ママまるだしっ
聖地アンブルシウスで仲間との再会を果たした勇者アシュレイ。そこで、母が近くにいることを聞き、色々事情があって会わないようにしようとしたけどダメでした☆
「我が息子よ、肉親からこそこそ隠れようとは、随分と水臭いではないか」
「あわわわ……」
獅子の如き鋭い眼光を受け、俺は北極生まれの赤いやつのようにたじろいだ。
「聞かせてもらった。どうやらファールデクスを無くしてしまったようだな」
俺の母、エグセーダ=ハインカスタード。かつて、魔王ダイムライガと戦った世界的に有名な女勇者。エメラルドグリーンの長い髪をサークレットでまとめあげて額を出した宝石のような瞳を持つその顔は端正極まりなく、歴代勇者の中でも随一と言われる美しさを持つ。体型も、俺がここから生まれて来たとは思えないほど骨盤から何からスマートで、胸もデカいモデル以上のプロポーションだ。しかも、息子と歳が同じくらいにしか見えないほど若々しい美魔女っぷりを維持している。現状可愛さにおいて母さんに匹敵するのはリファとクロノとリリエンタールさんとエディアさんくらいだろう……って、最近の俺って何げに美女と縁があるな! この辺は主人公の特権といえようか。(無論、リザ子みたいな例外もいたわけだが)
殆ど行方不明な父の分まで、母さんは女手ひとつで育ててくれた。言葉遣いは厳しいけれど心優しく、凛々しく、格好いい……俺の自慢の存在なのだ。しかし、そんな母さんに俺は目を合わせられない。1つは勿論聖剣を奪われた事にあるが、もう一つ別に理由がある。
「あ、あなたが勇者エグセーダ様……?」
「そうだが、お前は何者だ?」
「え、ええと……クロノと言います……」
恥ずかしげに顔を赤らめ、目を逸らして受け答えするツンデレ。しかし、これが普通だろう。そう、俺が母さんを直視できないもう一つ理由は見ていて恥ずかしくなる「装備」をしているからなのだ。それは、もはや服というよりもはや布切れ。正直薄ピンク色のレオタードもといハイレグ水着にしかみえない。それが体にぴっちりと張りつき、そして食い込んでいる……とくに股のあたりに描くVラインの際どさはそこら辺の男子を瞬く間に釘付けにするだろう凄まじい悩殺力だ。しかも、それに加えて水着と同じ色をしたウルトラロングニーソを履き、さらにセクシーさを増す始末……こんな下手をすれば素裸よりエロい格好で街中にいられるのは、いくらファンタジー世界でもまずいないし、読者様の世界においては露出狂や恥女か雌奴隷か淫乱コスプレイヤーくらいだろう。(※現実にいるかどうかは不明です)あの装備品は「織天使の衣」という魔法耐性に優れ、着るものの能力を上昇させる最強クラスの防具だと分かってはいるのだが、やっぱり見ていて恥ずかしい。この防具を作った古の職人さんはたいそうエロかったに違いない。読者の皆さんも想像してみてください。自分のお父さんやお母さんがセーラー服美少女戦士の格好で町中を歩いていたら恥ずかしくありませんでしょうか? いくら顔がそれなりだったとしても話し掛けるのはまず無理じゃないでしょうか?(※シンキングタイム30秒)……ですよね〜つまり、そーいうことです。あかの他人だったらハーエロいわムラムラするーで済むけど、家族ともなるとそうはいかんのです。
フサッ
そんな事を考えてモヤモヤしていた俺の頭に、あたたかい何かがフワッ乗っかった。
「まったく、そう落ち込む事はない。お前の事だ、何かよもやまな事情があるのだろう?」
それは母さんの手だった。年甲斐もなく、路上で、ハイレグなキワドい衣装を着た状態で俺の頭を子供にするような感じで撫でたのだ。懐かしくて優しい匂いが漂って来るけど、恥ずかしさの方が圧倒的に先行する。クロノやキーニャ達が見ている前でこれとは、ちょっと空気読んでほしいです。だが、えーい、このまま照れていたら逆に恥ずかしさが増すばかりだ! クールな態度で場を繕うのが得策と言えよう! 俺は、垂れていた頭をグッと戻してやわらかな手のひらを押し退けると、母さんをシリアスな目で見た。
