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夢か現か

賢者様まで仲間にした勇者アシュレは<セーフティモード>へ向かう。



一方その頃、伝説の勝負師Kはお金に困り大切なトレーディングカードを売り払う羽目になっていた! 給料日まであと2日、残額は千円に満たないがそれでもゲーセンに向かうつもりのK。何故なら明日はLV3のバージョンアップの日だからだ!並ぶ覚悟は既に出来ている……果たしてレアカードを手にする事はできるのだろうか!?(ちなみに、勝負師だけど勝率はあまり高くないようです合掌) 





戦艦の中で、俺はおかしな夢を見た。



真っ暗な、ただ闇が四方八方に広がる空間に、俺はポツリと立っていた。いや、立たされていたと言うほうが正しい……そこから動こうとしても、体はいっさい反応しない。声を出そうとしても声帯は働かず。空気だけが吐き出される。いわゆる金縛りと言うものに近かった。何もできないと言う事実を突き付けられると不安と恐怖が沸き起こる。それは、数々の危機を乗り越えて来た身でも回避できないことだった。



身動きとれずに心だけがもがいていると、闇の奧から見たことのある人物が現れた。



「……!?」



「不思議ですか? 夢の中に私が出てくる事が…………そうですよね。なぜ私があなたの前に現れたのか今のあなたにはわからないでしょう……」



彼女は俺の心を読んで一方的に話す。穏やかな声で、ゆっくりと。



「悪いようにはしません。ただ、大切な事を知らせに来ただけです」



大切な事……?



「そうです。それは、あなたが<セーフティモード>に入るとき、守らなくてはならない事」



それは……?



「もし入り口が開いても、あなた以外は決して中に入らないようにしてください」



どうして……?



「それは、あなた以外は心身を保ていからです。入った途端、如何なる者でも一瞬にして消滅してしまいます」



え…………何で俺だけ大丈夫なんだ。



「必ず守ってくださいね」


そこで視界が白くフェードアウトすると、夢の世界から俺は目覚めた。



「なるほど。それはリアルな夢だね」



みんなで摂る朝食の席でラキシスはモーニングコーヒーの湯気と香りを楽しみながら淡々と言う。



「間違いなく警告だよな?」



「そうだね。じゃあ、僕らは入れないって事か。それは残念だ」



「……お前の顔には残念さのかけらも見当たらないんだけどな」



「まあ、元々僕は君から聞くだけで十分な立場だからね。それに、ある程度の推測はついているし」



「なんだと!? 何がわかったってんだよ!?」


「先入観を捨てて少し考えればわかることだよ」



「先入観じゃと……ワシらが何を勘違いしておると言うのじゃ?」賢者様は眉を潜める。



「おや、マーレガット様も気付いておられないのですか。それとも、単純に認めたくないと言うことでじょうか」



「ラキシスとやら……それは挑発のつもりか?」



「おや、言葉がすぎましたか。それは申し訳ありません」


ラキシスは丁寧に生返事をした。まったくにくったらしい偽善者だ。



「で!」クロノが無意味に机をバンと叩く。「その、知ってる人ってのは誰なのよ!?」



「ああ……それがな……覚えてないんだ」



「はあっ!?」



「知ってるはずなんだけど、わかんないんだよ。お前も知ってると思うんだが……なぜか、何の特徴も思い浮かばないんだ」



「何それ、意味わかんない」



「おそらく」母さんが落ち着いた声で言う。「意図的に記憶を消されたのだろうな」



「なるほど、そうかもな。人の夢の中に出てこれるくらいなんだから、できてもおかしくねーか」



「息子よ、理由は何にしろお前は選ばれたのだ……きちんと使命を果たせよ。もし、死ぬようなことがあれば取り返しのつかない事になるかもしれん」



「ああ……肝に命じておくぜ」



母さんは、俺を心配してくれた……だけではなさそうだ。ラキシスと同じく何かを既に掴んでいるのかもしれない。



朝食をとり終えて30分後に、目的地のフィッシャロ湖に辿り着いた。空からはじめて見たが、琵琶湖の半分くらいはありそうな大きさだ。賢者様の指示で、戦艦は湖の南端の森林地帯付近に停泊し、俺たちはまず湖岸に足を運んだ。



