僕は男です
「おはよう」
別に誰かいるわけでもないが写真に向かってあいさつをする。
朝の五時半。まだ誰も起きてない中キッチンへ。
今まで使っていた家と勝手が違うのでいつもより早起きして仕度を始める。まずはお弁当から。
「んー……こんなもんかなぁ」
今までは自分のだけだったけど今日からは三つに増えた。一つは自分用、一つは昨日からお世話になってるおじさんの分、もう一つは
「あれ、おはよう。何してるの?」
彼女の分だ。
「あ、おはよう。早いね」
「康こそ早いね……じゃないわよ。何してるの?」
「お弁当の準備と朝ごはんの仕度」
「えぇ? いいよ。そんなこと私がやるから」
「気にしないでよ。今までの日課だったから癖なんだし、お世話になるんだからこれくらいしないとね」
彼女は昨日からお世話になるおじさんの娘、つまりは従姉の彩音。同い年だ。
なぜお世話になってるかというと親の事故死が原因。
元々裕福ではなかったが親が死んで生活費と学費に困り学校やめようかな、と思っていたとこにおじさんが一緒に住まないかと話を持ちかけてきてくれた。
そして昨日、引越しと転入手続きが終わって今日から新生活、の朝。
「そういう問題じゃないのよ。大体、私よりおいしいものを作られたら立場ないし」
「なんでさ。僕の料理ならおじさんも食べたことあるし今更じゃない?」
「そうじゃなくて、学校で……友達とご飯食べたときにおかずの交換とかするから。味が違ったら、その、いろいろ聞かれるじゃない」
「聞かれる? 何を?」
「いろいろよ。味が変わった理由とか。――同棲ばれたらどうすんのよ」
「なんで? 従姉だし何か問題ある?」
彩音は沈黙したままうつむいてしまった。
「あ、もしかして好きな人が居るから困るとか?」
「――! っち、違うわよ馬鹿」
彩音は真っ赤になってしまって落ち着きがない。
そうか、そういうことなのか
「なるほどなるほど。OK、了解了解」
「馬鹿馬鹿、勝手に納得するな」
朝から彩音と弁当を作るだの作らないだの何だのと、言い合っていたら準備が遅れ、おじさんが起きたときにはまだ朝食が準備し終わっていなかった。
「あ、おはようございます。おじさん、もう少し待ってください」
「いいよいいよ、そんなに急がなくても。しかしそうやって二人してキッチンに立ってると姉妹みたいだな」
「……やめてください、これでも男です」
「そうよ、父さん。康は男よ」
「それは知ってるが、つい」
僕の唯一の悩み……それが自分の容姿だった。
どうやっても女の子に見られてしまう。母親似という事もあるが父親も童顔でどちらかというと女顔と言っていいと思う。それに加えて、高校になっても髭が生えてこない。生えてくれば少しは男っぽく見えるのだろうが……。しかも髭だけでなく無駄毛がまったくと言っていいほど生えない。彩音は羨ましいと言っているが自分としては生えて欲しい。少しでも男っぽく――
「はぁ、もういいです。ご飯できましたよ」
「お、ありがとう。では、いただきます」
『いただきます』
食事も終わって登校準備。
「康、着替えた? 入るよ」
部屋に彩音が入ってくる。
「あ、彩音。ちょうど良いところに。ネクタイって締めたことなくて」
今までが学ランだったので、ネクタイを締める機会がなかったから。
「まぁこんなもんかな」
「ありがと」
ネクタイを締め終わった綾音がジロジロと眺めてくる。
「……何さ?」
「康、さっきはあんなこと言ったけど」
「ん、何?」
「スカート履かない?」
「はぁ……履きません」
「ここが職員室。私は教室に行くから、じゃね」
「うん、ありがと」
彩音が居なくなると正直心細い。
職員室などただでさえ入りづらいのに、知らない学校の知らない教師ばかりの中に入るのはさらに躊躇われる。しかも、ここ篠原学園はマンモス校で高等部だけでも二千人を超えるのだ。教師の人数も半端じゃない。
「けど入らないといけないしなぁ」
「何してるんだ?」
「ぅわあぁぁ!」
ノックしようとしていたら後ろから声をかけられた。
「早く教室に行きなさい。HRに間に合わなくなるぞ」
「お、脅かさないでください。えっと、転校生なんですが」
「何だ、情報が早いな。転校生が気になってきてみたのか?」
この先生は何か勘違いをしているらしい。
「いえ、僕がその転校生なんです」
「あっはっは、何を言っている。転校生は男だぞ。君はどう見ても女じゃないか」
「あのですねぇ……どう見ても制服が違うでしょう?」
そう言って手を広げて制服アピールしてみた。
「確かに。君は男装が趣味なのか?」
「なっ」
ま、まさかそう返されるとは…………ありえない。今までにない初めての経験だ。
「特待、ではないはずだ。うん、見たこと無いな。趣味は個人の自由だと思うが学校ではちゃんとした制服を着なさい」
「いやいや、ちょっと待ってください。僕は男ですって、ほら」
そう言って先生の手を取り自分の胸に当てる
「な、何を突然、ん?」
「ほら、男でしょう? わかってくれました?」
「ほ、本当に男?ツルペタな訳ではなく?」
そういいながら先生は僕の胸をぺたぺた触る
何で僕は男に胸を触らせているんだろう、などと考えていると
「さっきから職員室の前で何を」
職員室の中から若い女の先生が出てきた。最悪の場面、最悪のタイミングだ。
「きゃぁぁ! も、森先生。あなた何をしてるんですか」
「い、伊藤先生。はっ!」
森と呼ばれた先生は僕の胸を触っていたのを思い出し慌てて手を離す。
「ち、違います、誤解、誤解です」
「誤解ですって? 今目の前で起きたことのどこが誤解なんですか?」
……すべてが誤解なんですが。
「転校生が来ないと思えば職員室の前が騒がしいので何事かと……まさか。まさか、森先生が女生徒の胸を触っているとは」
「あの、先生。僕は」
「いいのよ、あなたは。怖かったでしょう」
「いえ、別に」
実際怖いはずがない
「伊藤先生違うんです。話を聞いてください」
この誤解を解くため転校初日の朝から職員室でブレザーの前を肌蹴ることになった。
「せっかく綺麗に締めてもらったのに……」
こんな事でこれから大丈夫だろうか?