決戦の地へにゅにぇま
ま、しょのー。リファの謎も解けたって事でしょのー話は変わりますけどしょのー例のうちわの件について2、3件お話したいと思いましてね、はい。えと、しょのーあの方のですねーしょのー地元ではですねーしょのー(※T議員とはこの後約10分話したが、何も得るものは無かった)
「……ふむ、まったく酷い話だ」
母さんは腰に手を当てて、眉を顰める。
「我が祖エルリードがそのような愚行に走っていたとは……聖剣の魔力に心を乱されたとの言い訳も通用しまい」
「うむ」
賢者様もまた、沈痛な思いに駆られて表情は険しい。俺がセーフティモードで得た情報で表情を曇らせなかったのはリザ子とラキシスだけだ。
「あの御方は、最期は身体中に疣ができる奇病に冒されて壮絶に苦しんだ末に死んだ。それも罰じゃったのかもしれぬな……」
「そうなのか!? やっぱり因果応報って事なんですね」
「そうじゃよ。アシュレイ。悪い事をすれば必ずそのお返しがくる。時に何倍にも何十倍にもなってな……」
「そーそー!」
相変わらず不機嫌そうにクロノが相づちをうつ。
「そんなくそヤローは地獄に落ちて当然よ! ホントあんたのご先祖様はサイテーなオトコね!」
「いくらでも言えよ。正直返す言葉が見当たらねぇ」
「ふん」ツンデレは大地を強く踏みしめて前かがみに俺を睨んだ。
「なんだよ?」
「あんた、そんなゴミ野郎のやったことにまさか責任を感じてるんじゃないでしょうね!?」
「そりゃ感じるだろ? 俺のご先祖なんだからさ」
「ばか……勘違いしないでよ! あんたはあんたでしょ? 血が繋がってるからってあんたには何の責任もないじゃない! 勝手に背負い込むのやめてよね!」
「お前、優しいんだな」
「べ、別にあんたのこと庇ってるわけじゃ……私は、この件あんただけのものじゃないって言いたいだけ!!」
「ありがとよ」
俺は当りを見回しながら、言った。「プラクティス」と呼ばれるこの場所に跳ばされたのは、俺だけではなく、「デバッグルーム」の入り口で待っていたはずの皆も一緒だった。周囲は全て断崖絶壁で、崖の下には火山マグマみたいなものが赤く光っている。落ちたらジュンジュワーしてあの世行きだろう。近くにあるもと言えば、崖っぷちに浮遊している乗れと言わんばかりのデカい正方形の黄色いタイルだけだ。
「やれやれ、逃げ道は無さそうですね〜アシュレイさん」
キーニャはのんびりした声で言う。だから、俺ものんびりと応える。
「だな。ま、某フリーシナリオRPG系ならラストダンジョンで退却不能はお約束だし、逃げたところで世界が滅ぶだけだ。気にする意味も無いさ」
「そうでしたね〜 リファさんを何とかしないと、どの道ダメなんですよね」
「つーことだ」
「ま、今までも度重なるピンチを何とかしてきたアシュレイさんですから何とかなると思いますけど」
「それはお前らの功績でもある。今回も頼りにしてるぜ!」
と、俺は振り向いたが、ジェリアは頑として何も語らない。どうも空気に徹するつもりのようだ。だがアイツはやる時はやる子だから別に問題ない。問題児はその横で不敵に微笑むラキシスの方だろう。
「随分と楽しい事になったものだね」
「お前、リファの事……」
「簡単単純、そう言ったはずだよ。少し推理すれば容易にわかることさ。例え裏切り者とは言え、仲間であった者を手だけ持って帰るなんて、証拠を見せて事実を隠そうと言っているようなものさ。勇者エルリードの話が本当ならば遺体を全て持ち帰るべきだ。それができないのは遺体に彼の話と矛盾する事実があったから……そんなことをするはずがないと言う潜入感を棄てれば難しくなかったと思うけど」
「へいへい、そーですかい」
「ただ、リファちゃんを放っておくと世界が消滅すると言うところはちょっと予想外だったかな。壊滅的ダメージを受けるとこれまでは考えられたけど、完全に消滅するみたいだからね」
