丁寧な状況説明(4)ヤンデレのヤンが発動〜奪われた聖剣〜
女の子のモノマネを恥ずかしげもなくやった勇者アシュレイは声優ばりの美ボイスを持つ男の娘!?
美男子達の囲まれた、彼のドキドキ青春ボイスアクターストーリー! あこがれの茅ヶ崎先輩との禁断の恋の結末や如何に!?
(※実際の内容とは大幅に異なります)
上手くいくと思っていた……そう、俺たちならきっと上手くいくと……
しかし、禁断の地ポリマウカにあるロークサイナ神殿の祭壇の前で、その自信はすべて打ち砕かれたのだ……それはつまり、リア充終了を意味する。ラブラブな展開なんて望んでなかった読者のみんな……待たせたな! こっからは、お待ちかねのカオスな展開が待っているぞ! ではではでは、そのシーンを今から俺の解説付きで再現してみることとしよう。
「……な、なぜだ!?」
色々面倒な過程を経て、俺たちは、この人立ち寄らぬ地に古より鎮座する黒石造りの神殿にた辿り着いた。
聖剣を覚醒させる事ができるのはこのロークサイナ神殿のみであると、賢者様も言っていたが、リファもそのことを分かっていて、色々と手続き等で動いてくれた結果、辿り着くことができたのだ。
「何も起こらない……!?」
「ほわわ……どうしてなの……どうして……」
神殿の内部にある双頭の竜がかたどられた祭壇に聖剣を乗せ、剣の巫女であるリファが祈れば聖剣は覚醒するはずだった。
「リファ……」
「どうして……どうして……」
リファは俺に背を向けたまま同じ呟く。弱々しく哀しげに反芻する。
「何かが足りないのか……」
「……どうして…………」
今まで一緒に旅してきた中で、こんな気まずい雰囲気になったことは初めてだった。いつも、あんなに楽しく出来ていたのに。
暫し、俺たちは静寂に包まれる……その時が止まったような空間で、リファはふっと、祭壇に供えた聖剣のグリップを握り、両手で軽がると持ち上げた。そして何かを調べるような動きを暫く続けた。決して俺の方を見ずに……そして……
「はは……アハハハハハ!」
つん裂くような、笑い声。今までの温厚な彼女からは想像もつかない、狂気と恐怖を伴ったそのヒステリックな笑い声に俺の体は戦慄を覚え、ゾクゾクと何か冷たいものが体中を駆け巡った。
【ヤンデレの特徴その(1)病みだすと笑い声がヤバくなる】
「リファ?」
「そっか、そういうことなんだ……アハハハハ! わかったよ!」
「ど、どうしたんだよお前……!?」
振り向いたリファ顔は心が失われたかのように冷淡無機質なもので、目はまるで死んだ魚のように光を失い、俺を見る瞳孔は不気味な漆黒の闇を讃えていた。まるで、そこにいるのはリファであってそうではない異質の存在……この時の俺にはそう映った。
【ヤンデレの特徴(2)病みだすと目つきや顔つきがヤバくなる】
「アッシュ……マルセウス記の一文、あなたも聞いたことありますよね?」
「あ……ああ。聖剣の永遠の眠りを覚ますには、猛き勇者の血と剣の巫女の祈りが……うわたっ!?」
俺が、全部答える前に、リファは重いはずの聖剣を片手で持ち、俺の目の前に突き出しだ。俺の相棒だったその剣は、殺さんとばかりにその切っ先を俺に向けている。
【ヤンデレの特徴(3)病みだすと擬音を遣わなくなり言葉遣いや声のトーンが激変しがち】
「どうしたんだよ!? 一体どうしちまったんだっ!!」
「勇者の血……それは血統を言ってるんじゃありません。あなたの体を流れる、大英雄エルリードの遺伝子を持っ赤き血液の事を指しているのです!」
「なっ!?」
「そして、その血が最も猛々しく流れる場所……それはまさしく心臓の事! 聖剣ファールデクスはそれを求めているんだ!」
「おいおい、リファ……」
「あなたの心臓を私にください! アッシュ!!」
そう言うなり、リファは俺に襲い掛かってきた。忍者の父さんから受け継いだ身のこなしでなんとか避けたが、もう少し反応が悪ければ、ここであの世へバイバイしていただろう……
【ヤンデレの特徴(4)病むと勝手にダークな解釈をした上ダークな結論を出して関係者を巻き込む】
「なぜ、避けたのですか……? なぜ拒むのです?」
「死ねと言われて死ぬ奴がいるかっ! 目を覚ませっ!」
「……アハハ! 何を言ってるの? ワタシは正気ですよ、アッシュ!」
【ヤンデレの特徴(5)自分の考えを全肯定及び中心とし、正しいと思い疑わない】
「なんでだよ……俺たち、上手く言ってたじゃないか! お前、俺のこと好きだって……」
「うん、アッシュのこと、大好きだよ。すっごく、好き」
【ヤンデレの特徴(6)たまに元のしゃべり方に戻るが、それが不気味】
「だから、私が殺すの。そうすればアッシュの魂と、ずっと一緒にいられるから」
【ヤンデレの特徴(7)深く人を愛するが、悪い意味でカタチに縛られない。また、愛される側の気持ちは考慮しない】
「くっ……!」
「なんで、逃げるの? 私と、ずっと一緒になろうよ……永遠に……」
【ヤンデレの特徴(8)永久とか永遠とか言うワードが深みを帯びて怖い】
「悪いな、ここでくたばるわけにはいかねぇんだよ……っ!」
リファを説得するのが無理だとわかった俺は、彼女に背をむけ、聖剣をそっちのけにして全速力でその場から逃げた……逃げるしかなかったのだ。そうしなければ、確実に死んでいたのでこの判断は正しかったと断言できる。何故なら彼女はヤンデレな上に「チート」だったのだから……
作者)目眩が止まりません




