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勇者の矜持


 セトナを庇い、クロノは死んでしまった……最早コメディーの入る余地がほとんどなくなってしまったガチな展開に勇者もすっかり世界観破壊を忘れてマジレンジャーならぬマジ勇者状態……(大汗) 

 「うぁぁぁぁぁ!! 私を置いてかないで!! 1人ぼっちにしないでよ! うわぁぁぁぁぁぁぁ!」



 俺はゆっくりと遺体を床に下ろす。

 同時に、この手から心体の温もりが失われていくのが辛い。こんな形でお別れとはあんまりに酷い話だ。もっとあいつの事を、不器用なあいつの事を気遣えばと今更後悔しても遅い。


 本当はセトナと同じように大声で叫びたい叫びたくてしょうがない! ……けれど、俺は耐えねばならない。涙で眼前が滲もうとも、動揺してはならない……俺は落ち着かなければならない。俺は目の前にある現実と戦わなくてはいけないのだ。託した者達の覚悟を無駄にしないためにも、世界を救うためにも、ここで俺は己を取り乱してはならないのだ! 



 「あたし、どうしたらいいの! どうしたらいいのよ!? わかんないよぉぉぉ!!」



 「セトナ……」



 「クロちゃん!! 戻ってきてよねえ!? クロちゃぁぁん!! 」



「落ち着け……」



「いやだいやだいやだぁぁぁぁ!」



 「……ったく、しゃあねえな……」



 バッシイッ!!



 その時、俺は思いっきりホラー映画でキャーキャーわめいて足を引っ張るだけの子供のようなセトナの頬を思いっきり引っぱたいた。虐待だとかDVだとか言われても構わない、教育委員会から何言われても構いません勿論放送倫理機構からでも……とにかく今俺は、こうしなければいけないのだ!



 横倒れになったボロボロのセトナは、涙を流しながら頬に手を当ててこちらを見る。その目は泳いでいて、何が何だかわかっていないようだ。



 「アシュ君……?」



 「セトナ、お前は何だ?」



 「え……わかんないよ、どういう事かわかんない!!」



 「何なんだって聞いてるんだ!?」



 「わかんないっていってるでしょ!? そんなに責めないでよ!!」



 「お前は俺の、<お姉ちゃん>なんだろ!?」



 「!?」 俺は、セトナの両肩に手を当ていつになく鋭い目で見つめる。ただでさえイケメソである俺がこんなカッコエエフェイスをしたらおそらく99.999%の女子はイチコロに違いない。実際、セトナの視線も釘付けになり、幾分か少し落ち着きを取り戻したように見える。そんなカッコエエモードを維持しつつ俺は秘めたる炎を燃やしながら語る。



 「お前が俺の本当のお姉ちゃんなら、こんな事でくよくよなんてしない!! 勇者の姉ってのはな、何があっても挫けることなく世界のため、みんなのために戦う勇敢な人間のはずだ!」


 「あ……!?」


 「自分に負けるなよ……姉さん! お前は俺の尊敬する姉さんなんだぞ! 勇者の姉であること、行動で示してみろ!!」



 「アシュ君……」



 「自信を持て、お前ならできるっ!!」



 その時、セトナの目に希望の光が灯った。それは、絶望を乗り越えたヤンデレ恒例とも言える正義の眼差しだ。



 「そうだ……そうだね! ごめん! 私は勇者アシュレイのお姉ちゃんなんだよね!! こんなところで弱音を吐くなんて、恥ずかしいところ見せちゃいけない!!」



 「その意気だぜ! クロノの託した想いを無駄にしないためにも、俺たちで世界を救うぞ!!」



 「うん!! あたしたち達兄弟の力を見せてやるんだから!!」



 俺たちは決意を胸に立ち上がり、リファのほうを向いた。ここまで何もしてこなかったのは少し不思議だが、もしかしたら何か動揺することがあったのかもしれない。能力こそチートだが、入り組んだ混ざり合った心のどこかで何か響くものがあったのではないだろうか?



 「それで、どうするのアシュ君?」


 「いいか、みんなよく聞け……」


 甲子園球児の9回裏みたいにみんなを集めて、俺は作戦を伝える。ここに来る前から考えていた事だから言葉に迷うこともない。予定と面子は変わったが、やってくれると信じる。


 「俺は、リファを何とかするための作業でしばらく動けなくなる。それまで全員でリファを陽動してくれ」


 「あのチートッ子の囮になれってことでツか!?」


 「ごめんなアーたん、それしか方法は無いんだ」

 

 「でもでもう……」


 「大丈夫、倒せというわけじゃないんだからな。数ではこっちが上だから的を絞らせないようにみんなで四方八方から牽制するんだ」


 「なるほど」エデッアさんは顎に手を当てる。

 「その程度なら何とかなりそうですね」


 「ただし、絶対に近づくなよ。一発で死にかねない。遠距離攻撃で攪乱するんだ」


 「わかりました」リリエンタールさんが静かに語る。

 「私の弓は適任……足止めしてみせます!」


 「頼りにしてるぜ! 他のみんなもな!」


 少女たちは、強くうなずいた。なかなか頼もしい感じだ。


 「よし、それじゃあ始めるぞ! 絶対死ぬなよ! 全員生きて元の世界に変えるぞ!!」


 「オー!!」


 美少女たちが一斉にリファに向かうのを確認すると、俺は懐からコントローラーを取り出した。

 いよいよ正念場……とにかくこれ以上の犠牲を払わず上手くいくようにしなくては……








 




 


 

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