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「島村 隆くん。K大の1年生でね、元の友達なんだけど、優しいし、頭いいし、しかもカッコイイでしょ?かなりお勧め。」
自信満々の笑みを浮かべ恵が隣に立つ男を紹介すると、男がペコリと頭を下げ、極上のスマイルを繭に向けた。
「繭ちゃんよろしくね。」
白い歯がひかる、爽やかさを絵に描いたような男。それが逆に胡散臭い。圭吾に少しでも似ていれば希望はあったかもしれないが、残念ながら苦手なタイプだ。
恵と今日の約束を交わしたのは、3日前、学校の教室でのこと。
選択授業以外で恵と言葉を交わしたのは、3年になって初めてだった。
まさか恵が本気だったとは・・・。
男を紹介するなんて、あの場限りの話しだとばかり思っていた繭にとって、これは意外な展開だった。
慌てて何だかんだと理由をつけて逃げようと試みたが、まさに後の祭状態。結局強引な恵の指示通り、こうして待ちあわせ場所に指定された公園に立っているのである。
すぐ傍を駆け抜けていく小学生の姿を見ながら、様々な意味を含めたお得意のため息が口から漏れた。
「ちょっと、繭ー。何でため息?ありえないでしょ?。」
気づかなくてもいいところだけはしっかりと気づく恵に苦笑してしまう。
しかしこの男も一体何を思ってこの場所にいるのか。爽やかスマイルを崩さない隆にチラリと視線を向けた。
元というのは恵の今の彼氏の名前である。
その友達というだけあって180近い身長に引き締まった身体。サイドをバックに流し、前髪が長めの黒い髪。カッコイイと言われれば確かにカッコイイ部類に入るのかもしれない。腕からのぞいているブランドの時計は、大学生がつけるにはいささか高級すぎる気がするけれど。
「とにかく、あとは二人で楽しんでよ。私これから元とデートだから。」
繭としても恵が帰ってくれるのは好都合である。
見合いの仲介人のごとく薄い笑みを浮かべ手を振って去っていく恵を見送りながら、この場をうまく切り抜ける文句を頭の中で必死に探した。どこからどう見ても繭と隆が並んで歩くのは不釣合いなのだから、隆が繭を拒絶してくれれば楽なのに。と僅かに期待をしながら。
恵の姿が完全に見えなくなり、期待もむなしく何も動こうとしない隆にむかって口を開こうとした時。
「どこか行きたいところある?。」
胡散臭い爽やかスマイルが繭の方を向いた。
「いえ、別に。」
そう聞かれてしまうと、「帰りたい。」とも言いづらい。だが咄嗟に行きたい場所など思いつくわけもなく。
「なら俺にまかせてよ。」
当然のように手をとられ、繭はポカンと隆を見上げた。
引かれるがまま進みだした足が、公園の乾燥した土を蹴り煙を巻き上げる。
完全にタイミングを外してしまった。だからこの手の男は苦手なのだ。