背徳の刃ですはい提督
提督〜駆逐艦の子がドボンしましたよう! ……それはともかく、遂にリファちゃんの重要なトコがわかるみたいですよう……あ! それシベリアじゃないですか!? おいしそーですね〜私にも1つくださいよう(モソモソ)
「何をっ!?」
エリアナが驚きの声を上げた。無理もない、刀が勝手に鞘から抜けたかと思うと、自らをびゅんびゅんと華麗に舞わせて光の縄を切り裂いたのだから。
「遠隔操作ですって!?」
「違うよ……私と〈インシュゲン〉は友達なんだ」
「ともだち……馬鹿なことを……」
「もしもの時のために誰にも話してなかった秘密だったんだけど……エルだって秘密にしてた」
「欺いたと言うこと!?」
いや、思いっきり欺いてるお前にゃ言われたくないよ……リファもそう思ってそうだが、ツッコまなかった。
「エリアナ、もうやめて。あなたに私を葬る力はない」
「ほざけ! お前は死ななくてはいけない生け贄なのよ! 確実に殺す!」
エリアナは両手を天に掲げる……まさか、あの構えは!? 禁呪を使うつもりか!?
「双頭の竜よ現れろ……〈ウェルティネフライト>!!」
彼女の頭上に光の魔法陣が描かれ、そこから首が二つある翼のの生えた中型の白きドラゴンが飛び出てきた。あれは伝説に聞くディバインドラゴンだろう。それを見てリファは眼差しをさらに鋭くする。
「こんなものを出して……あなたまさか!!」
「そうよ! 皆殺し!」
おーい、もう目的変わってますよー? それはさておき、あの召喚された竜の一番恐ろしいところは即ち敵味方関係なく、周囲一体を壊滅させるところだと聞く。使い手も死ぬらしいので一種の自爆だ。自らの命を投げうつため迷いがないし島ひとつ吹き飛ぶ威力があるらしいので非常に質が悪い。
「あはははは! 消えてしまえ」
「エリアナ……」
ごめんなさい。
リファがそう言った時、彼女の剣はヤンデレ巫女に飛んでいった。そして、
「きゃあっ!」
彼女の体を容赦なく凪ぎ払った。あまりの速さのためか斬られてもすぐに血が出ない。
「天照奥義・夭月華乱舞!!」
剣は舞い乱れ、四方八方から斬り付ける。血飛沫が四方八方に吹き出し、まるで紅き大花のようにみえるそれは、恐ろしいというのを通り越して美しい。
剣の舞が終わると、阿鼻叫喚の声も出ぬまま狂気の巫女は血の池の中に崩れ落ち自らを埋める。現れた竜も、彼女が倒れると神殿の空気の中に消え去った。どうやらリファ使用者を力尽かせることで自爆を阻止できることを知っていたようだ。(俺は勿論知らない)
戻ってきた血塗られた刀を右手で握り締めると、リファはツカツカとその惨たらしいものに近づき、しゃがんだ。遺言を聞くつもりらしい。
「……く……うまくいくと……おもったのに……」
「エリアナ……」
「わたしはエル……様の事を誰よりも…あい…してる……あいしてる……」血まみれの顔の中にある瞳は、おそらく人生最後になるであろう涙に濡れていた。
「そうだったんだね、あなたもエルの事を」
「リファより……は、一緒にいるじかんは長くない……でも私は……エルの事をあいして……る……くやし……い……」
そんなところで、やっとこさご先祖様が動き、2人に近づく。
「もう、しゃべるな……エリアナ」
「エル……様……?」
「本当にすまなかった」
「……」
その時、再びエリアナの顔が狂気に豹変する。出ちゃうんじゃないかと言うくらい目玉がギョロリとひん剥かれ、歯茎が飛び出るほど剥き出しになりバリ怖い。(こういう言い方しないとマジ怖すぎるんですよホントに)
「この女を殺せぇえええええ!!」
そう、バンシーみたいに絶叫して、ゾンビみたいな形相で薄ら笑いを浮かべながらヤンデレはガクリと果てた……コワイヨトラウマになりそうだよ。
リファは手を組んで祈りを捧げる、目からは大粒の涙がこぼれ落ちた。
「どうして……素直に言ってくれればよかったのに……こんな……」
「リファ、君のせいじゃないよ」
「でも……」
ご先祖様は寄り添って、リファを立ち上がらせると、向かい合わせに立ちリファを穏やかな目で見た。
「エル……」
「すまないな、君に悲しい思いをさせてしまった」
「ううん……エルのせいじゃないよ」
「いや、僕の責任だ……だから君には」
「……ぇ!?」
その時信じられない事が起こった。ご先祖様は、あんな優しい声で話していたご先祖様が……馬鹿な……
リファの脇腹を貫く衝撃。それは、小剣だった。
「かはっ……!?」