「ふうー、涼しいですねアシュレイさん」



「そうだな、キーニャ」


「綺麗な湖だし、泳いだりもできそうですね」



「やめとけ。外来魚がいっぱいいるらしいからな。噛まれて血だらけになっても知らんぞ?」



「もー、ロマンがないですねアシュレイさんは」



「ただ無謀なだけの行動はロマンとは言わないんだ」



「ちぇっ」



「見ろよ、みんな魚釣りしかしてねえだろ?」



「確かにそうですね」



湖岸には沢山の釣り客がいた。様々な人種が釣りを楽しんでいる勿論リザードマンも……って、よく見たらそれは知り合いのハーマーだった!



「おーい! ハマちゃん!」



「おぉ、スーさんじゃないか!」



高そうなリール付き釣竿を湖岸に固定させて、緑色のトカゲ男は近づいてきた。



「やっぱりお前も釣りがしたくなったのか?」



「いや、違う。ハマちゃんこそ、ここでずっと釣りしてたのか」



「ああ、毎日大漁だぞ! そこのバケツにいっぱいブルーギルが入ってるから、よかったら持っていけ」


「あー、悪いけどいりません。」



「ちゃんと調理したらウマいんだぜ? 天ぷらにしたり、雑炊にしたり、すり身にしてつくねにするのもいいな」



「そんな事してる暇ないの! 今大変な……あ」



そう言えば、あいつの事を話さなきゃいかんな。俺を庇って行方不明になった妹の事を。 「あのさ……」



「どうした? スーさん」



「リザ子のことなんだけどさ……その……」



「ん? リザ子ならそこにいるから直接話せばいいんじゃないか」



「へっ?」



「ほら、お前の後ろだよ」


「きゃーーーー!?」



 俺が怯えた猫みたいに髪を逆立てて後ろを振り返ると、そこには巨大なリザードマンの割れたムキムキの筋肉があった。



「きゅう」



「ひ、久しぶりだな」



「きゅ」



「あ、あん時はありがとな……俺をかばってくれて」



「きゅるる!」



おれがどぎまぎしていると、その横からクロノのへーと言ういたずらっ子みたいな声が聞こえた。俺は首だけそちらへ向けると。ツンデレは口の端を持ち上げてニヒリとわらっている。


「あんた、そういう趣味あったんだ」



「い、いや、こいつはただの命の恩人で……」



「その割に動揺してるよね?」



「これはだな……その……」



「さいってー、リザードマンにまで手を出すなんてどんだけ肉食なの!?」


こいつ、これみよがしに今までの仕返しをするつもりだな!? ちくしょー


「ふむ、女癖の悪いのは関心できんな。勇者たるもの愛すべきは1人に決めよ」



「母さんまで! 変なふうに話持ってかないでくれよう!」



俺がくしゅっとしていると、また見慣れた顔が姿を現した。



「クワクワ、まあまあ皆さん落ち着きたまえ」



「え……!?」



「無事に生きていたのだな。再び逢うことが出来て嬉しい限りだぞ……相棒」


「ふ、風来坊ぉ!!」



それは、魔王島で随分と世話になった鳥人間だった。俺はその再開に感動し、リザ子すら放置して彼に駆け寄る。



「生きていたんだな!」


「ああ、幸いにもあの娘、私を狙って来なかったのだ。命拾いしたと言うことだよ」



「でも、どうしてこんなところに?」



「魔王様がああなってしまうような一大事だ。流石にじっとしているわけにもいかなかったのだよ。だから島を出て他の大陸の様子を見ようと空を飛んでいたんだが、その途中でこのリザードマンが海面にプカーと浮いておったのよ。それで放置するのも悪いと思い引っ張り上げたところ、このフィッシャロ湖の兄の元にに連れていってくれと頼まれ、今に至るわけだ」



