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モスト・デンジャラス・コンビ

一回戦でネジが刺さるなんてブロッケンさんは御愁傷様でした。まあ、リキシさんと組んだ時点で優勝はとても厳しかったのは確かですが……当時の超人強度からしてパーフェクトオリジンの誰かと組むぐらいしてやっとだと思います(by超人評論家)



「で、セトナ達はどうしてる?」



「ああ、今部下達が必死で陽動してるよ。もう、長くは保たないだろうけどね」



「それ傍観者みたいな言い方だぞ。そういうの嫌いなんじゃないのかよ?」



「確かに。君のいうとおりだ。まったく昔の癖は抜けないものだね。まったく、憎らしい話だよ」



顔は相変わらずヒンヤリ微笑んでしているが、今の言葉を発した時ほんのわずかにピリピリとした静電気のような感覚が伝わってきた。こいつもこいつなりに色々な事情を抱えているに違いない。だが、おそらくこいつはそういうものに対する感情をを敢えて無くさない程度に残しているのだろう。人間として破綻しないように……その絶妙なバランス感覚と自己制御力は、名役者……まさに彼自身が発した「恐怖の騎士(テラーナイト)」と言うに相応しいと言える。そんなふうに俺が感心していると、見慣れた奴らがこちらに迫ってきた。



「……どうやら、おいでなすったようだぜ。ペテン師さんよ」



「思ったより早かったね。もっとも、予想の範疇だけど」



俺は魔王の城で手に入れた真っ青なダガーを構えた。しかしラキシスはクロノのとそっくりの手斧を下ろしたまま堂々と静かなる林のごとく立ち尽くしている。弓聖リリエンタールもまた金色の弓を肩に立て掛けたままだ。どうやらこの2人、戦う気はさらさら無いのだろう。それに対して、クロノは手斧を持ち上げて何か言っているが聞こえないのでスルーさせていただきます。



