丁寧な状況説明(1)逃げる勇者の卵
バーのKYなマスターに促されて、主人公は読者のため丁寧に説明することに決めたようです。
果たして、その努力は報われるのか!?
俺の名は、アシュレイ=ハインカスタード。
剣と魔法のはびこる多種多様な生き物が住まう、至極オーソドックス(多分)なファンタジー世界「テラストラ」の勇者である。
勇者と言うのは、分かりやすく説明すると、世界の平和のために戦う類い稀なる資質や特殊な力を持った者である。幾多の魔王の侵略や、邪教団の野望、帝国の陰謀を先人の勇者達は打ち破ってきた。その英雄の中でも取り分けて有名なのが「勇者王」エルリードで、生きている間に18の魔王を撃退した事で名を馳せる。それが、自慢になるが、俺のご先祖様なのだ! どうだスゴいだろエッヘン!
そんなご先祖様から、俺の一族は、代々勇者として世界のために貢献してきた。俺の母さんであるエグセーダもそれに漏れない勇者で、現在世界を脅かす大魔王ダイムライガの軍勢と数々の死闘を重ねて多く功績を残し、そのさ中で(どうやって知り合ったかは知らないが)忍者だった父さんと恋に落ちて結婚し、俺を産んだのだ。ちなみに、一部で「麗勇者」と呼ばれている母さんはとても若作りであり、一緒にいると「かわいいお姉さんですね」とか「恋人ですか」などと親子と思われることのないベッヒンさんなのだ! エッヘン!
そんな、母さんから勇者の仕事を引き継いだのは大体3年前。大抵、勇者を引き継ぐ理由というのは、先代の勇者が魔王と戦い殉死或いは行方不明になったからとか、息子を庇って致命傷を受け「あとは頼んだぞ息子よ……俺の力をお前に託す……ぐふっ」みいな感じになるのが王道なのだが、うちの場合はそんなカッコいいものではない。
母さんがギックリ腰になった。
それだけの理由である。一族に伝わる重い聖剣を腰カバーもつけずに振り回していたところ、ギクッといってしまったらしい。もっとも華麗なる女勇者がギックリ腰で引退なんて恥ずかしいことこの上ないから、公には不治の病で剣を握れなくなったと言うことで通している。だから自宅でピンピンしていて、最近「ぶるんぶるんステキなみかん体操」にハマってるなんて誰も想像しやしないだろうな。
それはともかくとして、俺は勇者の仕事を継ぐと共に、母さんの引退の引き金になった聖剣を受け取り、所持者となった。
その聖剣の名は「ファールデクス」神が創りし灰色の両刃の大剣。
この剣を手に、俺は仲間とともに、魔王の手先や悪党を倒すため各地を渡り歩いてきた。忍者と勇者の血を引くサラブレッド(自称)である俺の、高い身体能力と魔力も相まって戦果はめざましく、魔王直属の配下「12災将」をすべて倒し、世界の殆どを魔王の支配から解き放った。まさに獅子奮迅……ぶっちゃけ、母さんより活躍したと言っても過言ではないエッヘン!
しかし、ここまで魔王を追い詰めても、俺にはまだ魔王を倒すには到底及ばない。なぜなら、聖剣が真の力を解放できていないからだ。覚醒した聖剣でなければ、今の魔王の強靱な防護壁を破る事が出来ないと、世界最高峰の賢者マーレガット様は言った。この何百年も生きている老人の言葉はいつも的を射ていて、実際母さんは魔王に傷1つ与えられず敗走した苦い過去を持っている。
だから、俺は聖剣の真の力を目覚めさせるため、仲間と別れて単身である場所に向かった。
そこでの出会いが、まさかこんな大変なことになろうとは……この時の俺は、まだ知る由もないのであった。
いや、あの賢者様すら予想していなかったかもしれない……