「成程。しかし、リザ子の言葉がわかるなんて、流石は風来坊だな」



「して、相棒よ。お前こそどうしてこんなところに?」



俺はセーフティモードの事を話した。鳥人間はそれを聞いてクワアーとひと鳴きし、俺をガン見した。


「風の噂で聞いたことはあったが、まさかここにその入り口があるとはな」



「俺たちは、何としても真実を知らなきゃならねえ。リファを止める術はそれしかないんだ」



「わかった。では、我々もお供しよう……リザ子殿、共に勇者アシュレイに力を貸そう」



リザ子は力強くきゅうと鳴いた。一度は恐ろしい目に遭わされた彼女だが、今は何だか頼もしい。



「じゃあみんな! 気張って行くぜ!」



俺たちは賢者様を案内役に、列をなして湖岸の森林に向け歩きだす。ただ、一人だけ……ハマちゃんだけは、俺に手を振るだけでついてこなかった。おそらく怖いからではないだろう……ヤツは正真正銘の釣りバカなのだ。全てにおいてブルーギルを釣ることを最優先するとは、まったく筋の通った男だ……まあ、ついてきてもこのメンバーとあのチートな相手では出番なんて微塵もないし、仮に出番があったらあったで瞬殺されると思うから、その判断は圧倒的に正しかったりするわけだけど。


獣道のようなところを草を掻き分けて進むことになったが、リザ子の怪力のおかげで大きな障害物は簡単に除けられたので、目的地には案外すんなりと辿り着く事が出来た。



「うむ、ここじゃ」



「ここが……」



そこにはぽっかりと、草ひとつ生えない円形のレンガみたいなものが敷き詰められた空間があり、その真ん中には犬……わかりやすく例えるなら可愛くないチワワのような姿をした石像があった。ちょこんと座り真っ直ぐに彼方を見つめるような大きな両目は、赤く輝いて美しい。



 「よくもまあこんな綺麗な状態で今まで壊されもせず残っていたものだな」風来坊は不思議そうに言う。


「それにしてもダッサい造形ね〜どこの誰が作ったか知らないけど趣味悪すぎ」クロノは偉そうに言う。


「確かにちゃちな作りの石像だね。でも、それはカモフラージュかもしれないよ? 価値のあるものに見せなかったからこのように今までのこせたのかも」キーニャが好奇心に満ちた声で言う。



「果たしてそうかしら? 今まで長きに渡り存在したものだとすればあまりにも綺麗すぎるわね。傷1つ無いなんてまるで最近作られたか、或いは何者も寄り付かなかったのか……」リリエンタールは疑念を抱いて言う。



「その答えは後にしようぞ」



 そしてそれらの発言を賢者様が締めくくると、懐からクソ汚い手垢と加齢臭付きコアラのマーチを出し、チワワの目の前に差し出した。



「開け<セーフティモード>よ……真実への道を示せ!」


ウワワワワワ



老人がいかにもポいセリフを吐いた途端、変な音が聞こえ、銅像の辺りの風景が歪曲して渦を巻くと、半径20センチくらいある真円形のギラギラ銀色に輝く裂け目が現れた。



「どうやら成功のようですね」ラキシスが微笑む。


「うむ、あとは……アシュレイ。おまえの仕事じゃ」



「俺の夢の中の言葉を信じるんですね」



「ああ……だから中で聞いた事や、起こったことは全てお主から聞くことにする。全部覚えるのは大変じゃろうから、忘れんようにちゃんとこれに内容をメモして来るのじゃぞ」



そう言って、賢者様は懐からアイドルの<セントちゃん5>が表紙を飾る子供向け学習帳を手渡して来たが、俺はそれを受け取るのを頑なに拒否し、代わりにキーニャから彼女のポーチに入っていた愛用のメモ帳を受け取った。



「じゃあ、行ってきます!」



「帰ってこなかったらただじゃおかないわよ!?」


 クロノのヒロインぽい言葉に、俺は白い歯を見せた。



 「わかってらあ、土産話に期待してろよ!」



そして、いかにも主役ポい言葉を放つと、迷いなく、その異世界への入り口へズブンと足を踏み入れたのだった。



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