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黒髪の恐怖騎士(テラー・ナイト)

セトナを利用しようとしている黒幕さんの事話してたら本人が部屋に乗り込んできました。偶然にも程がありますが、実際そういう事象はいっぱいあります……宝くじで高額当選したり、雷が落ちたけど助かったりとか奇跡体験アンビリーバボー(何

 俺が名前を聞くと、ラキシスは背中の黒に銀の竜が描かれたマントをわざとらしく無風の部屋になびかせてこちらを振り向く。顔は、まるで凪の海のように静かで穏やかだ。



「そうだよ……君は?」


「アシュレイだ。これでも勇者をやっている」



「君が<疾風の勇者>……聞いたよ、魔王ダイムライガを倒したんだってね」



実は倒してませんと正直に言うような相手ではない。このラキシスって奴は微笑んではいるが、そこには何を考えているのかわからない得体の知れないさが滲み出ている。それは静かなる海にに何百もの船を静めた魔物が棲んでいるかの如く、不気味な違和感を俺に与えた。もっとも、それに臆してしまったら勇者などやっていられない。どんな強大なヤバイ相手でも落ち着いて話し掛ける、交渉する事こそ勇者の心得の1つなのだ!(稀に例外なシュチュエーションもあるけど、そこは気にしないでください〜)



 「ヴィンターハルト家のお偉いさんがこんなとこまで妹探しか?」



「ああ。大分消息は絞れていたんだけどね。君達があそこで騒いでくれたから確信に変わったよ」



「おいおい一部始終を、見てたってことか!?」


「遠くから傍観者みたいにね。だけど僕はその傍観者が嫌いだ。彼等は醜く肥えるだけで世界にとって有害なだからね。君やクロノのように懸命に生きる当事者こそ尊ぶべき者なのさ。だから、僕もこうして、自らの足でここに来た。あのような冒涜者にならないためにね」



 回りくどい。この手の黒幕系インテリ野郎ってのは大抵面倒くさいがコイツも類にもれなさそうた。過激な事ばかり考えてコロニー落としするどっかの赤い彗星さんと同類だろう。



 「妹さんとは随分と違う性格してそうだな」



「そうだね。それで、クロノからどこまで聞いたんだい?」



 「たいした話はしてないわよ!」



そこで、クロノが割って入ってきた。どうやら、俺を庇うつもりらしい。



「このバカはただ死にそうになってたから引っ張ってきただけよ!」



「随分と嘘が下手だね……」



「本当だよ! 誰がこんないかがわしい奴に本当の事を話すもんですか」



「ごめんね、悪いけど、さっきから聞かせてもらってたんだ」



「うっ……!?」



「驚いた?」



「だって、このホテルの防音機能は超凄いって……」



慌てるクロノを見て、ラキシスはクスクス笑った。それは、今までの薄情な感じがあまりなく心から愉快に思っている兄弟としてのの視点に俺は見えた。


「まんまと、乗せられちゃったね」



「にゃ!?」



「本当は盗み聞きなんてしてなかった。でも、今の君の反応で全てわかってしまったよ。君は昔から本当に素直で正義感の強い子だね。そういうところが僕は大好きなんだ」



「お兄様! 騙すなんて人が悪いんじゃない!?」


「フフッ、君だって今、騙そうとしたじゃないか……」



「にゅ……」



「それに、別に騙しても騙さなくても結果は同じなんだよ。クロノ、勇者君…窓の外を見てみたまえ」



クロノがバッと手斧を片手に立ち上がり、窓に駆けたので、俺もラケシスを横目についていった。カーテンを開け、窓ガラスを開けてベランダに出ようとすると、室内に強烈な風が吹き込んできた。



「あれは……!」



ベランダの柵に身を乗り出した俺とクロノの目の先には、巨大なあちらこちらから光を放つ浮遊物体があった。夜の闇の中、ぼんやりと姿を見せるその巨躯からは、プロペラの音がわんわんと騒がしく鳴り響く。おそらく、飛行戦艦だ。飛行船を最先端の技術で巨大化、兵器化させた空の移動要塞で、アルタロスやエールレイゲンほどの大国ならば一機や二機は持っていて当たり前だ。特に、エールレイゲンは空軍に力を入れていてその規模実力共に世界トップクラスと聞いたことがある……しかし、たかがツンデレヤンデレに飛行戦艦みたいな主力級を差し向けてくるとは、今まで聞いたクロノの話は全部マジ本当偽りナシなのを思い知らされた感じだ。俺たちの後ろから、ラキシスは話し掛けてくる。



「既にこの街には一万の精鋭部隊を敷いてある。逃げるなんて愚かな事は考えないでくれたまえ」



「俺たちをどうするつもりだ?」振り返り、俺は問う。



「君に罪は無いのだけど、いろいろ重要な事を聞いてしまったようだから、悪いけどクロノと一緒にエールレイゲン国に来てもらうよ」



騎士は優しく答えた。しかし、その薄ら笑みにはやはり底なしの怖さが秘められている。



「楽しいお茶会が待っているわけじゃないよな?」


「君は身の振り次第だね。 クロノは、残念だけど厳しい罰を受けてもらわなくちゃならない。セトナを連れ出したのと、神器を持ち出した上紛失させた罪は看過できない。良くて死刑だね」



「何だと……」



このヤロー、ぷにぷにして気持ちの良い、仲間思いのマシュマロツンデレを軽々しく死刑にするだとぉ!? まったくけしからん!


