるでスーパーヒーローのように分身達が見渡せる程の高さまで飛び上がると、俺はそこでまた魔法を唱える。
「一体一体相手にしてられんのなら一斉掃射に尽きる! 真空の刃よ、押しがう者を切り裂け……<ウインドブレイカー>!!」
回りの空気が輪状のカマイタチとなりとなり雨のように地に降り注ぐ。まきあがる粉塵は威力の高さを物語っていた。
「くっ!?」
カマイタチは分身を一気に切り裂き消し去った。残ったのはリファ本体飲みだ。上空から見下ろして、ちょっと偉そうに俺はリファを見る。
「どうだ? 少しは効いたか?」
「風属性の高等魔法か……上級緑魔導士にでもならないと使えないものなのにいとも簡単に使うなんて……天才だとでも言うの!?」
「ま、そー言うことさ! 俺は風属性の力に関しては世界最高の才能と実力を持っているんだ。賢者様のお墨付きなんだぜ!!」
「最強の風使いなんだ!」
「俺の風とお前の月、どっちが強いか決めようじゃねえか!」
「うん!」
リファの目は煌めいていた。それは俺も同じだ。
「覚悟しやがれ! <サイクロン>二連発っ!!」
「中級魔法の二連発動?」
「勿論それだけじゃねえぞ!」
俺は目の前に出した2つの竜巻に自らを飛び込ませる。
「いくぜ! <双頭迅風車輪剣>!!」
大剣を円を描くように回しながら、弾かれることを敢えて利用し竜巻竜巻との間をジグサグに移動する。そして、リファに近づくと自らを竜巻に見立てて襲い掛かる。
「速い!」
「ボーッとすんなよ!」
俺は規則性を解いて十字切りを放つ。リファは刀で防ぐ。そこにさらに俺は連撃を加える。巻き起こるのは火花を通り越して電撃だった。
「おらおら! 伝説の勇者はこんなもんじゃねえんだろ!?」
「ご名答!」
カウンターの剣閃をジャンプして飛び越え、俺はカウンターカウンターで巻き打ちを放つ。リファは軽快かつ美しく後方宙返りをして回避する。「オールアベレージ」の効果で能力が同じになっているのもあるだろうが、両者互角の戦いだ。
今まで多くの戦いをしてきたが、ここまで爽快で新鮮で心躍る戦いは無かった。戦いをここまで楽しく思った事は無かった。
聖剣と聖剣が全力で擦れて互いに響き合うこの鳴動の心地よさは、彼らもまたこの戦いを楽しんでいる事を意味するものなのだろう。
まるで満天の星と夜風が永劫の宙で戯れるように……




