殆ど自己紹介で5千文字近くになってもうた
勇者君は女の子のウハウハゾーンにやってきました……って結局そうなるのかい! リア充ぶりがなんかシャクでなりません(by筆者)
「ようこそアシュ君! 歓迎しまくりだよっ!」
気絶したフリ(しばらく)を終えた俺は、豪華なシャンデリアの付いた来客用っぽい部屋に案内された。ふかふかのいい匂いがするソファーに沈むように座っていると、セトナは自らコーヒーを入れて持ってきてくれた。
「悪いな」
「なーに、お疲れなんじゃないかと思ってね。眠気も吹き飛ぶ激濃厚ブラックをお持ちいたしました!」
「……ふむ」
俺は黒色の液体を淡白な表情で啜る。そして、その淡白な表情のままセトナをじーっと見た。
「あれ、なんか反応薄いねぇ。お姉ちゃんが飲んだらしばらく胸のあたりがムカムカしちゃうんだけど」
「悪いが、これより強力なヤツをリザードマンに飲まされたことがあるんでな」
「へーっ、ちょっと飲んでみたいかも。銘柄教えてよ」
「やだ」
「そんなどーっでもいいことはほっといて……お前達、こんなデカくて凸凹な街でよく暮らせるもんだよな。どー考えても不便じゃないか? バリアフリーのかけらもないじゃんよ税率低くても住みたくないね」
「ま、此処にはそれ以上の価値があるって事よ」
「ふーん」
檜かなにかで造られた歪な形の机に置かれた、白の下地に鮮やかな鳥の模様が描かれた高級感漂う陶器のカップを手に取り、ツツツと泡の多いコーヒーを啜る。何だかカフェラテみたいだが、とりあえずリザードマンの入れてくれた奴より7.5倍旨い。ただ、俺の周りに囲うように座っている女の子の達の視線が一斉に俺に注がれているのが大分気まずいので実際の美味しさは2割減という感じである。
「あー、セトナ。そろそろ素性を教えてくれないか? まだお前らが何なのかよくわからんしな」
「うん、わかったよ。みんな揃ってるし丁度いいタイミングだね!」
セトナは、コホンと小さく咳をして皆を見回すと、自信満々に話しだした。
「えー、私達〈ヤンデ連盟〉は、その名の通り究極のヤンデレを目指す者達が集まったギルドでございまーす!」
「んんん? ヤンデレが集まったんじゃなくてヤンデレをこれから目指すのかよ……つまり、まだヤンデレじゃないってわけか?」
「まーね。まだ駆け出しだから、ホントこれからだよ。一人前のヤンデレになるために頑張るんだ!」
「ヤンデレって、目指してなるものじゃないと思うんだがなあ……」
「いやいや、アシュ君。なりたいって気持ちがあれば可能性は常にあるものなんだよ? あきらめなければ、夢はきっと叶うはず! 継続は力なりっ!!」
それだけの熱意があるなら、もっと他のものを目指せばいいのにビバ才能の無駄遣い! と思ったが、そこまでツッコむのは下衆な気がしたので、口には出さなかった。
「うん、まあ、ギルドについては大体わかった気がするぜ」
「よしよし、おりこーさんおりこーさん! 頭なでなげしたげる」
難しいところはなかったから、誰でもわかりそうな気がはしたが、せっかくなのでとりあえずセトナに頭を撫でてもらった。女の子の柔らかくて温かい手が気持ちいいぜゲヘヘへ!