「見ーつけたっ! アシュ君!」



見える位置まで近づいて、セトナが語り掛けたのは俺だった。他には見向きもしない。



「よっ、随分派手にやったもんだな」



「どう? すごいでしょえっへん!!」



セトナは、出会ったときの快活な少女に戻っていた……いや、リファと同で表向きの顔なんだろう。だったら俺もフツーな感じで時間稼ぎしながら話すが良かろう。



「お前、大体の事は聞いたぜ。人間じゃないんだってな」



「クロノが話したわけ? それとも、ラキシス?」


「さあ、どっちだろーな?」



「ぶー! 意地悪な言い方するなあ。今後お姉ちゃんの今日のおパンツ非公開設定になっても知らないよ?」



「それは一向に構わん。永久に封印してろ」



「ちぇー」



緊張感の無い雰囲気だ。だが、それでいい。そうでないと話が続けづらい。



「お前は、相手の能力を完全にコピーできるんだってな」



「すごいっしょ」



「らしいな。オメーだけしか出来ないらしいじゃねえか、そこは感心するよ」


「誉めてくれるの? お姉ちゃんとっても嬉しいなーますます……」



と、言ったところでリファがセトナのスカートを引っ張る。



「ふわわ〜セトナちゃんだけずるいよぉ。わたしもアッシュに誉められたい」


「あー、ごめんごめん! そう言う事でアシュ君、リファちゃんの事も誉めてあげてよ!」



「何でそうなる……」



「アッシュ、誉めてほしいな」



「ああ……リファ、相変わらず可愛いなお前」



「ふわ! ふわわん!?」


顔を赤らめてモソモソするリファ。今の姿だけを見ていたらとてもこの死体の山を築いたなんて想像できない。



「わたチェも誉めてほしいでつ!」



なぜかアータンが便乗しようとしたところで、ラキシスが口を開く。



「君達楽しそうだね……セトナも、良い出会いをしたものだ」



「ラキシス……」



穏やかな保護者のように言う騎士に、ホムンクルスの少女はやっと目を向けた。



「甘えん坊で人見知りで、いつも僕やクロノに支えられていた君がそんなふうに成長するなんて、ここにいる勇者君には本当に感謝するよ」



「よくも……信じてたのによくも騙してくれたよね。嘘つき兄弟っ!!」



「当たらないでくれないかな? あの子も僕も君の事を、本当に、大切に思ってるんだから」



「黙ってよ……偽善者のくせに……」

「否定はしないよ。どんないわれ方をしたって、だけど僕は君が欲しい。君のすべてを僕の手中に収めたいんだ」



「うっ!! やだよ! やだやだっ入って来るなあぁ!!」



激情型のヤンデレがたじろぎ、頭を押さえ悶える。この言葉の魔力と侵食力……恐怖の騎士恐るべし。


「どうしたの、おいでよ……楽に、してあげるからさ。君にとっての1番の幸せを僕は与えられるんだ」


「やめなよ」



ラキシスの言葉攻めから、セトナを庇おうとしたのは、意外にもリファだった。



「君は……何者なんだい? 君からは、とてつもない何かを感じるんだ。流石の僕にもそれが何なのかはわからないけど」

怨憑(おんつ)きが小賢しい……大嫌いだ」



 リファは俺に向けた表情とは打って変わり、ギロリとラキシスを睨む。



「おやおや、いきなり大胆な事を言うね。全く、実に興味深いよ……君が何者なのかと言うことも含めてね」



「……」



確かにラキシスがそう言うのもわからなくはない、俺だってリファについては知り得ない事が殆どなのだ……剣の巫女であると言う事くらいしか、わかっていない。あいつは俺といる間もあまり過去のことを話さなかった……ヤンデレ化する前のあの時点でそこのところを聞いておけばと今更後悔しても遅いだろう。いや、仮に聞いたとしても話してくれたかどうかわからないか……勿論今のリファは、絶対に誰にも話したりはすまい。


「ふふっ、随分と嫌われちゃったわね。ハンサムな王子さま」



代わりに口を開いたのはエディアさんだった。うん? よく考えてみると、ラキシスと似たタイプのような気がするな……このメラ賢そうな二人はどんなやりとりをするのかちょっと気になる。



「そうみたいだね、美しいお嬢さん」



「まあ、キザな言葉」



「フフッ、お互いにね。君も随分面白そうじゃないか」



「それは、同感。貴方みたいに自信に満ちあふれた真っ直ぐな子を見ると、すっごく壊したくなっちゃう。その自信も、余裕も、プライドもズタズタに引き裂いて二度とはい上がれない絶望のどん底に落としてあげたいわ」



「アハハ。素晴らしいよ。素晴らしい。僕も君を醜悪な家畜として地べたを這わせてみたいな。きっと、どんな(にわとり)よりも良い声で鳴くだろうし、どんな豚よりも悪臭を放つだろう」



「まあ、素敵。無益な強迫に囚われない建設的な汚物……なれるものならなってみたいものね」



 「ああ、君が望むなら僕が首輪を付けてあげよう」


 「それはおよしになったらどうかしら? 首輪ごと、利き手を持っていかれても良いのなら好きにすればいいけれど。うふふ」



 「君は、顔に似合わず大きな口をしているんだね。まいったな、僕の右手は斧を持たなくちゃいけない」


 互いに、おぞましいほど爽やかに笑いあう。こいつらの鬼畜ドSぶりはもはや高尚すぎて清々しいレベルだ。



「それで、あなたはどうするつもりなのかしら? 他の仲間たちのように今から(しかばね)になるなんて、つまらない事はしませんよね?」



「勿論だよ。僕は、この勇者アシュレイ君と、暫く時を共にするつもりだ」



「あらあら、何か企んでいるみたいね」



「それは、どうかな。僕は感情や無意識を否定して論理のみで動くわけじゃないから」



「じゃあ、見せてくださる?」



 「ああ、頼まれなくてもそのつもりだよ。君たちは、僕に敵対の意志しか見せる様子が無いわけだし」



どうやら、ラキシスは表向きは俺に協力するつもりらしい。しかし、表向きだけで今は十分だ。今のところこちらの想定通りに事は進んでいる。しかし、そのシメシメ具合は決して表に出してはいけない。ここはわかってない奴を演じるのだ。



 「どーすんだ、ラキシス?」



「まあ、ここは至極単純にいかせてもらうよ……リリエンタール?」



最強の騎士は左手を上げ最強の弓使いに何か合図をした。優美な彼女はそれを聞くと、持っていた弓を構え、弦を引く……あれ……ちょっとまて?  なんか変だ。



「おいおい、肝心の矢が無いじゃないか! どーいうつもりだよ?」



「ふふっ、安心したまえ。あれは<雷上動>……無限の矢を放つ神器の1つなんだ」



「……神器を使いこなせのか! さすが、弓聖の名は伊達じゃないな!」



俺が褒めたすぐその後、本来矢があるべき場所に輝く粒子が集まる! そして一本の光の矢が生成されたアンビリーバボー!



「君たちへの、暫しの別れにたいしての挨拶、受け取ってくれるね?」



「ラキシス……っ」



 セトナハギリッと歯を軋ませる。そこに向けて光の矢は放たれた。そしてそれはヤンデレ達に迫るとまるでレーザーのように拡散し光の糸で彼女達を包み込む!



「この技は<ミリオレイヤーハング>と言って、雷上動の固有技の1つさ。暫らくは足止めが出来るだろう」



「ふーん。閃けば誰でも使えるって……こともなさそーだな」



「じゃあ、今のうちに街に戻ろう。戦艦が停めてあるからそこに行こうよ」



「おう、わかったぜ!」



優雅に軽やかに走りだしたラキシスを追って、俺達は再び街へと引き返すのだった。



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