1/68
プロローグ〜南へ奔れ〜
「さあ、早く、人柱になってくださいっ!」
後方から聞きなれた声がする。しかし、俺はそれに反応して振り向いたりはしない。今はただ、走り続けるのみだ。
「早くあなたの紅き血でこの剣の渇きを潤し覚醒させるのです! さあ、足を止めて!」
南。
俺は南に向かっている。南に向かってひたすらに逃げているのだ。勇者になりきれない男に、今はその選択肢しかなかった。
もし、他の選択をしようものなら、後ろにいるあいつに、間違いなくブッ殺されるであろう。そう、あの右手に携えた灰色の大剣でバッサリと……だ。
とにかく、俺は南に向うしかない。己の抜群の方向感覚を信じて……