「じゃあ、次は自己紹介たね! ……まずはリーダーのお姉ちゃんから行きます!」
セトナはみんなが見える位置に移動して仕切りなおしてから、手を胸に当てて話しはじめる。
「あたしはセトナ! ギルド〈ヤンデ連盟〉のリーダーにして、アシュレイのお姉ちゃんでーっす!」
「まっ、非公式だがな……」
「姉汁プシャー!」
「おいこら! それをお前がやると、ゆるキャラと違った意味合いになってなんか卑猥だっての!」
「あー、お姉ちゃん汁の出どころ考えちゃったんだ〜アシュ君ってシスコンなんだね〜エヘヘ〜」
「だから、お前は非公式だって言ってるだろうに……もーいい、次の方お願いします!」
話を他に古と金髪をボンボンでまとめた小型貧乳少女が手を挙げた。幼さ残る瞳は橙色でなんかキラキラしている。服装は花びらみたいなパーツがいっぱいついるヒラヒラした服で、スカートはパニエか何かで盛り上げていてフワフワしている。さしずめ、どきどき魔法少女と言ったところだ。
「でわ、はたしがいきます! はたしわ、アータンって言いまス! ヨロチクです!」
「ああ。しかし、語尾のイントネーション変だよな。他も色々おかしいし」
「昔からなのでサ」
「ま、顔との違和感はあんまないし、ウザい声質じゃないから許せるけどな。不思議系週末アイドルでも目指せば良い線行けるかもしれんぞ」
「アイドルですカ〜ヤンデレアイドルも面白そうでつぬ! アータンは燃えてきたでス!」
「それはよかった……ところで、アーたんって自称してるけど。本名は何て言うんだ?」
「アータンは本名でツ!」
「あ、そうなのか。すまねえすまねえ。よろしくな、アーたん!」
「ラジャでツ! ヨロシコ!」
「よし。じゃあ次は……そこのムスッしてる奴」
そいつは、俺が話を振っても無視して、眉を潜めて足を組みふんぞり返っている。めっちゃ量の多い黒髪をリボンで4つに束ねた四連のポーニーテール……ダブルツインテ或いはフォーステールとでも呼ぶべきか。その下には、髪型によく似合った目鼻立ちの整った、柔らかそうなほっぺたを持った清楚なお嬢様って感じの顔がある。衣服は白いシャツに髪の色とよく似た黒いサスペンダー式のミニスカートを重ねている、ウエストはすらりと細いのに、胸と脚部はそれに比例せず、履いている黒ニーソはむっちりと盛り上がり、ぷにぷに素肌にびたと食い込んで絶対領域がモーレツにたまらないことになっている。こいつを食べ物でたとえるなら、そう……チョコマシュマロといったところだろう。実に、美味そうだ……久しぶりに、俺はすっごくムラムラしてしまった。
「……ちょっと! あんた何さっきから人の体を上から舐め回すようにジロジロ見て鼻の下伸ばしてんのよ!? このド変態猥褻セクハラエロ男が!!」
俺のサーチ視線に気付いた黒髪ダブルツインテは、こちらを睨み言葉で噛み付いてきた。しかし、俺は様々な経験を積んできた勇者なのでこの程度では動揺したりしない。むしろ、軽々しい言葉でいなす余裕すらあるのだ。
「でへへー悪い悪い。お前が、あんまりスイーティだから見とれちまったよ」
「はあっ!? 馬っ鹿じゃないの!? サイッテー! セトナ〜あんたなんでこんなクソキモダサ男子を連れてきたのよ!?」
不機嫌な彼女のピリピリの矛先が向いても、セトナは口笛を吹くような顔をして、なんのことやらという素振りをした。
「まーまー、この子は我が〈ヤンデ連盟〉の為にきっと役立ってくれんだから許してやってよ」
「いやよ! 私はこんな下品なヤツ受け入れないんだからね! さっさと追い出しちゃいなさいよ!!」
「ごめんねーアシュ君。この子はクロノって言うの。愛想無くいけどホントは良い子なんだ、ホントに、ホントだよ〜」
「へえ……」
「ホントにホントなんだってば〜ホントホント〜」
セトナの必死(?)のフォローを背に、俺はジーッと再びフォーステイルを見た。
「もう! セトナったら……勝手に名前を教えないでよね!? 」
「おいクロノとやら……1つ言ってもいいか?」
「ふん! 何よ、変態男に名前を呼ばれる筋合いなんて無いんですけど……」
「お前、ツンデレだろ」
「は、はにゃあっ!?」
クロノは、そう可愛いぬこ声を出すと顔を真っ赤にした。実にわかりやすい。
「い、いきなり何を言うのよ! 私は……」
「図星だな。んで、更に大変申し訳無いことを言わせてもらうが、お前はヤンデレには絶対になれん。諦めろ」
