カウントダウン・ベストチョイス
勇者の住む世界は、元々はゲームだった。その中でもリファはオミットされた未使用データであり、彼女が表舞台に出たことで、世界はゲームでは無く現実となった……しかし……
「リファは、先にものべましたがゲームに本来登場しないはずの存在。そんなものがゲーム内に無理やり登場し、しかも本来あり得ないステータスに設定されている……これがどういうことかわかりますか?」
「うーん、多分、ゲームだったらプログラムが応対処理できないだろうから何か支障が起こるだろうな」
「そうです、規格外予想外の異常が起こるという事はゲームプログラムに大きな負担を強いることにり、最悪の場合破壊される。製作者の意図しなかった裏技やバグ技を使い続けた結果、セーブデータ(記録)が消えてしまったりゲームが起動しなくなったりするのも、主な例です。」
「で、でも、この世界はゲームじゃなくなったんだろ?」
「確かにそうですが、根幹的なプログラム的な部分、そして許容限界はあります。しかもリファは、今、飛躍的に攻撃力が上昇を続けていて、既に天文学的な数値に達しています。このままでは世界があの子の力を押さえることができなくなってしまうでしょう」
「リファの能力が上がり続けている……今どれくらいなんだ?」
「私の分析ではおおよそ6不可思議20那由多3極といったところでしょうか」
「ぶぽぽぽっ!? それ京どころじゃないじゃん(※1不可思議は10の64乗です)もう超天文学的な数値になっちゃってるよ!!」
「爆発的な能力上昇はすでにこの世界の許容範囲の限界に近づいている。このまま彼女の力がおおよそ10無量大数に至った時、世界は耐えきれずなくなり消滅してしまうでしょう。私の計算では保って10日といったところでしょうか」
「つまり、一刻を争う事態ってわけか。やべぇ、もう逃げてる場合じゃないってことか……でも、どうやってリファを止めれりゃあいいんだ!? 何か、方法は!?」
「安心しなさい、ただ一つだけ方法があります」
「あ、あるのか! よかったー、早く教えてーな!」
「まずはこれを受け取りなさい」
「?」
コードブロッカー(以後コド美と呼ぶ)は、右の手のひらをひらりと上に向ける。すると、どこからともなく、ゲームのコントローラー(コードレス)みたいなものがフッと現れ、彼女の手のひらにぽんと着地した。
「なんだそれ?」
「これは<ゴッド・コマンダーX>。世界の理を調律する道具です」
「なんかすごそうだな……んで、名前の最後のXは何を意味してるんだ?」
「……」
「なぜ黙る」
「この道具は、あなたしか使うことができません」
「うわスルーですか……でなんで使えるのが俺だけなの?」
「ワールド・インディペンデントの時に、現れたこれは、主人公であったあなたが使わなければ効果がないようにプログラミングされている……万が一このような事態が起こった時のために製作者側が用意したのでしょう。緊急用ツールと思ってください」
そう言って、コド美は俺に近づきそっとそのコントローラーを手渡した。俺は温もりと完全に澄み渡り疾走する名も知らぬ純白の花の香りを受けとめながら、その得体も知れぬ長方形のアイテムを一度ぼんやり眺める。十字型のボタンの横にA、B、S、Wと書かれた丸い押しボタンが四つ並んでいる割とシンプルな作りだ。それを確認すると、すぐに顔を上げ、俺は聞いた。
「これを、どうしろと?」
「あなたには2つの選択肢……コマンドがあります」
「こまんど?」
「はい、ボタンを決まった順序で押すことにより効果が発動する仕組みです。そして、その効果は、如何なるバグに対しても適用が見込めます」
「リファに対抗できるってのか! そいつは凄いな! じゃあ、早速だが教えてくれ!」
「……まず1つ目は、Aボタン36回Bボタン72回、十字キーを上上下下左右上下の順に押すと発動する<デフォルト>のコマンド。」
「うわ長っ!」
「これを入力すればゲームの世界設定がすべて初期化されてあるべき状態にもどり、本来と違う動きをするプログラムはその際に全て消滅します」
「ああ、ようは世界を丸ごとリセットしちまうわけか……確かにリファを消せそうだが、何か色々と弊害がありそうだな」
「ええ。世界が初期化されるのですから、あなたや皆さんの記憶、上昇した能力等、今まで起こった事の全ても同時に消え去るでしょう」
「うわ、それは何か嫌だな」
「それに、無理やりリファを消そうとする際に、予期せぬトラブルが起こる可能性があります。場合によっては世界が壊れて最悪、消滅してしまうかもしれません」
「しかも結局運まかせなんですね。あまりにもリスキーすぎるぞ……んで、もう一つのコマンドは?」
「もう一つ……はSボタンを5万回連射することで発動する<ハンドレットアベレージ>です」
「5万回てそれはもはやコマンドとは言えん気がするぞ……って、突っ込んでもスルーすると思いますんで効果のほうを教えてください」
「このコマンドを入力した瞬間、あなたの周囲半径20メートル以内に全ての者の能力が均一……数値にしてオール100になります。」
「能力が同じになるってことか。じゃあ、リファのチート能力も俺達と同じになるってんだな!?」
「はい」
「よっしゃ。じゃあそれを選ぶことにするぜ! ハイリスクで全リセットなんかと比べるまでもねえ!」
「アシュレイ……言っておきますが、あなたが想像するよりもこちらは遥かに厳しいですよ? 確かに<デフォルト>よりも低負荷のため、ロストダウンの可能性は極めて低いと言えます。しかし、<デフォルト>は全てが対象になるため何処でも使うことができますが<アベレージ>は対象に近づき範囲内に収めてから発動させなくてはならない。ましてや相手は天文学的数値を持つ強敵なのです。それに、仮に成功しても、リファが消えるわけではありない。最終的にはあなたが自力であの子を止めなくてはなりません。<アベレージ>の効果はあくまでも能力のみですからスキルや魔法、特殊能力に関しては変わりなく残る……一筋縄ではいきませんよ?」
「んなの構わねえ。うまくいっても今までの思い出が全部消え去ちまうよりはずっといいさ!それに……リファだけ一人淋しく消え去ってしまうってのも嫌だ」
「アシュレイ……あの子を救う、つもりなのですね」
「当たり前だ。あいつの事を何も知らないで終わらせるなんざできるものか!」 それに読者の皆さんだってリセット落ちなんかで終わらせたら絶対モヤモヤして不快な思いをするに違いないし。
「わかりました……では、貴方の決意に私も答えることにしましょう」
「おう!」
「それでは、まず、リファの過去をあなたにお見せしましょう」
「……あの部分か? リファがご先祖様を裏切って剣の巫女を殺したっていう」
「はい、主にそこが中心となります」
「そうか……ついに真相が解るんだな。いよいよ、リファの事が明らかになるのか」
「そうです……」
そう言うと、コド美は両手を広げて目を瞑った。すると、辺りの空間がふっと漆黒の闇に包まれ、真ん中にあった地球儀のようなものがそれに逆らうように光りだした。そしてその発光が弱まったとき、そこには緑の大地が写し出されていた。




