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遺言〜拝啓十五の君へ〜

拝啓この手紙、読んでいるあなたに、伝えたい事があるのです……



魔王があっさり倒されました!


「魔王様!」



風来坊が声を上げるが、魔王は起き上がらないどころか、ピクリともしない。よくある一度倒すとパワーアップとかしないんだろうか?



「魔王様!!」



返事がない、どうやら屍のようだ。パワーアップはしないらしい。あるいはパワーアップ前に全生命力を奪いさってしまったのかもしれない。



「ォォォォ……」



「魔王様!?」



空気が抜ける様な音がすると、魔王の体は崩れて、黒い灰になっていった。そして、それは舞い上がり一ヶ所に集まると、リファに向かってゆく!



「えっ!?」


リファの体は黒い灰に包まれた。そして、そこから魔王の声が放たれる。



「エルドレット、そして勇者の小僧!」



「な、なんだ?」



「今すぐここから逃げるのだ! 玉座の後ろのスイッチを押せば、ワープゲートにつながる部屋に行くことができる!」



「あんた……」やっぱり隠し通路があるわけね。



「我の肉体は残念ながら死んだ! もはやこれ以上生きる事は叶わぬが、この魔王ダイムライガただでは死なぬ! 最後の残留思念と呪怨を振り絞りこの者の足を止めてやる!」



「魔王様!」



「行け! 早く外の者にこの事を伝えるのだ!この小娘は、魔王の力を持ってしても道連れにすらできぬ至極危険な世界的脅威だとな!!」



魔王が言うセリフ&行動じゃない気がするんだが……と、俺は思ったが、どうやら敵味方関係なくなるまでにリファはヤバい存在らしい。



「魔王様! どうしてあなたがそこまで!?」



「話している暇はない! 最後の命令だ! 我の死を無駄にするな!!」



「はっ! 承知しました!」



「冥土にいるシェリルに、先に謝りに行っているからな! 後は頼んだぞ!!」



やっぱ、魔王の言うセリフじゃない気がするんですけど……それはともかくとして、それを聞いてすぐに風来坊は玉座のスイッチを探し、すぐに見つけ出しててポチッと押した。すると、部屋の後方の壁の一部がズシンと音を立てて沈み、穴が開く。



「行くぞ、アシュレイ!」



「ああ、わかってるさ!」



 「頼んだぞ……」



魔王の重い遺言を背に俺はその隠し通路へ向けて走りだした。再び体を小さくした風来坊を肩に乗せ一直線の道をひたすら走る。その間も、魔王の邪気がどんどん弱くなっていくのが感じ取れた。俺は思う。



 敵味方顧みなかった〈紅の魔王〉……きっと何か大変な事に気付いたに違いない……それが具体的なものかは解らないが、少なくともあの無敵のバリアをいとも簡単に切り払ったアマテラス何とかと爆滅崩壊はただの女の子が使えるシロモノじゃない。リファにはまだ隠されたとんでもない秘密が沢山あるに違いない。



 通路が終点を迎えた時、目の前に現れたのは大理石で覆われた魔王の城らしからぬ美しい部屋。その中心には正四角形の小さなお風呂……もとい泉があった。初めて見るが、間違いなくワープゲートだ。どういう原理かは解らないが泉の中はグルグルと渦を巻いている。



「ふうん、いかにもって感じだな」



「さあ、さっさとドブンと飛び込むがいい」



いや、ワープするの初体験なんで緊張するっス……と、言おうとした俺の横で、風来坊はいつの間にか元の大きさになってに立っていた。



「悪いが、この風来坊はここに残ることにする」



「えっ!? 何いってるんだよ! リファが来たら死ぬかもしれないぞ!? 先に飛び込んじゃえって!」



「やはり、私は此処に残らねばいかぬ……魔王様と最期を供にするのが忠臣であった者の役目なのだ。それに、此処には大切なものが眠っている」



「風来坊……」



「行くんだ、アシュレイ。名前をくれた我が友よ……お前が魔王様の無念を晴らしてくれ。憎しみと悲しみを止めるために今は逃げ延びろ」





鳥人間は優しく微笑んだ。変えられなかった死亡フラグを受け入れるその覚悟を見て、流石の俺も涙がチョチョギレそうになった……ただ、仲間の無念を晴らすべき存在である魔王の無念を晴らしてくれって頼まれたのには何かモーレツに違和感があるんですけど……



「ああ、ありがとよ……ホントに感謝してるぜ風来坊。お前のおかげで今の俺の命はあるんだからな」



「恩を感じる必要は無いぞ、相棒。短い間だったがこちらにとってもいい思い出になったのだから」



「……こっちもお前の事は忘れねぇつもりだ。けど、死ぬなよ!? やっぱり、また生きて再開したいからな!!」



「ああ」


俺は鼻水をズズッとすすりながら、迷わず泉に飛び込む。冷たい水の中に入ったとたんに目の前が虹色に輝きグニャグニャと視界が歪みだした。そして、何か強い眠気のようなものに襲われる。



「シェリル……魔王様、今お側へ参ります……」



薄れゆく意識の中で、微かに風来坊の言葉が聞こえたような気がした……





 魔王島での危機を、こうして俺は乗り越えたのだった。一切俺が手を下す事無く、悪の中枢にして最大の敵である魔王は倒れた。沢山の無念の死を遂げた者の仇は討たれた…………しかし、これだけで世界に真の平和が訪れる事はどうやら無さそうだ……そして、俺の逃走劇はまだ続くのである。




あ、ところで、そういえば、俺はどこにワープするスかね……行き先聞いて無かったよ……アププププ……

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