「なな、なんですってーーーー!? り、理由を教えなさいよっ!?」
「お前が真性のツンデレだからだよ。ただのツンデレジじゃなくて純度百パーの混じりっ気なし……」
「かーっ!! クソ下野郎のくせに図々しくも人を勝手に決め付けて! 見てなさいよ! 私だってヤンデレになれるんだからね!!」
「だから、そーいうトコが純ツンデレのツンデリオンなんだよ。適当なツンデレならツンヤンデレになったりもするだろうけど、混じりっ気無しの3/3の純情な感情が空回りするお前には無理。試合終了です。さっさとあきらめろ」
「くーーっ! 言わせておけばこのバカバカバカバカバカバカあ!!」
俺ポコポコしようと動き出したやんちゃ猫みたいなクロノを、紫の髪を後ろで1つに纏めた眼鏡っ子が制止する。
「ごめんなさいね、こんなわかりやすい子で」
「いえいえ、ツンデレなのがわかってるんで気になりませんよ……君は?」
「自分はエディアと申します。以後お見知りおきを」
知的な落ち着いた喋り方をする俺よりも少し背の高い彼女だが、その格好はと言うと、ヘソ出しでパレオみたいなミニスカ、頭にはサンバイザーとまるでF1とかのレースクイーンのようだ。胸もJカップはありそうなほどでっかくて、この面子の中では特に大人の色気を感じさせる。しかし、顔はまだ幼さが残っていてそのギャップが眉唾モノだ。こちらを流し目で見る仕草も色っぽい。
「あなたはなかなか良識がありそうですね〜」
「フフッ、どうかしらね? セトナがどういうつもりで連れてきたかは知りませんが、まあゆっくりしていってください」
そう言って、エディアはニコりと微笑んだ……他の、俺奴らにも見習ってほしいものだ。特に、そこにいるツンデレ黒猫さんには。
「いえいえ、そんなご丁寧にエヘヘヘ……で、では、最後の一人はと……」
「……」
イヤホンみたいなものを付けたピンク色の美しいロングヘアーの幼なじみヒロイン顔の少女は、何も語らずどこか遠いところをじーっと見ている、ツンデレのクロノみたいに怒っているわけではなく、全くの無反応ってやつだ。このてのクールさんを見るとジェリアを思い出す。あいつもホント口数が少ないからな……しかしジュリアとの大きな違いは、見た目はメインヒロインとして成り立つ清廉された身なりだろう。例えるなら、春半ば静かに咲き誇る一輪の花のような栄える美しさが彼女にはある……とりあえず、根気強く語りかけてみるとしよう。
「……君、名前は?」
「……モルドレッド」
「ふーん、意外な名前だな」
「コルサコフの橙色」
「へ?」
「サマナの井戸に投げ入れるは宵闇の衣かそれとも銀色の蛙か」
「あの、ええと……」
「サイワップレス」
「まー、しょのー」
「逆さの原理こそ神の試練」
ヤバイ、こいつ会話成立しない系じゃん! と、俺が戸惑っていると、見兼ねたセトナがフォローに入ってきた。
「この子はいつもこうなのよ。ま、どーこー文句言う子じゃないから仲良くしてあげてね!」
「ああ……」
「ちなみに、名前はモルドレッドじゃなくてフィーンセルトって言うの。通称兼愛称はフィーちゃんだよ!」
「ふむふむ、長い名前だから略すわけか……んじゃ、よろしくな! フィーちゃん!」
ピンクの子はこちらをちらっと見たあと、すぐ下を向いて「ハレクラニ」と呟いた。わけわからん滅裂ちゃんだが、とりあえずは反応しただけ良しとしよう……ひとまずこれで、一通り自己紹介が終わったので、俺はセトナに視線を向ける。
「なるほどな、随分と個性派揃いじゃないか。丁度5人だし確かにヤンデレンジャーって選択肢も無くはなかったな」
「でしょ? まあ、今更変える気はないけどね……さて、それじゃあいよいよアシュ君の番だね」
「そうだな。そっちがそこまで明かしたんなら俺も答えなきゃならない。遠慮なく話してやるよ。俺が何者なのか……ここに来るまでに何があったのか……そして、アイツが何なのかをな!」
「うん、じっくり、聞かせてもらうからね!」
クロノとフィーちゃん以外の3人は興味津々、好奇心に満ちあふれたような顔で俺の方を見た。それに答えるように、俺はシリアスな顔で口を開いた。
俺の話のはじめの方は先の内容とと被るので大半割愛するが、それ以外の語られていない部分は読者様にもきっちり説明するのが親切というものだ。魔王が死んだ後、俺がワープゲートにドボンした後のことをこの機会に話すことにしよう……




