一頁 発見
「美羽、お風呂あいたよ!」
急に後ろからヘッドホンを取られて、声をかけられたことに驚く。
「うわっ!?ちょっと、いきなり声かけないでよお姉ちゃん」
「お風呂あいたら声かけるって言ったのに音楽なんて聞いてるあんたのほうが悪いんでしょ」
姉の美香はそう言って美羽から取り上げたヘッドホンを返しつつ、呆れて返事をする。
「そうだけど…。肩を叩くとか、もう少しやり方があるでしょう。もうまったく…」
「いいから早く、お風呂に入っちゃいなよ。今兄貴がお母さんに怒られてるんだから、あんたがまだ入ってないってことが知れたらとばっちりが飛んでくるかもよ」
兄が怒られているということに驚きつつも美香に美羽は問う。
「お兄ちゃんが怒られてるのって、ずいぶん久しぶりのことじゃない?」
「知らないよ、そんなの。いいからお風呂行きなって」
兄のことになった途端、どうでもよさそうな顔で美香はそう言いながら、部屋の真ん中にかかっているカーテンをめくって向こう側へと消えてしまう。
一階に降りて、風呂への途中でリビングの扉の前を通ると、確かに誰かが怒られているのか女性の大きな声とぼそぼそとしゃべる男の声がした。
「だから!だれに、あげてきたのって聞いてるでしょ!どうして教えてくれないの!」
「……だって」
「だってじゃないの!!」
そんな声を聴きながら美羽は扉の前を通り過ぎる。
(お兄ちゃんがなんかを誰かにあげたのかな?でもそんなことでこんなにママも怒るのかなぁ)
そう思いつつもあの兄のことだからと仕方なく思い、自分にあの雷が向いたら面倒だなぁとも考え風呂に向かうのだった。
(あんな風にお兄ちゃんが怒られてるのって本当にいつ振りだっけか?)
お湯に浸かりながら美羽は考える。
美羽は兄とはあんまりしゃべることはなく、双子の姉である美香と一緒に微妙な距離を置いた生活がいつからか続いている。それは兄である幸雄が美羽や美香と違い母親である千絵によく怒られていたからである。母親の言うことをよく聞き、怒られることは多少はあれども基本的にほめられてのびのびと育てられた姉妹たちとは違い、兄はいつも母親に怒られていて、子供心に兄は悪い子なんだと姉妹は思ってしまった。
(そういえばいっつもお兄ちゃんが怒られてるときって何かをあげるとかそんな内容だったような…)
先ほどの千絵の大きな声を思い出しつつ、そんなことをふと思い出す美羽。
(まぁ、確かにお兄ちゃん私たちに自分も好きなのに私たちが好きなおかずとかくれるときあるし、物を人にあげやすいというかなんというか…、優しいっていうのかなぁ)
「美羽~、いつまで入ってるの~。お母さんも入りたいから早く出てね~」
「あ、うん、わかった!もう出るよ~」
兄への怒りはどこへやら、説教の終わったらしい千絵はそう言って脱衣所から出ていく。
(ふう、早いうちにお風呂入っといてよかった~)
お湯から出つつ美羽は姉の言うとおりにしておいてよかったとほっとする。
「ママ、お風呂あいたよ~」
脱衣所で着替えリビングにいる千絵へと報告をしに行く美羽はリビングへの扉を開けた。
「ん、わかった」
千絵はソファに座りながらテレビを観ていた。あまりテレビを観てるところを見たことがない美羽は千絵がテレビを観ていること自体に驚いた。千絵が観ているのはアイドルが出るような音楽番組らしいのが美羽の驚きをさらに強くした。
「ママ、何観てるの?テレビ観るなんて珍しいね」
「たまには私だって観るわよ。さて、じゃあお風呂入ってくるわね。あんたも夜更かししないで早く寝なさいよ」
「は~い」
何の番組を観ているのか確認するまえにテレビを消されてしまったが、千絵の言う通りテレビを観ているだけでそのことを追及するのもおかしいかと思い、美羽は自分の部屋へと戻っていく。
「ん?」
二階へと上がり、兄の部屋の前を通る時に何か自分の足に当たったのを感じる美羽。足元を見てみると一冊のノートがあるのだというのがわかった。
(なんだって、こんなところに?)
そう思い、ノートを拾って表紙を見てみるが何も書かれていない。もしかすると美香のものかもしれないと考えた美羽はそれを持って自分の部屋へと戻っていく。
のんびり書いていくつもりなんで、もし読んでくれる人がいましたら気長に待って欲しいです