翼をください(300円で)
ラキシスを味方に付ける事にひとまず成功したアシュレイ。さあ、これからどうするんでしょうか?
全然関係無いけど、カラオケに行きたいッス! 筆者の歌唱力は……ジョイF1ならえ○り君に勝てるかもしれない感じですw
飛行戦艦の名は「アルンシュベルト」と言った。かつてエールレイゲンを治めた名君の1人の名を冠したその巨大は、一面に銀色の塗装を施されさしずめ高級車のようなハイセンスなフォルムをしていた……もっと分かりやすく言うとメカクジラみたいな感じである。ん、あんまり格好よさそうじゃないって? そんなこたぁないでしょう。 鯨の形ってのははある意味機能的にも美的にも完成されたものなのだから……
戦艦の内部内装は、これまたこの世界の最先端技術をふんだんなく使った、よくできた造りだ。居住区はまるでショッピングモールのように広く、ゾクタル調の装飾もきらびやか、その上飲食や雑貨などの店舗まである。最早1つの小さめの街だ。
「そうなんだ。君は随分と刺激的な経験をしてきたんだね。羨ましいよ」
「淡泊に羨ましがるもんじゃねえと思うがな」
「君からすればそうかもしれない。しかし、それはある意味において恵まれているんだ。命が散るまでに特異な経験を出来る者は少ない。不幸と言うものはある意味において選ばれし者の特権なのだから」
「特権と恩恵と才能のかたまりのようなヤツがそんなこと言うのはキザだと思うぞ」
「ハハ、これは失礼した。無礼な発言を詫びるとしよう」
ラケシスに案内されたその部屋は、泊まっていた高級ホテル並に豪華で、北面が超強化ガラス張りになっており空の情景を眺めることができる。ただ、そんなパノラマな光景に少年のようにはしゃぐのは大人気ないので、俺はゆったりと素晴らしいふんわり度を持つソファーに腰掛けて綺麗なメイドさんが出してくれたエスプレッソを啜り、ラキシスに今までの経緯を話した……って、このパターンはもう何回目だったっけ? 医者を変えるたびに生い立ちを話さなきゃならないメンヘラの憂鬱さが何だかわかった気がする。
「んで、これからどうするんだ? 王子様よ」
「ラキシスで良いよ。君とは暫く同じ穴の鼠になるわけだから」
「鼠か……聞こえは悪いが、つまりあんたは俺に手を貸してくれるってことか」
「そういう事になるね。これからの行き先も君に従うよ」
「俺に委ねる?」
「先にも言っただろうけど、あれだけの損害を出してセトナも回収できずにおめおめと国に帰ることはできないんだ。マスターナイトとして、国を治める立場として汚点は払拭しなければならない……それに、あのリファって子とセトナを野放しにすること自体が問題だしね。そして、君に従うのが今は最善策だろう」
「じゃあ、俺やクロノの事はお咎め無しになるのか?」
「君達の行動次第だな。この件を無事収束させることができれば、罪を相殺するには十分どころではないだろう」
あまりにもスムーズすぎる。これほどこちらの都合の良い展開になるのは明らかに不自然だ……どうやらと言うかやっぱりと言うか、ラキシスはわざとこちらの策にはまったのだろう。結局俺はこいつの手の中で踊っているだけなのかもしれない。しかし、それでも今は構わない。リファ達を何とかするためには、その程度のリスクはどうということもない。だから、盆踊りでも楽しく踊っているとしよぅンチャチャッチャー
「ちょっと!! お兄様!?」
話に微妙についていけてないっぽいクロノが無理やり割り込んできた。
「どうしたんだい?」
「どうしたって……私は国に背いたのに、そんな簡単に心変わりしていいの!? 国を統治する立場なのに!!」
おいおい、せっかく命の危機を回避したってのになんで蒸し返しそうとするんだよ……まったく、本当にこのツンデレは死に急ぎやがるぜ。と言っても、こいつが今さら何を言っても兄貴の考えは変わらんだろうから別に問題はないんだけれど。
「もう、そんな狭小な事に囚われている状況ではないからね。クロノもわかっていると思うけど、あのリファと言う子は、この世界において、おそらく最大級の脅威だ。魔王をも軽くあしらう少女の前では鉄の戒律すら紙きれ同然。彼女が一体何であるのか、今の僕達はその真相の探求し対策することを最優先で行わなければならない」
「お兄様……」
「フフ。実に、重い十字架を背負わされたものだよ。しかし、これほど充足した時間は今までにあっただろうか。いや、無かった。不条理と不公平を生業とする神々には本当に感謝しなくてはいけないね」
ラキシスは胸の辺りで手を組み、目を瞑った。何かに祈るように……そして、その儀式らしきものが終わると静かに目を開き、俺に対してゆったりとした眼差しを向け話の続きをすることを促した。
「まずは聖地アンブルシウスへ向かってくれ」
「賢者様に会いに行く事を最優先にするわけだね」
「ああ。空路ならひとっ飛びだろ?」
「勿論さ。しかし、賢者マーレガットとは面識が無いけれど、それほど信頼できる存在なのかい。噂では幾千年の時を生き、森羅万象を知る、女と酒に弱いローブを着た頭に毛の無い毎日3回お風呂に入る蓄膿症で歯槽膿漏総入れ歯ロリコン猫好き昔ギャンブルにハマってカジノで一日に300万スッた事を何故か自慢げに話す老人だそうだけど」
「全部その通りです! つーかそれってもはや噂じゃなくて、直で見た情報だよな?」
「僕の国は目も耳も聞くからね。風通しの良い場所なのさ」
「嘘つけよ。どうせ途中でフィルター通してごまかしてるんだろうに……そんなお前の国の事情は深追いしないでおくが、とにかくあのエロじいさんの知識はハンパねえ。何のヒントも出ない事はありえない。いや、それどころか事を総て何とかしてくれる可能性も高い」
「随分な信頼だね。その信頼が損なわれないことを期待するよ」
「安心しろ。どうせ、損なわれたとしたら詰みだ。あのエロじーさんに何もわからなかったら俺達にわかるわけがねぇ」
「それは、もっともだね。リリエンタール、クロノ、2人も相違は無いよね」
麗しき弓聖は異論無しと言うように静かに頷いた。ツンデレの方もまだ納得しきれてないのかムスッとした表情をしているが「勝手にすれば!?」と、曲がりなりにも従うつもりではあるらしい。
「じゃあ、決まりって事だな!」
「了解した。早速操舵室に伝えるとしよう……目的地は聖地アンブルシウス。我々はそこで何を得るのか。希望か、それとも限り無き絶望か、はたまた予想にもできない範疇を外れた真実か」
そんな芝居じみた事を言うと、ラキシスはスッと椅子から立ち上がり窓の外の青空を見た。その灰色がかった瞳はギラギラと輝き、好奇心に満ちあふれていた。ただ事を愉しむような眼差し……それは不快でもあるが、強大な脅威を前にするこの状況においては心強くもある。
そんな、俺達の様々な思い、矛盾、交錯を一手に受けて船は空を駆ける。先に待つ1つの駅に向けて……
第3節はここまでです。ここまで読んでくれた方には感謝感激であります! いよいよ物語も後半……果たして伏線どこまで回収されるのか!? 今後の展開にご期待ください〜