「流石のお前でも面白くないだろ?」
「突き付けられている分には良いけど、確かに全て無になるのは興味が無いかな」
「じゃ、協力するよな?」
「フフ、当然だよ。セトナの事も気になるしね」
「あいつも来てるってのか?」
それを聞くと、クロノの目が、びっくりした猫のように丸くなった。
「セトナが……お兄様、本当なの!?」
「まず間違いない。他のリファちゃんと一緒だった子も多分来てるだろう。僕達がここに招かれたくらいだからね」
「そうなんだ……じゃあ!」
「何とかしなければいけない。あのままリファちゃんのそばに置いておくのは危険、だからね」
「セトナがどんどん強くなるから?」
「ちょっと違うな。危険が及ぶのはセトナ自身なんだよ。彼女の<パーフェクトディペンド>には欠点がある……あれは行使しすぎると精神が汚染されてしまうんだ」
「えっ?」
「昔解析した結果で分かったことなんだけど、あの子は全ての能力をコピーする際に精神力も同時にコピーする。その際に、少しずつ相手の内面……人間性の影響を受け始めるんだ。長くなればなるほど、彼女は相手の心に染まっていくんだ」
「それって……今のリファちゃんの狂気的な精神にセトナが支配されちゃうってこと!?」
「そういうことさ。おそらくもうかなり重篤な状況になっていると思うよ」
「じゃあ、早く助けなきゃ!!」
クロノは待ちきれんと黄色いタイルの方に歩もうとしたが、リリエンタールさんに止められた。
「放してよ!!」
「気持ちはわかるけど、焦ってはいけないわ。あなただけではセトナを救う事は出来ない。ここにいる皆の力が必要なのよ」
風来坊と、リザ子が納得したように頷いた……って風来坊はともかくリザ子ってそんなキャラだっけ?
「魔王様もまるで及ばぬところに来ているのだ。心して掛からねばなるまい……特に、我が同志アシュレイが倒れれば全てが終いになる。彼だけは絶対に守りきらねば世界は救えんのだ」
「確かに、このコントローラーを使えるのは俺しかいねぇ。だが、みんな無事で帰るぞ! 一人も死なずに、リファもセトナも死なせずに何とか丸く収める!」
「随分な理想論だね」
ラキシスは右手をひらひらして、最後に人差し指を天に向け指した。
「だがしかし、高い理想を持つ者は愉しい。今まで生きて来たけれど、これ程までに心が躍る展開は無かったな。これほどまでに生死と直面した危機的状況は無かった。まったく贅沢な話だと思うよ」
「はー、呑気なもんだぜ。ま、だが、こういう時はその方が良いとも言えるがな」
「わかっているね君は」
「そりゃ、勇者だからな」
「フフッ……この大祭にお互い力を尽くすとしよう」
「おうよ」
俺はぐーんと背伸びをすると、ふーっと1回ロングブレスした。
「んじゃ、そろそろ行くとするか!」
「息子よ」母さんが俺に強い眼差しを送る。「お前は我が祖エルリードとは違う。それを、リファに教えてやるのだ」
「わかってるさ! 行こうぜ、みんな!!」
俺たちは勇気リンリンとあからさまに動きだしそうなタイルに飛び乗った。まさに「赤信号みんなで渡れば怖くない」である……え、全然違う? 上手くかかってないですと? まあまあ、そんなに気にしないでくださいな。言ってみたかっただけなんですから。
それはさておき、予想通タイルは、乗った途端にスーと機械的に浮き上がり、魔法のじゅうたんのようにかなりのスピードを出してグングンどこかに向かって行く。禁断の地の涼しく無機質な風は俺たちに浴びせかかり、皆の髪をなびかせる(※ただし、リザ子と賢者様の頭頂部は残念ながら毛がないのでなびきません)
最終決戦……リファとの最後のケジメはこうして緩やかにしかし確実に幕を開けたのだった。




