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イジメカッコ悪い

セトナはホムンクルスだった。しかし無能だとクロノは語る……



イジメは、イジメられたほうもイジメた方も傷つきます……本当に……(経験者談)




「無能って……ひでー言い方するな」



「私だって言いたくないの! でも、本当なんだからしょうがないじゃない!」



「おいおい、そのくらいで気を荒げるなって……」


 「皆の予想に反してあの子はホムンクルスなのに、運動、勉強、どれをやらせてもダメな子だった……特に魔法なんか、全く使うことができないんだよ? あの子、七大精霊にまったく干渉できないの。<コネクトパティション>を有してないの」



テラストラに生まれた人間は、皆生まれながらに七大精霊の加護を持っている。風、水、地、火、光、闇、理の何れの加護を強く持っているかはそれぞれ違うし、魔力も差があるが、基本的にこの干渉力があれば、魔法を使うことができる。その精霊と干渉、行使する力のことをこの世界では使役力或いはコネクトパティションと呼ばれる。そんな、テレビにボリューム調整機能がついているくらい当たり前の標準能力がセトナには無いというのか。



 「それは残念極まりないな。やはり、ホムンクルスってのは禁忌的存在……神からも精霊からも見放された存在なのかもな」



「いや、シェリルは魔法をちゃんと使えたらしいよ。早死にしちゃった他の<ゼトラの零子>だって、みんなコネクトパティションは持ってたって話だし。だからセトナだけなんだよ……ノーコネクターは」



「何か仲間外れみたいだな。可愛そうに」



「うん。あの子はいつもそうだった……仲間外れで、みんなから虐げられて……」



その時、クロノは両手を握り締めていた。柔らかそうな拳はぷるぷると震えている。



「ひどい目に遭ったわけか」



「何をやってもダメで人見知りの激しい子が、エリート学校に通ったらどうなるか……想像できない?」


「ま、高確立でイジメに会うな。子供ってのは大人以上に容赦無いとこあるし」



「セトナがホムンクルスであることは知らなかったけど、聖クリストファ学園の皆はあの子を異質な存在だと感じてた。それもあって、随分酷い迫害を受けたんだ……」



聖クリストファ学園は、沢山のエリート騎士や魔導く世界でも有数の超名門校だ。普通に入ることはまず不可能……学費がハンパないし、入学試験が超難しくてIQ300程度無いと合格出来ないらしい。そんなエリートばっかの集まりなんだから、入ったあともとんでもない英才教育と競争社会が待っていそうだし、人間関係もクソめんどくさいだろうから普通のヤツでもノイローゼになりそうだ。セトナはこの話からして試験等全部スルーして入ったんだろうが幸い中の大不幸である。



「聞いて言いのかわからんが、セトナはどんなことをされたんだ?」



「靴に画鋲を入れられたり、あの子の給食に虫を入れたり、蜂を食べさせたり、羽交い締めにされて腹を蹴られたり、使ってる文房具を踏み潰されたり机に死ねと書かれたり、臭いとか汚いとかバイ菌がうつるとか悪口言ったり罵られたり、汚れたバケツの水を頭からかけられたり、カツアゲされたり、服を隠されてた上スク水で授業受けさせられたり、川に投げ込まれたり、マットでぐるぐる巻きにされて密室監禁されたりとそれはもう酷い有様だったわ。そんなあの子についたあだ名は<泣き虫ドブネズミ>……」



「ひでぇ……絶対笑いに転嫁できないって言うか転嫁しちゃいけないイジメられようだな。エリート学生のくせに、やることが低俗極まりないぜ」



「……ほんと! 先生たちも頼りなかったし、私が同じクラスにいなかったらセトナは今頃どうなってたかわからないわよ!」



 クロノはよくぞ聞いてくれましたと言う何だか嬉しさを含んだような顔でこちらをギュッと見た。その綺麗な瞳から放たれる真っ直ぐすぎる視線に、俺の心臓は大きくドクンと跳ねた。このツンデレ、まっすぐないい目をしやがる……まるで金閣寺の作者並だわさすが純ツンデレ。



 「ん、じゃあお前はイジメには加担しなかったんだな」



「当り前でしょ! そー言う弱いものイジメは大っキライだからね!」



「そういう集団イジメってのは、逆らうと次は自分がイジメられるって心理が働くからなかなか止められないわけだが……お前はそれをやったわけだ。しかも、幼少時代にそれができるとは大したもんだぜ。その勇気は買うが、何かとばっちりとか受けなかったのか?」



「あのね、私はこれでも、名門ヴィンターハルト家の人間なのよ? 勉強も、運動もクラスでトップだったんだから! チョコざいな奴らが何をしてきても返り討ちにできるくらい強かったんだからね!」



「おー随分なテマミソだな。俺も人のこと言えないトコはあるけど」


「それに、セトナは私にとって大切な家族みたいなものなの。何が何でも守ってあげなきゃいけなかった……だけど、私が頑張っても、あの子を守りきることはできなかった。あの子をたくさん傷つけてしまった……もう少し初動が早ければ、私がもっとしっかりしてればって思うよ」



「うーん、そこはポジティブに考えないのか。俺的には、最善を尽くしたように見えるがな? それ以上の事なんて神様だってできるかどうかって感じだ」



「そう思うのは、あんたが苦労してない証拠よ。セトナは孤独だった……いつも一人ぼっちだっで苦しんでたんだ……無能で、弱虫で、人間じゃないって言う後ろめたさをただ自分の中に隠して生きてきたんだ……私だってそう。長いこと一緒にいたって、あの子の苦悩を十分に理解なんて出来てないと思うよ」



確かに、クロノの言い分もわからなくはない。俺は勇者として数々の際どい戦いや冒険をしてきた。それは決して楽なものでは無かったが、そういった苦労の中には必ず、仲間や数々の良き人々がいた。あのリザ子や風来坊だって俺を慕ってくれたのだ。小さい頃だってイジめられた事も無い。俺の周りは、みんな良い奴ばかりだった。母さんも父さんも色々問題はあるが尊敬できる人だ。周囲との関わり、良いえん、そう言ったものに関して俺はとても恵まれていたのだ。恵まれなかったセトナの気持ちがよくわかるなどと言うのは実におこがましい話だろう。



「俺が思ってる以上にあいつは辛かっんだろうな……」



「うん……あの子は本当に脆弱な、持たざる者だったからね」



「持たざるものか……ん……?」



その時、俺の中で引っ掛かるものがあった。ここまでガチトークになったら隠す意味はも無いので疑問に思った事を口に出す。



「けどよ、俺が見た限り、あいつが特に能力が低い、劣等生には見えなかったけどな? リファと俺を追っかけてる時だって、遅れをとる様子も無かったし、頭だってそんなに悪そうでもなかったぞ?」


「あの子はあの子なりにいろいろ努力したからね。でも、それはあくまでもほんの一部」



「ふーん、他に理由があるわけか」



 クロノは自分の正面にある大きな机付きの鏡を見て睨んだ。まるで自分自身を責めるように。



「あの子は落ちこぼれの劣等生……けど、1つだけ、1つだけ他に類を見ない能力ちからを持っているの」



「それは一体……?」



「その力は、こう名付けられた……<完全依存パーフェクト・ディペンド>って」

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