「母さん……」
「その顔、一段と逞しくなったな。随分と成長したものだ。あの小さかったアシュレイも今は昔か」
「すまない。ファールデクスは今、剣の巫女が持っているんだ」
「ふむ。預けた……と言うわけではなさそうだな」
「ああ、実質奪われた形になる」
「剣の巫女が聖剣を奪っただと……?」
「しかも、その聖剣で、アイツは魔王を倒しちまったんだ」
「成る程、ダイムライガを倒したのはお前だと聞いていたが、やはり違ったか」
「ん、母さんはわかってたのか?」
「ある程度な。貴様は報告連絡相談はちゃんとするタイプの人間。なんの音沙汰も無く、勝手に魔王を倒すと言うのは非常に不可解だった。疑う余地は大きかったよ」
流石は俺の母さんであり勇者だ。失態を藪から棒に怒ったりせず、冷静かつグローバルに物事を考え判断する力を持つ。
「けど、理由が何であれ、このままだと俺は勇者失格だ。掟は絶対なんだろ?」
「ああ。だが、恥じることは無い。取り返せば良いだけの事だ息子よ」
なら、母さんもその格好を恥じてくれないかなー? と思いつつ、俺は強く頷いた。
「ああ、必ず取り返す。そして、あいつを救うんだ」
「救う……聖剣を奪った者をか?」
「ああ」
「難しいことを言うものだ。ただでさえ聖剣を略奪せし者は厳罰が必至であるというのに」
「ハイリスクですが、良いではないでしょうか。あなたの息子の発言は善人気取りでも守銭奴でも無い事を証明している」
そこで、予想よりも早く追いついたラキシス達が割り込んできた。母さんはそちらに目をやると、ふむと腰に手を当てた。
「ヴィンターハルト枢機卿ではないか」
「再びお会いできて光栄です。麗しの勇者エグセーダ様」
ラキシスとリリエンタールは膝をつき深く頭を垂れた。一国のお偉いさんと弓聖にここまでさせるなんて、母さんってスゲー! つーか、この2人知り合いだったんなら先に言ってくれよなプンプン!
「今は亡き父上の脛にしがみついていた、恥ずかしがり屋の少年が、随分と覇気を得たものだ」
「国を支える身となれば成り行きでこうもなりましょう」
「謙遜はよしておけ。有能な人間の謙遜は嫌味に写るものだ」
「はい、深く心に留めておきましょう。貴女のような御方の言霊を投げ棄てるのはおこがましい事をですので」
この美青年の言葉は本心な気がしないので実に歯がゆい。母さんも顔には出さないが多分内心同じような感情をいだいているのではないかなかろうか。
「……、リリエンタールも久しぶりだな」
「はっ」
「お前は変わらぬな。幼い頃からやけに大人びたものを醸し出していたが、成る程、それが似合う歳になったではないか」
「自分が弓聖となれたのも、昔あなたから教わった知識があってのもの。大変、感謝しております」
「お前の母イメルダもその姿を見れば泣いて喜ぶであろう……しかし、それにしても、あやつは早く逝きすぎだ。親友として淋しいかぎりだよ」
「過ごした時は短かったけれど、善き母でありました」
「そうだろう。明るくて元気で仲間内でも悪く言うものはいなかった。シムベス湖畔での夜会では……」
あー、やべ、母さんの思い出話はいつもスッゲー長くなるんだ。ほっといたらラノベが一冊出来上がっちまう。止めなければ……と思ったが俺が動く前にラキシスが空気を読んでくれた。
「エグセーダ様、積もる話は本題を済ませてからに致しましょう。我々には急ぎ追うべく重大な事柄があります。そのために、この度ご子息に同行させていただいた次第ですので」
「うむ、成る程、国を統治する貴公が自ら出向くとは本当に並々ならぬ事態なのだな」
「はい。おそらくは一刻を争う状況かと。早急にマーレガット様にお会いすべきと思います」
「了解した。では、皆私に付いてくるがいい」
母さんはそう言うとカツカツと雲傘被る山の方へ歩きだした。お尻の部分がTバックになっているのに全く気にせず、プリケツ丸出し状態で人混みをガンガン進むその姿を見て、俺はまた恥ずかしさがモーレツにブワッとこみあげて来たのだった……




