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シルヴィオという男

 シルヴィオは漁師だった。


 この港町で、一番大きな船を持っていたのも彼だった。船の名前は『アンナマリア号』という名前で、ティートの父親は乗組員の一人だったという。


 シルヴィオは乗組員皆に慕われていたが、海の男らしい豪快なその性格は町の人々にも慕われ、尊敬されていた。大きな船で港町を出港し、いつも大量の魚を捕って帰ってくる。シルヴィオの船が帰ってくると港はいつもお祭り騒ぎで、彼らの凱旋を喜んだ。




 そんなある日のことだった。


 いつものように快晴の空のもとにたくさんの船が漁に出ていく港であったが、午後になると急に雲行きが怪しくなり始めた。港には続々と船が引き返してくるが、アンナマリア号だけが帰ってこなかった。


 港では町の人々が心配して夜まで待ったが、しだいに風が強く吹き始め、ついには嵐となった。アンナマリア号を心配しながらも、人々は嵐が過ぎ去るのを待った。


 翌朝、嵐はすっかり過ぎ去り、海は水平線の向こうまで雲ひとつなく晴れ渡っていた。港には、いまだ帰ってこないアンナマリア号の乗組員とシルヴィオを心配して多くの人々が集まっていた。


 するとポツンと、水平線上に影が見えた。その影は、港へ向かってゆっくりと進んでくる。人々はアンナマリア号だ、シルヴィオ達が帰って来たと歓喜しあった。


 しかし、港に近づくにつれ人々の歓喜の叫びは絶句へと変わりつつあった。しだいに見えてきたその船影は、皆が見慣れたアンナマリア号ではなかった。あれほどの雄大さを誇っていた、我らが町のアンナマリア号は無残にも一隻の襤褸船として戻って来たのであった。


 港に流れ着くように到着したアンナマリア号を固唾を飲んで見守っていた人々だったが、誰も船を降りてこない。しびれを切らした者たちが、我先にと船に乗り込んでいった。


 船上に人影はなく、ひっそりと静まりかえっていた。


 誰かいないか。


 いるはずの乗組員に呼びかけながら船内を捜索すると、食料庫の片隅に数人の男を発見した。皆衰弱しきっていたが、息はあった。その中の一人はティートの父親であった。


 生き残った男達はすぐさま病院へ担ぎ込まれ、幸いにもその後意識を取り戻した。しかし、あの嵐の出来事を覚えている者はいなかった。依然として残りの乗組員とシルヴィオの行方は知れなかった。




 数日後、海岸を散歩していた老夫婦が砂浜に横たわった一人の男を発見した。慌てて旦那が人を呼びにいくと、後に残った老婦人がふと倒れている男の顔を見ると、なんとシルヴィオその人であった。


 その後、駆け付けた人々によって病院へ運ばれたシルヴィオだったが、すぐに意識は戻らなかった。

 三日後、シルヴィオはようやく意識を取り戻した。目を覚ましたシルヴィオに人々はあの日何があったかを問いただしたが、シルヴィオは黙って病院の天井を見ているだけだった。


 シルヴィオが目を覚ましてから数日が経った。


 それまで天井ばかりを見ていたシルヴィオだったが、突然ベッドから跳ね起きるとすごい速さで外へ駆け去って行った。


 突然の出来事に面食らった人々だったが、これは大変だと次々にシルヴィオを追いかけて行った。


 風のように走るシルヴィオは港にかかる桟橋の先に辿り着くと、どかっとそこに座り込んだ。後から追い付いた人々が、口ぐちに座っているシルヴィオに尋ねた。


「一体どうしたんだ」


「何があったんだ」


「おい聞いてるのか」


 皆がこれまで聞きたかったことをまくしたてて話しているのに、シルヴィオの目は真っすぐに水平線を見つめていた。


「見張ってなきゃ、見張っていないと……」


 シルヴィオはただそう呟くだけであった。


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