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Shake  作者: 木野華咲
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「縮毛矯正は初めて?。」

「・・・はい。」

繭の髪を手ぐしで整えながら鏡越しに話しかけてくる美容師の男の話し方は、やたら甘く馴れ馴れしい感じで嫌悪感が沸く。

「どれくらい時間かかります?。」

「4時間ぐらいかな。」

美容師に時間を確認した隆が、ケープを巻かれた繭の肩に手を添えた。

「4時間後に車で迎えにくるからね。」

「・・・はい。」

正直、どう反応していいものか困る。

というのも、隆の目的が繭にはさっぱり分からないからだ。

一体誰が、初対面初デートで美容室に連れて来られるなんて予測するのだろう。

お金は全部自分が出すから。としぶっていた繭を強引にイスに座らせた隆は、一通りヘアカタログに目を通すと繭の髪型をこと細かく美容師に指示し、先ほどのセリフと共に美容室の外へと姿を消した。


自分の髪にパーマ液が塗りこまれるのを見ながらも、いまだ繭は納得がいかない。

彼氏や彼女に自分の理想を押し付けようとする人間は確かにいる。だが繰り返し言わせてもらば、隆と繭は今日が初対面なのだ。

勿論ただの気まぐれという可能性も消せないが、どちらにしろ、失礼に値しかねない行為。いじられる側の人間の意志は尊重すべきだろう。

爽やかスマイルの身勝手男。やっかいな相手と関わってしまった。

脳裏に浮かんで消えない後悔の文字に、今日何度目かわからないため息が口から漏れていた。



「サラッサラでしょ?触ってみて。」

4時間も過ぎてみればあっという間である。

2度目のヘアアイロンをあて終えた後、繭の髪を手ぐしで整えながら美容師が自慢気に尋ねてくる。

縮毛矯正の存在は知っていたし、実際かけている人間も知ってはいるが、こうして自分がかけてみると確かに凄いものだと思う。

あのボリュームとうねりは一体どこへいってしまったのか・・・。

ストンと真っ直ぐおさまっている髪に触れると、指がなめらかに滑って通り抜けた。


「彼氏もきっと驚くよ。」

嬉しそうな美容師の顔に、ひきつり笑いでかえす。

二度と会うことがないかもしれない美容師に、彼氏じゃないですと必死で否定するのもバカらしい気がして、ここはスルーしておくことにした。

「いらっしゃいませ。」と美容室の入り口の方から別の美容師の声が響き、繭の髪をいじっていた美容師が、入り口に顔を向け「あっ。」と声をあげた。

「お迎えがきたよ。」

肩をポンッと美容師に叩かれたと同時に鏡の中にうつったのは、こちらに向かって歩いてくる隆の姿。

「どうですか?一段と可愛くなった彼女は。」

そうニタニタと笑う美容師を鏡越しに睨みつけたい気分になったが・・・。

「いいね、すごく似合ってる。可愛いよ、繭ちゃん。」

鏡の中の繭をしっかりと見つめ、恥ずかしげもなくそう言う隆に、寒気がはしるほうが先だった。


「あ・・・りがとう。」

勝手にヒクヒクと口元がひきつり、とてもうまく笑えそうにない。

これが圭吾に言われた科白だったら、飛び上がるではすまないほど嬉しかったに違いない。

とはいえ、圭吾が絶対にそんな言葉を口にする人間ではないことぐらい、繭はよく知っている。

それでも何故か、無性に圭吾の顔が見たくなった。



「ありがとうございましたー。また来てね」

隆が会計を済ませた後、先ほどまで髪をいじっていた美容師の見送りに、ペコリと頭を下げてかえす。

また来ます。とは絶対に言いたくないので、あえてここは無言を貫いた。

そのぶん隆が「またお願いします」と例の爽やかスマイルを美容師に向けている。その手でしっかりと、繭の右手を掴みながら。


「車、そこのコインパーキングにとめてあるから。」

手を引かれて歩き出した繭に拒否権はない。

外は夕暮れを迎えているというのに、女子高生を連れまわすのに何の疑問も感じないのだろうかと首を傾げたくなる。

もっとも、今日はバイトの予定もいれていないし、繭の帰りが深夜だろうが翌朝だろうが、繭の両親は気にも留めないのだけれど。

「せっかく綺麗になったんだし、次は服かな。」

ボソッと独り言を呟いた隆に、繭の中で若干焦りがうまれた。

「あのー・・・。」

「ん?。」と向けられた顔には、やはり爽やかスマイルが浮かんでいる。

「そこまでしてもらう必要がないというか・・・何というか・・・。」

うまい言葉が見つからない。せめてその胡散臭い笑顔だけでも何とかしてもらえれば、もっと脳みそも働くというのに。

困って俯いてしまった繭の頭上から、隆の笑い声が響いた。

「気にしなくていいよ。女の子が可愛くなるのを見るのが好きなんだ。それに・・・。」

身体を屈め繭の顔を覗き込んだ隆が、視線を促すように顎で前方を指す。

「お金は持ってるから。とはいっても、親の金だけどね。」

笑う隆につられて顔をあげた先には、車のことなどよく知らない繭が見ても分かる高級車が、夕焼けにボディーを輝かせ停まっていた。



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