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Shake  作者: 木野華咲
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「前々から一度聞いてみたかったんだけど、繭ってさぁー、何で男途切れないの?。」



選択授業は面倒くさい。

隣に座る野木のぎ めぐみに眉を顰めながら、飯塚いいづか まゆは心底そう思った。


世間的に見れば低ランクの公立高校。

進学コースの3年の選択授業に、受験とは全く無縁の情報処理なんてものが組み込まれているのがそのいい証だ。それを分かっていながらわざわざこの授業を選択しているのは、進学コースにいながらも、進学への意欲が全く沸かないという理由からである。

仲の良い友達は全員、センター受験者向けの科目別集中コースを選択した。今頃は必死で机にしがみついている頃だろう。

それに比べやる気のない人間が集まるこの教室は、授業中にこうしてくだらない話が出来てしまうほど平和なのだ。


同じクラスの恵とは、高校入学当初こそ少し話す機会があったものの、今となっては同じ教室にいても全くと言ってよいほど接点が無い。それでも選択授業に限り、数少ない同じクラスの人間のよしみで、こうしてたまに繭の隣に座っては、くだらない話を上から目線で切り出し始める。

パッチリ二重の目、淡いピンクの唇。一体朝何時に起きるのだろう?と思う綺麗に巻かれた黒髪が、繭の目の前で揺れている。

成績こそ繭に劣るものの、それ以外、特に外見では、確かに恵は繭を遥かに上回っていた。


「選り好みしないから?。」

としか答えようがない。

同じ巻いている髪でも、こちらはただの天然パーマ。重たい一重の目に、痩せっぽちの身体。自分の容姿がいいからもてるのだ。なんて一度も思ったことはない。

実際、中学までは男子から敬遠されていたし、初めて彼氏と呼べるものが出来たのは、高校入学後に友達に無理やりされた化粧で、自分が意外と化粧栄えする顔立ちだと気づいてからだ。


「誰でもいいってこと?。」

「そうかもね。」

そうかもね。というか、そうなのだけど。


基本言い寄ってくる男とは、誰とでも付き合う。

大して可愛くなくとも、女子高生というブランドが好きな男は多いらしい。

おかげで、二股、三股なんてものは年中行事なのだが、相手も繭ごときに本気にはならないから特にトラブルが起こったことはないし、相手の要望はある程度のんでいるのだから文句を言われる筋合いもないと繭は思っている。


隣から同情とも軽蔑ともとれる視線が突き刺さり、繭はそれをあえて正面から受け止めた。

同性から見れば、いや異性から見ても、繭のような女はさぞかし尻軽に見えることだろう。まぁそれは繭自身、痛いほど分かっているのだ。


「繭はそれで本当にいいの?」

ヤレヤレとため息を吐きたくなる。

友達面して説教でも始める気なのだろうか?顔を寄せてきた恵の甘ったるい香りが鼻についた。

「どういう意味?。」

「だってそれって、繭は本当に誰かを好きになったことがないってことでしょ?。」

テレビドラマの見すぎか、少女漫画の読みすぎか。よくもそんな科白を平然と言えるものだと感心する。

そもそも恵が科白の意味を本当に理解して使っているのかも、かなり疑問である。

この容姿なのだから恵は当然もてる。相手の外見ばかりを重視した恵の彼氏履歴は、繭の耳にも知らず知らずのうちにはいってくるほど有名だった。


心配されなくても好きな人ぐらいいるから。

こうぼやいたのは、心の中だけである。口にだしてしまえば、恵に話題のネタを自ら提供してしまうことになる。面白おかしく言いふらされるぐらいなら、尻軽女だと陰口を叩かれるほうがまだマシだ。


目を開けていても浮かんでくる、サラサラとなびく栗色の髪。男のくせに透けてしまいそうな肌に、深い茶色の瞳。あの男を思うたびに繭の心臓は高鳴り、急激な眩暈に襲われる。

これを好きだと言わず何と言うのか。他に表現できる言葉があるのなら教えて欲しいぐらいだ。


曖昧な笑顔で恵に答えると、何を思ったのか、恵がバンッとPCデスクを叩き立ち上がった。

「よし、私が繭に本気で恋できる男紹介してあげる」

高らかと宣言する恵を見上げ、ポカンと間抜けに口を開いてしまう。

「野木さん、今一応授業中なんだけど・・・。」

白髪交じりの教師の情けない声に、クスクスと教室に笑いがおこった。

そんな周りのことなどおかまいなしなのか、恵がガシッと繭の両肩を掴み、前後に大きく揺らした。

「私に任せといて」

ぐらんぐらんと揺れる視界に、繭は思うのだ。

やはり選択授業は面倒くさい・・・。と。




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