サンキューベリー魔っ地
魔王の住むアンサンなんたら島に流れ着いた勇者アシュレイ。脱出するため、鳥人間「風来坊」とともに危険地帯の探索を開始する……
アンサンカルゴン島は世界の北端。地球で言えば北極に位置するのだが、気候自体はそこまで過酷ではない。今は雷神の月……真夏なのもあるが、雪なども積もっておらず寒いどころかむしろ暖かいくらいだ。これは魔王の超魔力によるものか、或いはかつてこの地で勇者カーキテスが命懸けで放った禁呪「バーニング・エスクリプス」によるものなのだろう。とりあえず、外を出歩けないような状況でないのは不幸中の幸いである。
「まあ、少しづつ探ろうや相棒」
風来坊はクチバシをワシワシしながら喋る。不便な形をした口だが、それを感じさせない饒舌さには感心させられる。
「そうだな、まずは島がどんなふうになっているかを知らないとな」
「そこは任せておけ。百年以上ここにいるから、どこに何があるのか大体は周知している」
「それは頼もしいな。んで、最初はどこを目指すと良いわけだ?」
「やはり、この島一の名所である魔王城かな」
「いや、ラスボスの本拠地を観光スポットみたいに言うなよな……そして、なぜそこまで推すかな? 魔王城推しとか頭おかしいっすbyワタベ」
「まあ、虎穴に入らずんば虎子を得ずという奴だ。リスクは高いが、反面この島から脱出するよい方法が眠っているのさ」
「なぜそう断言できる?」
「これでもな、ワシは昔、魔王の部下だったのだよ」
「なにっ!?」
「クワクワ、警戒せんでよい。もう過去の話だ。あの御方とは、もう関係も無い。人を敵視することも今はもうやめて隠居の身よ……」
「ふーん、何か理由がありそうだな。魔王と喧嘩でもしたのか?」
「いんや、ワシがあの御方を一方的に裏切ってしまったのさ」
「それは……すごく気になります。わたし、とても気になります」
「残念だが、不思議ときめき奥飛騨女子高生みたいに言ってもだめだぞ」
「それは残念でございますわね」
「すまんな。どこぞの奥飛騨寒村好奇心旺盛少女みたいに言われてもこればかりは答えられんのよ。だがそのかわり、魔王の内部についてはよく心得ているから色々と教えてやる」
「うーん、ノーカミングアウトからの魔王城リスペクトか。確かに虎穴に入るのは1つの手だとは思うんだが、やっぱ直ぐに決めるのは無理かな……」
俺はふと優柔不断な態度をとってしまった。勇者は多くの危機的状況に直面するため、どんなときでも平静を保つ心と高い決断能力が大切だ。今の俺にはそれが欠けていた。そのスキにより、気が付けば俺のすぐ後ろに殺気がにじりよっていたのだ! それに気付いて慌てて振り向くと、そこには頭に巨大な角を持つ黒くてめっちゃ硬そうな甲羅で全身を包んだ強そうな魔物が、ダラダラと涎を垂らして今にも俺に襲い掛かろうとしていたではないか!
「グルルルルゥ……」
「な、何だこいつは!?」
こいつは 「ブラッドホーン」だ……と、すぐさま風来坊が教えてくれた。この島では比較的弱いほうの魔物らしいが、それでも魔王島自体が推奨レベルが大体60だから、レベル40に満たない上に武器もいつの間にか紛失、おまけな仲間が死亡フラグ付き鳥人間しかいない俺は迷わず逃げる事を選択する。すぐに、魔物に背を向けて、アテもなく走りだした。
ドドドドドドドドドド!
轟音&土煙をあげて追ってくるサイッぽい魔物をたまに振り返りつつ、俺は逃げる逃げる。その頭上から風来坊は飛びながら俺に声をかけてきた。
「あまり真っすぐ走るな! 突進されるかもしれん! 左右に振るんだ!」
「わかったぜ! この程度の事で死んでたまるかってんだ!」
言われたようにジグザグ走行をしながら向こうに見える森林地帯を目指す。視力2.5の俺には、その行く手を遮るように大きな金色の岩が100メートルくらい先に転がってるのがわかった……いや、岩じゃない、なんか動いたぞあれゴーレムじゃん! しかもあれは多分体が純金製で倒して破片を売れば定年退職後も安泰ってくらいガッポリ儲けられるという有名なレアモンスター「ゴールデンゴーレム」だが、あいにく金に困ってない上に逃げるしかない俺にとってはただの邪魔な障害物にすぎません! 残念!
「ちっ、前からも後ろからも面倒くせえ!!」
挟み撃ちになったが幸いにもゴーレム系の魔物ってのは総じて足が遅くデカすぎるので、俺は速度を下げたり迂回する事なく立ち上がった事で生じた高さ3メータはあろう大きな股の下をくぐり、難なく突破する!
「そんなんじゃ疾風の勇者様は止められねーぞ!」
「クワクワ! 油断するな、次がある!」
股のトンネルをくぐった先にはボッテリ太った体に棍棒を持つ一つ目の黒い大男がいた! サイクロプスの上位的存在だろう。
「グロロロロ!」
叫び、混紡を持ち上げながらサイクロプスは俺に突進してきた! 普通の人間なら怖くて立ち止まるだろうが、そこは俺も勇者の端くれだ。あえてサイクロプスの胸元に飛び込む!!
「ガードがガラ空きだっ!」
棍棒が振り落とされた時には、俺はヤツの背中の先にいた! 風を斬る音が、俺の耳に残響する……読者の皆さんわかりましたでしょうか? そうです「疾風の勇者」の俺はピンチになればレベル70並の敏捷性を発揮できちゃうんです! ぶっちゃけ金メダリストのカールさんよりやトムソンガゼルよりも足が速いんだぞエッヘン!
「やるな、お前さん!」
「見たか風来坊! 俺はこれでも…………ぬがっ!?」
しかし、そんだけ自慢しておきながら、俺はそのあとキキーと立ち止まってしまった。
なぜなら、そこには、目の前にはあのチートヤンデレなリファが立っていたからである。