「お前、こいつの兄貴なんだろ? 良心の呵責とか無いのかよ!!」



「悪いね、政治に私情は挟めないんだ。クロノの事は大好きさ……今回の件で更に好きになったよ。すごく惜しい存在だと思う。けど、国に反することは出来ない。上層部の面子を潰すわけにはいかないのでね」



 「肉親より、地位を取るのか……」



「すまないね。それは譲れない。冒涜達を駆逐するためには必要なものだからね」



 まさに、冷酷非情。おそらく、その面子を守る上層部の奴らもこいつは時が来ればゴミ箱にポイするに違いない。目的の為には手段を選ばないあたり流石は野心家といったところか。こんな魔王より質が悪い奴が騎士の頂点と一国の主要部にいるなんて実に世も末だと思う。



「お兄様! このまま国に戻るくらいなら私は!!」



その時、クロノは手に持っている斧を持ち上げ、その刃を兄貴に向けた。



「僕を、殺すつもりかい?」



「できなかったら、私が死ぬ。それでも構わない!!」



「大した勇気だね。しかし、前者……君が僕を殺すことは絶対に出来ない」



「そんなの、やってみなきゃわからないでしょ!?」



「残念だけど、君は優しすぎるんだよ。実力云々の問題じゃないんだ。君が実の兄を殺すなんて出来るはずがない」



「……」



ラキシスの言っていることは多分圧倒的に正しい。このツンデレは円も縁もない俺を、セトナを裏切ってまでして庇った人間だ。口は悪いが心は相当清純で正義感が強い奴だろうから、殺生など口には出しても実行はできないだろう。おそらくこいつは……はなから後者、つまり自分が死ぬつもりなのだ。そうなると、俺がやらねばならないのは……



「やめとけ、クロノ」


「何よ!? 私なんかに肩入れすると、あんたの心証が悪くなるわよ!? 一緒に死刑になる気なの!?」



「早まるな、ツンデレ。とりあえず落ち着け」



いつになくキリッとした顔で言ってやったので、クロノは素直に斧を下ろした。それを見て、ラキシスは目を瞑り微笑んだ。



「流石だね。賢明だよ。君は勇者として十分な判断力を持っているようだ。君とはちゃんと話が出来そうだね。なかなか、僕が話せる人間、時に<恐怖の騎士>と呼ばれる僕が話したくなる人間は、いないから」



「そうか、じゃあお言葉に甘えて質問させてもらうけどいいか?」



ここは、臆してはいけない状況だ。この手の超インテリ系男子は強気で冷静な言動を好む傾向にある。彼自身が望む人間に徹するの事が大切だ。彼が興味を持っていてくれれば俺が何を聞いても大体は答えてくれる。向こうも相当なやり手に違いないから付け込まれる部分はあるだろうが、現状生きるか死ぬかの瀬戸際にずっといる自分にとって、そのリスクを恐れる意味は薄い。無視して我を通すに尽きる。



「ああ、言いたまえ」



「じゃあ、聞くが……俺たちと一緒にセトナも連れ帰るつもりか?」



「ああ、勿論ね。これだけの戦力を動かしたわけだし、君もわかっているとは思うがセトナを保護する事が、我々の最重要事項さ。彼女はホムンクルスだ。国の信用に関わるところもあるが、放置するのは単純に世界的危機に繋がりかねない。あの子に何かある前に手元に戻さなくてはならないんだよ」



「そうか」



 すでに何かあった事を、どうやらこのインテリなラキシスにしてもわかっていないらしい。俺はまずこの事実を引き出したかった。もし、完全コピー能力を持つセトナがチート能力者リファの傍にいると言うことのヤバさに気付いているか、或いは俺の言葉の裏を読んで俺達だけ連れて本国帰ろうと言い出したらちょっと面倒だったのだが、現状その意思は無いようなのでこれは好材料と言える。だから、俺はそれを生かすためもう少し口で踊らせる策を取ることにした。



 「なら、俺やクロノでアイツおびき寄せたりなんてことも出来るわな」



クロノが何言ってるのよ!? と怒ったが、舌戦中につきスルーします。



「なるほどね……確かにクロノを人質にすれば効果的かもしれない」



「じゃあ……」



「でも、それはノーだ。僕はマスターナイトだから、そんなことをしては面子が立たない。それに、そんな浅く卑怯な手は面白くないやり方さ……君も遊び言葉が好きだね」



流石は黒幕。今の俺のやりとりが大して意味のない事をすぐさまに理解した……もっとも、全く意味がない訳ではない。軽い死亡フラグ潰しではあるし、次の話への流れを作る橋渡しでもあるのだから。



「それなら良いぜ。俺も折角こんな高級ホテルに泊まったんだ。セトナが捕まるまでは快適ライフを堪能させてもらう……それくらいの猶予はくれるよな?」


「ああ、構わない。君はどうやらこっそり逃げるつもりは無いようだしね」


「無駄な事はしない主義なのさ」



「フフッ、いいよ。快適なこのホテルを暫く堪能してくれたまえ。時が来たら、またお迎えに参上するよ」


ラキシスは不気味なほど優しくそう言うと、俺たちに背を向け、部屋の外へ出ていった。クロノが制止しようと声を出したが、それは完全にスルーされたのだった。(もはや恒例になろうとしている……)




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