ご先祖様が小剣を引き抜くとか弱いリファの体から血がポトポトとしたたり落ちる。痛みが伴ったのか、リファは腹を手で押さえて苦しむ。……どういうことなんだよ……まさか……
「エル……エリアナに何かされたの? 呪いか何かの力で……」
「違うよ」
俺とリファの推測を、ご先祖様は真っ向から否定した。
「エリアナがうまくやってくれると僕が手を汚さずに済んだのだけど、仕方がないね」
「どうして……っ? どうしてこんな……!」
ご先祖様の表情は永久凍土の氷のように冷たく、しかし溶岩のように沸々とした何かを秘めている……ホント何なんだよコイツは。俺の聞いてた勇者エルリードは慈愛に満ちた人のはずだ! それが……一体……
「僕は君を世界で誰よりも愛している」
「エル……」
「そして、世界で誰よりも君を憎んでいるんだ」
「えっ!?」
どーいう事ですか? 何その二律背反的発言?
「君はいつも強かった。今までの幾多の戦い、君がいなければ乗り越えられなかった……全部君のおかげだよ」
「そんなことないよ……エルだって……」
「違うな! 君がいなければ、僕らだけでは何も成し遂げられたなかったんだ。ただ一人の女の子に僕らは寄り添うだけの道化だった」
「違うよ!」
「違わない!」
ご先祖様の美麗な顔が壊れたように歪み、怒りに満ちる。
「僕らは世間では持て囃された。英雄と言われている。でも、それは全て君の名声にすぎない! 僕はそれにすがりつくだけの空っぽの存在だ……君とは天と地ほどの差がある……それがどれだけ惨めなことか君は知らなかっただろう? 君の影で僕がどれだけ苦しんでいたか知らないだろう!?」
わかるわけねーだろそんなもん!! 知らねーよ、それお前の勝手な言い分じゃん!! なに甘ったれたこと言ってんのバカなの!? って言ってやりたいが俺にはどうすることもできない。
「エル……エルは素晴らしい勇者だよ。みんなから尊敬される勇者なんだよ?」
「善人……どこまでも良い奴なんだなリファは。能力も人格も完璧だ。だか、そのその完璧さが僕は許せないんだよ!!」
「エル……聞い……」
リファが最後まで言葉を発する前に、エルリードは彼女の華奢な喉元にレイピアを突き刺しひきちぎるように凪いだ……あまりにもひどすぎる……
「ぁ……」
涙を流しながら、最後に優しい顔を浮かべてリファは絶命する……こんなことをされたのにリファはまだアイツの事を信じていたのだろう……畜生!! ちくしょぉぉ!!
「これで越えられる。これで僕は真の英雄になれるんだ! 惨めだった、リファのお飾りざった、偽者だった過去と、これで、決別できる! フハハハハ!! アッハハハハハハハ!!」
まるで悪魔のようにけたたましく笑うと、エルリードはリファの身体を惨たらしく、語るに耐えないあまりにも酷いやり方で心臓を引っ張り出した……
「これで、覚醒する……ファールデクスよ! ファールデクスよ我とともに新しき道を歩もう!」
呆然とする他の勇者を無視して、エルリードは剣に近づき、リファの心臓を差し出す。すると、聖剣ファールデクスは輝きを増してそれを光で包み込み吸収すると、リファが魔王を倒した時とは違う、真紅の刀身を持つ荒々しい姿に形を変えた。あれが人の命を吸って覚醒したファールデクスの真の姿……赤い光の線が剣の隅々を駆け巡るその姿はまるで全ての人間の憎悪の念を結集したかのようなオーラを放つ。映像で見ているだけの俺ですら感じるのだ。こんな事が……許されて良いのか? 良いワケがねえ!! こんなヒドイ奴がのうのうとこの後も生きていたなんて……
エルリードは紅き聖剣を手にすると、再びリファに近づき、その命を失った片手を切り落とし、手に取った。
「お前……」他の勇者が青い顔をして言う。とても伝説になるやつとは思えない情けなさだ。
「……リファは乱心し、剣の巫女を殺した。だから仕方なく僕が止めた。戻ったらマレーガットにそう伝える。いいな2人とも。」
歯向かうこともできず、装備だけが絢爛な2人の英雄はただ怯えたじろぐばかりだ……世界の礎になったと奴らとは思えない、情けない小心者だ……
「……い、遺体はどうする?」
「丁重に葬るとしよう。あの世で2人には仲直りしてもらいたいし」
出来るかボケェ! こをんなやつ幻滅だぜっつーか、俺と母さんはこんな最低な奴の血を引いてるのかよ!? こんな穢れた血で、俺は勇者を気取っていたって言うのか!? 正義を謳っていたと言うのか!?
