ストーカーには前向きに
クソ強い魔物から逃げられたかと思ったら前からヤンデレキター(´Д`)
ああ、この状況写真付きでツィートしたい……
「みぃつけた」
「お前……」
「生きてるって思ってたよ」
リファは俺を見てケラケラ笑う。その目は深遠なる闇……この島の如何なるモンスターよりも恐ろしいにちがいない。
「こんな最果てまでどうやって来たんだ?」
「……?」
首を傾けて、何の話ですか的に俺の質問をスルーするリファ。さすが「ヤンデレたるもの都合の悪い事には聞く耳持たず」だ。目がギョロっとして見た目的にかなりホラーな上、おぞましいオーラを放っているから、並の男の子ならビビってしまうだろう……いや、へたすれば死線だけで殺されかねない。とにかく、俺みたいに比較的フラットに、どこか楽観的に、淡白に状況を飲み込めなければああいう狂気的な奴に飲みこまれてしまうに違いないわけで、勇者としての経験やリザ子みたいな別の意味でクソヤバい奴に会った経験も少なからず俺のメンタルの耐性及び臨機応変性に貢献していると言えよう。
「悪いが、ここで心臓をやるつもりはないぜ」
「いくら逃げても無駄だよ……どこまでも、どこまでも、ずっと追い続けるから。アッシュが私のものになるまででずっとずっと」
「話、噛み合ってねーな。ま、お前の超絶ストーカーぶりはよーくわかったよ……ところで、ここが何処だかわかってるのか?」
「ふわ?」
意表をつく発言をすると、リファは表の人格に戻る。どっちが本性なのかわからなくなりそうだが、とりあえずわかっていないらしい。急に辺りをキョロキョロする子猫みたいな姿は、以前の可愛いリファそのものだ。
「ここ、どこなの?」
「ここはな、アンサルカルゴン島だよ」
「えと……えと……プリペリフハニョノメとう?」
「いや、違う。一文字も合ってないどころかイントネーションにすら共通点無いんだけど……どう聞いたらそうなるんだよ?」
「ご、ごめんアッシュ……」
素直に謝るリファ。こいつ、都合が悪い事はスルーするくせに、なぜかこういう肩透しな事には反応するん。こんなふうになったら油断してしまう奴もいそうが、それは流石にノーだ。ヤンデレはまるで宝箱や壺に化けて人を食らうミミックのように、密かに牙を磨ぎ伺ってでいるから甘く見てはいけない。だから、俺は更に追撃のダミーワードを放って出方を伺うのだ。言葉という手段は時に能力差や圧倒的に不利な状況ををはねのける効果をもたらす魔法的な力を持つ事もある。話が通じさえすればではあるが、たといチートでも例外ではなく効果を出すことは出来るのだ。
「じゃあ、聖剣を返してくれないかな? そうしたら許してやるよ」
「えっ?」
一見すれば、あまりにも唐突な発言だ。火に油を注ぐような、眠れる獅子を叩き起こすような愚かさ安易さ……だが、それ故に予測から外れる。こうやって意表を突き相手のペースにさせず、臆す事無く表向きだけでも優位性を保つのだ!
「やだよ」
「じゃあ、俺はお前の事許さねえからな!」
「そんな……!?」
こちらが心理的優勢ならば無茶な逆ギレするのも効果的だ。勿論、これだけでリファに勝つつもりは無い。あくまでも危機を回避するための処世術である。如何にしてスキ無く逃げられるか、そしてこれからどうするかを考える時間を作れるかがここでは重要だった。その、逃げるための下準備は、この時点で整った。この牽制会話の中に俺の勇者脳は今後どうするかの結論を閃いたのだった。
俺はリファから敢えて目を逸らし天を仰ぐ。
「返してくれないんなら、お前なんぞにこれ以上構ってる暇は無え。俺はもう行くぜ……なあ、風来坊!!」
「何だ? 相棒!」
「魔王の城に、俺を案内してくれ!」
「覚悟を決めたか!」
「ああ! そういうことだ!」
「それなら任せておけ!」
そして鳥人間が飛行移動を始めると、再び覚悟を決めたかのように目を鋭くして、リファの方を向いた。
「アッシュ……」
「じゃあな……もし、どうしても俺を殺したいのなら、お前も魔王城に来い。そこで、始末をつけようじゃないか」
「……!!」
「いまさら、恐いなんて言うんじゃねえぞ! 勇者のハートが欲しいのなら、覚悟を決めやがれ!」
うわ、なんかカッコいいこと言っちゃったかも!てな気持ちを隠しつつ、無言の少女が呆然と動かないのを確認して、俺は鳥人間が飛んでいくほうに走りだした。
俺の舌戦は見事成功した。しかし、危機的状況は終わったわけではない。ここからがまさに正念場なのだから……