チクショーーチクショーーチクショーー畜生ぉお!!
湧き起こる怒りが頂点に達したところで、画像は途絶えた。俺はすぐにコド美に詰め寄る。
「わかりましたか?」
「わかったどころじゃねーよ!! まず、一つ聞かせてもらうぞ!?」
「何でしょう?」
「今の出来事が起こる前にリファとエルリードの間に子供はいたのか?」
「いません。この後に、エルリードは他の女性と結婚し、何人かの子供をもうけた。その子供のうちの1人の子孫があなたなのです」
「つまりリファとは血がつながってない……とか言ってる場合ネヌオーーー!! じゃあ、死んだ二人の想いはまるっきり無視どころか踏み躙られてるじゃねーか! まんまと聖剣の生け贄にされたわけか! それで何もお咎め無しゃあ末代まで恨むわなヤンデレになって俺を襲うわな!!」
「いえ、理由に感じては異なると言ってもよいでしょう。遠く時が流れ、実質的強引にリファは復活したわけですが。彼女には共に命を落としたエリアナの怨念がまとわりついています……その怨念が彼女を大きく支配し、あのような歪な人格と誤ったプロフィール、アイデンティティーを構成しているのでしょう」
そのくだりを聞いたところで、やっと俺の心はすこしクールダウンした。声を落ち着けて会話を続ける。
「それって、ようはエリアナがリファに取り憑いてるわけだな? ただのバグで片付けられんってことが身に染みてわかったぜ……じゃあ、勇者の時の記憶とかは無くなってたりするわけか?」
「はい、おそらくほとんどリファ自身の本当の記憶は失われているでしょうね。あなたの事も感覚的にエルリードに重ねてはいるでしょうが、おそらく心得てはいないのでしょう」
「しかし、それって裏を返せばエリアナの怨念を打ち払えば、リファの記憶が戻る……ヤンデレじゃなくなるかもしれないってことか?」
「おそらく。ただ、それはかなり難しいでしょう。エリアナの怨念は強固ですし、彼女自身もエルリードに殺された身。仮に記憶が戻っても瓜二つのあなたを見て殺意を維持する可能性があります……」
「そうだな……今のところ、エリアナの怨霊を取り除く方法もわからないし。積極的にそこを狙うのは難しいか」
「しかし直接刺激を与える事は無駄でも無いと思います。」
「……わかったよ。過去が後付けであれご先祖様の罪は重いし、それは子孫である俺の罪でもある。こうして生きている以上償わなきゃいけないよな!」
「あなたは……まことに勇者なのですね」
「いや、俺はまだそれを名乗る資格はねえよ。せめてそれが適うのは汚名を返上した……リファと世界を救ったときだ」
「わかりました。では、あなたに、最後の決戦の地を用意して差し上げましょう」
「決戦の地?」
「ええ……その名は<プラクティス>。因果ありしものをそこへ集わせます。」
「わかった。任せるぜ」
コド美はコクリと頷く。そして、目を閉じ両腕を×の字にクロスさせてスタイリッシュな構えをしてこう言った。
「コンテンツ872起動……指定された複数を配置します……」
「!?」
俺の身体が急に光りだす。そして、足下から姿が消え始めた。この流れからして、おそらくワープが始まったのだろう。
「成功することを期待しています、アシュレイ」
「ああ!」
そう、強く答え、いつにない魂の炎を燃やしながら、俺はセーフティモードから姿を消す……
こうしてリファとの逃走劇は遂に正念場を迎えることになった。果たして結末はどうなるのか……グッドエンドか破滅か、それはもうすぐ解ることだろう……
次回からは遂に最終節になります。ちょいシリアスっぽくなって重要な局面ですが最後まで頑張ります〜!




